「降旗くんの好きな子ってどんな子なんスか?」
オレの質問に飲んでいたバニラシェイクを勢いよく噴き出した降旗くんは、恥ずかしそうに唸りながら視線をあちらこちらに泳がせる。うっすらと赤くなった頬は羞恥を表していて、いざ本人からこうやって分かりやすく反応されると辛いなあとオレは笑みを浮かべたまま胸中で呟いた。
「………可愛い、よ。…多分」
「え、多分なんスか?」
「…いや、オレは可愛いと思ってるんだけど、みんなは普通だとか言ってくるから、さ」
眉を下げて、茶色の柔らかい髪で目許を隠すように俯いた彼は言う。手は近くに置いてあったらしい布巾で零したバニラシェイクを拭き取っていたけれど、動揺をした事を隠したいのか、布巾は掴んだままだった。オレはそんな彼に気付かない振りをして笑う。えー、降旗くんの好きな子気になるっス!…無理っ、絶対教えない!
勢いよく上げられた顔は真っ赤で可愛い。思わず口から出そうになった言葉を塞いで、持ち込んでいたミネラルウォーターを喉に流した。ああ、何か今のオレってば情けない顔してるかも、なんて。いきなり黙り込んだオレを心配してくれた優しさの塊にしか思えない彼は、オレをまじまじと見たかと思えば、ヘラリと笑った。
「あの子との約束があるんだ」
それ、オレ知ってるよ。「何かで一番になったら付き合ってあげる」っしょ?何その女。降旗くんってば何でそんな女好きになったんスか。それこそ、降旗くんを好きだって言ってくれる素直な「女の子」を選べばいいのに。ああ、でも、降旗くんの言う一番はバスケで、だった筈だ。
「無理っスよ」
「え、」
「海常が優勝するんで」
冗談混じりに笑った。降旗くんも笑ってくれた。