本誌ネタバレ




遠いと思う。でも、影だと主張する彼のおかげで俺は此処まで諦めずに来れたんだと思った。緊張でガッチガチになった身体をどうにかしようと脳内で言葉をかけても震えたまま。俺は今、黒子達と同じステージに立ってるんだ。大丈夫。皆が居る。俺は出来る事をすればいい。

視界の端で黄瀬と1対1で行こうとした火神に声をかける。そこじゃ駄目なんだ。ヘルプが二人居るから黄瀬を抜いたとしても、後から二人に固められて終わるに決まってる。張り上げた俺の声に動きを止めた火神は、未だに緊張したまま震える俺を見て呆れたように溜め息を吐いた。だって、念願だったんだよ。お前達と同じ場所に立って、一緒にバスケをするのが俺の夢だったんだ。嬉しい。だから緊張するのだってしょうがないだろ。

駆け出そうとする海常の主将の前に立ちふさがれば、低い声を出して俺を見る。やべえ、怖い。思わず涙目になりながらも、今はこんな場合じゃ無いと叱咤してから腰を下げた。大丈夫。大丈夫だ。主将───笠松さんに向かったパスを弾いて黒子に渡す。黒子から木吉先輩に渡ったボールがネットを通った。途端、ウワアアア!と湧き上がる場内。すげえ。すげえよ。うわごとのようにそれを繰り返した俺の背中を火神が叩く。まだまだ行くぞ、だなんて。ああ、そうだ。まだ試合は終わってない。

「っ、くそ…!」

ボールを持ったまま囲まれたキャプテンを視界に入れた俺は、そのまま後ろに回って声を上げる。パスされたボールをすぐさま別の選手に投げて駆け出した。まだ終わってない。まだまだこれからなんだ。息をつく暇もない応酬。視界の端で捉えたのは黒子で。黒子が持っていたボールは火神では無く俺に回ってきた。

駆けて駆けて、いち、に、さんでボールと身体を同時に浮かせる。綺麗に入ったそれに俺は目を瞬かせて、声を上げた。叩かれる背中、撫でられる頭。これからだなと上から聞こえた声と空気に、俺は何度も何度も頷いたのだった。

───遠いと思った背中は俺の隣にあって、今では同じステージに立ってる。それを理解すると同時に嬉しくなった俺は、にやける口を押さえて目尻を緩く下げた。黒子が笑う。火神が俺を呼ぶ。キャプテンが背中を叩く。木吉先輩が頭を撫でる。俺は今、同じ場所に立ってるんだ。

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