目の前の光景に容姿からは想像も出来ない舌打ちを零した黒子は、手許にあったボールを全力で黄瀬の脇腹に投げ込んだ。それを眺めていた火神は「ナイス黒子!」といつもより慌ただしく駆け出して呆然とする黄瀬に飛び蹴りを食らわしてリコを見る。
黄瀬に抱き締められていたリコからすれば二人の登場は感謝しきれない部分があった。「ありがとう火神くん!」地獄のメニューを告げる時のあくどい笑みからは程遠い笑顔に顔を赤らめた火神は「気にすんな!……です!」と拙く言葉を告げてゴキブリ並みの生命力を持って復活を遂げた黄瀬をクラッチタイムに入りつつある日向に投げ込んだ。
「うちのカントクに何の用なんだよ?ああ!?」
「用っつーか、カントクさんに会いたかったんスよ!」
シャラッと音を立てるようにキメ顔で笑った黄瀬の顔に、クラッチタイムに入っていた日向を宥める為に配属された木吉の右手が食い込んだ。「流石木吉!かっくいー!」小金井のズレた声援が飛ぶと同時にオロオロとしていた水戸部の手にはハチミツレモン。どうやらリコと作っていたらしい。丸ごと入ったものと綺麗に細切りされたレモンが見受けられた。
「カントク、黄瀬くん追い出しますか?」
「え?別にいいわ。みんな楽しそうに絡んでるしね」
「貴女に近付く虫を排除してるだけですよ」と黒子は言わない。リコがそう思ってるならそう解釈してくれたらいい。ただそう思いながら「かかかっ、顔だけはやめてえ!!」と泣きべそをかいては、未だに苛立ちを隠せないに先輩ズにシメられる黄瀬から目を逸らして火神を見上げた。
「イグナイトかましますか?」
「出来れば改の方にしろ」
「何処に?」
「顔面」
「ナイスです、火神くん」
火神、黒子、リコと並んだまま、バインダーを眺めるリコをそのままに二人は拳を合わせた。
敵は黄瀬一人だ。