02


「別に人間なんてそれらしいもんなくても殺せんだろ」


吐き捨てるかのように言った男。まるで人間を見下すような言い方。自分だって立派な人間だろうに。

待て待て。何に怒った?わたしが逆らったこと?殺そうとしたこと?そんなのお互い様じゃない。理不尽だ。そこを切れば絶命できると言われる首元に刃先が当てられた。



「削いでやる」


「リヴァイ」とドアが開くと共に新たに人が入ってきた。金髪で整った髪型をした男。そういえば、この世界にきてからは女性には会ってない。場違いなことを考えていたせいかあまり二人の会話は聞いてなかった。わたしに跨がる男はリヴァイというらしく、あくまで優しく諫めているのはエルヴィンという男だった。




「邪魔するな」

「何をしている」

「見ての通り躾の悪い犬を処分するだけだ」

「彼女は特別だといったはずだが?忘れたのか」

「…やっとかよ。チッ」




リヴァイとエルヴィン。彼らはわたしをどんな風に捉えてるんだろ。そういえば、わたしあのあとどうしたんだっけ。非常に聞きづらい。



「…あのー、お聞きしたいんですが」

「何だ」

答えたのはリヴァイ。

「わたしはなぜここにいるんでしょうか?」


「は?」

だって自分の足で知らない建物に入って知らない部屋で寝ていたなんて考えられないから。だから聞いてるんです。



「…もしかして、誰かが運んでくださったとかは、あったりしますかね…?」


「……俺が運んだ。問題あるか?」

「いえ、ありがとうございます」
「なあ、お前巨人殺したんだろ、それも3体。ただの一般人がそこらの武器を使うのならまだしもお前はいきなり飛んで剣を出して斬りつけたと聞いた。それにうなじを斬ったらしいな。どこで知ったんだ?そんな情報。
お前が助けた男ロビンはお前を英雄だと言いやがった。全く…こんな細っこい身体に力があるんだ?何者だ、お前」


と言ってわたしの二の腕を掴む。逃げられない状況なのは変わらなかった。エルヴィンも黙ってわたしが出るのを待っていた。




-知らない。知らない。だって何を言ってるの?



ちかちかと視界が揺らいできた。

あれ…?

答えたくないか、と聞こえた時にはぶわっと回りの雰囲気が変わった。



「……知らない。…わからない」

「?」


「きたばかりなのに殺そうとするのか。お、お前達は何が目的で…この私を、リルラを……わたしを…、っ」




英雄だなんて謳わないで。


*


「大丈夫なのかこいつ」


意識が途切れたのか眠るリルラをみるリヴァイ。



「あぁ、今は不安定だが問題は無いだろう。直に憲兵団が話をつけにくる。彼女に決定権はないが、何とかこちら側に引き寄せたいところだな」


「あるだろ、問題。どうやって巨人を殺したんだ?残骸がない分不可解で終わっちまうところを目撃者がいたらしくこいつが飛んで一斉に首に斬りかかったとよ」


「…彼女に助けられたのは、ロビンか。リヴァイ話を聞いたか?」

「いや、まともに答えない。ただ感謝してる、あの子は英雄としかな。尋問にかけるか?」


「今から行こう。我々が問いただせばいい」




名も知らぬ少女のために。
違う。見極めるために。



*




治療所に向かう足は早かった。ロビンから全てを聞くために。エルヴィンは策を練る男だ。今こうして黙っているときはむやみに話しかけない方がいいとリヴァイはわかっていた。着いたとき、ロビンは本を読んでいた。一応軽傷とは謂えど安静にするべきだろう片手には包帯が巻かれていた。兵士として復帰できる日は早いらしい。




「随分なご身分ってか?ロビン」
「…、リヴァイか」

「いつまで休んでやがる。お前は別に記憶障害でも何でもないだろう」

「あ、…それもそうだな。何だエルヴィンまで。揃いも揃ってどうしたんだ」


「単刀直入に聞こう。君はなぜ彼女に巨人を殺させた?」



一拍置いてロビンは深呼吸をした。まあ、落ち着けよ、とでも言うように。



「……あの子は道に倒れていた。少し動くから生きているんだとわかった。だから、俺は逃げろと言った。足取りが重かったから走るにはキツいかなと思って背中を押してやったのによ、あの子は人が変わったように…文字通り空を跳んで、武器を持って巨人に襲い掛かった。斬っていくうちに彼女もどこが巨人の弱点かわかったのか、そこばかりを斬って俺の代わりをしてくれたよ。殺させたなんて、ひでぇよ。あの子は俺を助けてくれた。それだけだ。……本当に命を救われた…」



-うなじだ!うなじを狙え!そうだ、そこだ!そうすれば巨人を殺―!




ほう、とリヴァイは詰めにかかった。


「ならお前は巨人の弱点を知らなかったんだな?」

「…ああ知っていたら真っ先に狙うさ」



「ロビン」



エルヴィンがブーツを鳴らしながらベッドにいるロビンにあくまでも優しく語りかける。リヴァイはそこで一歩下がった。彼はロビンの手を握りながら強く、目を見てまるでなにかを確認するかのように言った。





「きみは本当に何も知らないんだな?」



「……生きているのが不思議なくらいだ」



そこでぷっと場が和んだのか、ロビンは油断していた。




*





(「ふざけんなよ」
一瞬だった。警戒を丸出しにしたリヴァイがそこにいた。
「お前もあいつもグルだって言うのかよ、ハッ」
「よく聞けよ、ロビン。お前を次巨人が来たときは前衛に立たせるからな。そこで巨人の項をいつまでも斬ってろ。俺の権力じゃあ無理だが生憎こちらにはエルヴィンがいるからな、簡単なことだろ。」
死ねと宣告されたようだった。どうして。悪いことなどしていないのに。人類の敵でもないのに。しかし彼は抗うことをしなかった。それが運命であるかのように受け入れた。放心している彼を後にし二人は部屋から出た。)



*



結局掴めなかった。
何も成果は無かっただと思ったがエルヴィンはしたり顔でいた。苛立つリヴァイとは正反対な様子に気になった彼は尋ねた。


「…何をそんな嬉しそうなんだ」

「あまりにも知りすぎていた、それだけだ」


「…?」




実はね、ロビンは震えていたんだ。それと話を聞くからにして相当自分に余裕があったみたいだ。だって普通は具体的にあそこまで言わないだろう?まるで、彼女がまさしくそうするのを知っていた、私はそう解釈した。そして最後に聞いたんだ。本当に何も知らないんだな?と。その時の手が震えていた。加えてリヴァイの横暴さにも関わらず焦りも見せなかった。だから、不思議なんだ。
知りすぎた知はどこからやってきたのかって。
なんだい?彼は死なないだろう。相当な致命傷じゃない限りは生き続ける。これは確信だ。



-ごめんなさい。



さてリヴァイ。今日はこの辺でいいだろう。明日また彼女の所に行けば。



リヴァイはそこでやっとエルヴィンがそういう男だったのだと再び思わされた。







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