ざざん、なんて波音が耳を通る。見上げた空は憎らしい程に青くて、風に切られたように伸びる白雲とオマケのように飛ぶ海鳥が小さく鳴いたのを五感で感じながらおれは一人笑った。みんな、寝てる。こんなに天気が良くて、平和で、何も起こらないであろう日は久し振りだと無意識に思ったおれは船首であるサニーにしがみついて海を見下ろした。キラキラと反射する青が光源の具合で濃かったり薄かったりと姿を変えるものだから、おれの手は無意識に伸びて、止まる。

「いっけね!おれ、海ダメだったな」

海賊なのに海はダメ。それは海に嫌われてるから、だなんて口を揃えて人は言う。いつか誰かが「ルフィは海に片思い中だなァ!」と呑気に笑っていたのを思い出した。誰だったっけなァ、そんな事言ったのって。潮のニオイを運ぶように心地いい風が吹いて頭に乗せていた麦わら帽子が浮かぶ。左手でそれを制して、しがみついたままの状態から身体を起こしてサニーの上で胡座をかいた。

こんな時こそ、みんなで呑んで騒ぎてェのに。無意識に尖る唇は拗ねてる証拠。───20にもなる男がそんなんじゃダメだと、風に乗って聞こえた。それは確かに兄の声で、おれの口許は綻んだ。二年。確かに二年経った。大事な兄貴を目の前で失って、まるで世界に捨てられたように泣いて耳を塞いだおれとそんなおれを船長だといつまでもついて来てくれたコイツら。「幸せモンじゃなァ」と頭上に拳を落として笑ったジイちゃんに今なら言える。おれは、幸せだ。すげー、幸せモンだ。

「愛してくれてありがとう」確かに兄貴であるエースから告げられた最期の言葉はそれだった。きっと、おれや白ひげのオッサンや、多分ジイちゃんに伝えたかった言葉なんだろう。おれも、ありがとう。そう言えたら良かった。笑ったまま事切れたエースの、貫かれた事によってグチャグチャになった腹は熱くマグマを作っていて、喪失感を感じる前に絶望がおれを蝕んで、確かに助けられると思ったおれに二回目の絶望。二人目の兄の死。

涙なんか出なかった。叫んで、叫んで、許容範囲を超えたおれの身体はそのまま真っ暗に染まって、ひとりになった筈だったんだ。

───思い出を噛み締めるように見上げた空からはいつの間にか海鳥はいなくなっていて、少しだけ寂しい。不意に振り向いて後ろで身を寄せ合ったり、刀を抱えて眠る仲間を見る。エースが誇った仲間が白ひげなら、おれにはきっとコイツらだけなんだろう。ふ、と空気を揺らすように笑う。慣れない笑い方だ。いつもなら大口を開けて、ナミやゾロがキレるまで空を突き抜けるように上げる笑い声を、おれは今この喉から発していない。

「しししっ、しっかり休めよ!」

おれはもう少し、この空と海の青を一人占めしてるから、目が覚めた時は一緒にたらふく食べて騒ごうな。


byワンピース

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