死んだ人間の記憶は抜け落ちる。名前を見たって、写真を見たって、それは変わらない。───死を身近に置いておきながら、僕達は死を知らない。今気付きましたと言いたげに目を細めたトレイは、クリスタリウムから持ち出したのだろうか。史書を片手にコホンと咳払いをしながらも、僕達を前に言った。マザーは、僕達を実の子のように扱ってくれる。それが救いで、それが世界で、朱雀の為に、オリエンスの為に戦うなんて戯言を零しながらも、私達は刃を振りかざしていただけでは無いのでしょうか、と。

何千と並ぶ墓石に置かれたノーウィンタグだって、死んだ人間が存在したと言う証でしか無くて、僕達は刻まれた名前を見てただ首を捻る。───クラサメ・スサヤ。僕等の隊長だった人。記録に残された彼は冷徹と言う言葉をそのまま表に現したような人らしい。レムが不思議そうに墓石を撫でる。記憶に居ない人が、僕等の傍に居た。漠然と感じた虚無感を理解してくれるのはきっと幼い頃から傍に居た血の繋がりが無い兄弟達だけだろう。風に靡く赤や金や黒や茶。僅かに青を視界に入れて、目を伏せる。

───涙なんて流れなかった。例え記録通りにクラサメ・スサヤが隊長だったとしても、今の僕達には何の意味も、感情さえも無い人間だ。だからこそ、後腐れ無く忘れられる。僕達は前に進む。だから、今はこの風と一緒に知らない貴方に、この唄を届けよう。

───死は忘却と同義だから。







これで、終わりなんでしょうか。呟いた私の言葉に涙を流したままシンクが笑う。終わりじゃないよ、始まりだから。きっと私達の命の灯火が消えたとしても、それを繋いでくれる人が居る。隠された言葉に笑い返して、唄を紡ぎ続けるエースの肩に頭を寄せた。眸を閉じれば、世界の終わりが迫るような感覚。それさえもが遠退いて、私の手を握り締めたサイスに笑いかけた。

最期の最期まで、私達は私達のままでいましょう。朱いマントと各々の武器で一つの旗を作る。痛む身体を叱咤して、助からない事を知りながら、私達は死を受け止めてそれを待った。───幼い頃から、マザーと言う母親代わりの彼女と過ごした日々は私達の一生物に違いない。まだ死にたくねェよ。呟きとも取れたナインの言葉にクイーンとケイトは涙を流した。私の手を握り締めようと、ついには視界を奪われたのか、エースが小さく嗚咽を漏らす。

まだ、死にたくない。生きたいよ。怖いよ、寂しいよ、助けて。大丈夫、俺が居るから。私も居ますよ。みんなが、居る。大丈夫、寂しくなんてないんだから。

身体を寄せ合って、やっとの思いで繋がりが見えた私達は笑う。今から死ぬのに、可笑しな話かもしれない。でも、私達はやり遂げた。今ならマザーが褒めてくれるかもな。ぶっきらぼうに言葉を紡いだサイスに、間延びした話し方で、そうだったらいいよねえ。ジャックが笑う。

「私、みんなで遊びに行きたいな」

「ルブルムまでチョコボで競争とかしてェな、コラ」

「そうですね、なら、わたくしは…ナインの後ろに乗って、読書でも、」

「俺は走る」

「エイトはいつもながらに鍛錬バカだな」

会話をしていれば、一人、また一人と眠りについていく。弔いのように唄を歌い出すエースに、私は口端を緩めたまま吹き抜けになった教室を見上げた。これで、終わりなんですね。だから、終わりなんかじゃないってば。聞こえた声に、私は眸を、閉じ、







「────みんな、寝たのか」

今までずっと戦い続けたんだ。マザーが起こしてくれるまで眠ったってバチは当たらないだろう。そう思いながら紡いだ唄が空を裂いた。こうやってみんなで寄り添うなんて、戦争中では有り得ない筈なのに、安心してしまうのは何故だろう。

「僕も、眠たくなってきた、な」

揺らぐ視界に、二人の姿を映す。あの二人はどうなったのかな。幼なじみ同士で騒ぐ姿さえ、もう見れないと思うと少し寂しい。けど、二人なら大丈夫だろう。二人なら、安心して僕達は眠りにつける。───すう、と身体が軽くなる感覚と一緒に瞳を閉じた。遠退く意識は、きっとみんなと同じ場所に向かうんだろう。

「───っ、みんな!!」

「……っ、うそでしょう……ねえ、みんな……いやっ、いやあああああああ!!!!」

僕達は、此処に居るよ。



byFF零式

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