目が覚めた。目の前には透明の壁。シェルターのような、またそれとは違う何か。―――…此処、は?声にならない声と、キィンと響いた音を耳にしていれば、周りが騒がしくなる。

「やっと、やっとだ…!」
「私は嬉しすぎて泣いてしまいます!」
「……っ、?」

声が出ないし、耳も聞き取りにくい。どう言う事だと辺りを見渡そうと身体を動かしても微動だにしない。少しずつ慣れ始めた視界に映る目に痛いピンクと柔らかいクリーム。左右田とソニアだった。

認識した途端に流れる涙。ボロリと零れたそれが溢れて止まらない。―――左右田の手によって起こされた身体をそのままにしがみつく。二人が生きてる。今、田中の目の前で。

「ちょ、田中!?大丈夫かよ!」
「田中さん、目は見えますか?耳は?」
「っ、……あ、…!!」

声は出ない。聞き取れない。けれど、二人の顔がしっかりと田中の目の前に存在する。声にならない声で呼ぶ。学生だった頃より成長した身体は一回りは大きく、田中を支える腕は優しく背中を叩いた。緩んでしまう口端。吐き出す嗚咽。

次第に耳許で聞こえ始めた鼻を啜る音と田中の名前を呼ぶ声に、また涙が落ちた。






目が覚めて良かった。田中の顔を見て笑う日向は少しだけ伸びた髪を撫でながらも言う。田中自身も髪を下ろしている所為か、伸びている髪を乱雑に避けながら口端を上げた。

―――自身が最後、らしい。暫く現状を把握する為。全員と顔合わせする前に日向との話が先だと二人が言った結果。柔らかく双眸を細めた彼に、今は無い首元のストールを掴もうとして空振り。どうやら顔を隠す事は諦めた方がいいらしい。

「俺様は超高校級の絶望となり、様々な下等生物を殺め、のうのうと命の灯火が燃え尽きるのを待たされているのか」
「未来機関の奴等…苗木達の上司は俺達を殺そうとしてる、けど、苗木達が助けてくれたんだ。だから、」
「償ってはいけないのか」
「……は?」
「死は死を以て償うのでは無いのか?」

自分でも何を言ってるのか田中には分からない。しかし、生き物を大事にしている田中だからこそ、この言葉が出るのかもしれないと俯く。いくら絶望していたからって、自身は沢山の人を殺したのだ。記憶を上書きされている筈なのに、確かに覚えている。

断末魔。轟音。嘆き。狂喜。―――耳に残る不協和音。笑いながら育て上げた獣が人の生き血を啜る音。耳を塞ぐ。ああ、聞こえる。聞こえた。

「な、に言ってるんだよ、田中…っ!!」
「それが普通だろう!?お前は知らないからそんな事が言えるんだ!!俺様は知っている!!人が!沢山死んだ!この俺が殺したんだッ!!」

荒げた声は彼自身の叫びにしかならない。遠回しな言い方だってする気が起こらなかった。―――生きている事が嬉しくて、生きてしまった事が悔しい。

田中は『絶望』を知ってしまった。『絶望』に呑まれてしまった。救いなんて、要らないのに。

「だから、やめてくれ……っ!俺は、俺様は…!」

膝を抱えて泣きじゃくる。いい年した男がこの体躯で、と思いたければ思えばいい。田中はただ『絶望』した。今、この現状に。


by超弾丸論破2


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