「…っ誰!」




何重にも重なった声がリルラの鼓膜を揺らした。外からじゃない。浮かぶ脳内の映像。誰かを他の者たちが讃え頭を下げていた。大きな宮殿のような場所で宴が行われていた。笑い合う者たち。楽しそうに、皆声を合わせて。王よ!と言っている。あれ、王…?こんな記憶は知らない。あまりにも断片的すぎた映像は影響が強すぎたようだ。軋むように痛む頭。思わず頭を抑えた。



「ソロモンって……」



流れた映像と声。幻でもない。ましてや嘘だとも思えなかった。なん、だっただろうか。額を押さえ再度再生しようとするがそれは叶わなかった。

わたしが世界の全てを知っているわけがない。何故ならその力は既に存在しているものだから。生きとし生けるものは全てが個であり輪である。

アラジンは自分が何者か知らないと言った。わたしも考えれば考えるほどに無知なので可笑しくなる。



輪廻の輪にいたわたしの魂を呼び寄せたのは紛れもないウーゴくんだ。いつもそう。世界に喚ばれるのはいいが、わたしはどの世界においても存在しなかった者。最強と謳われ有名になったからなりたったものの、突然現れるのだ。なのに、この世界はどうだ。私自身について何も語られていない。今までにないであろう結末に悪寒が走った。


「わたしは…、誰?」



本来、リルラという人間は一人しか存在しない。言い方を変えれば、世界に一人だ。リルラは何度も違う世界を廻り生きてきた。そこでのほかの自分の記憶は共有出来るらしく、能力だって格段に上がってきた。想像魔法に四神魔法、序でにこの世界の理の中の魔法だ。自分の魔力量は果たして如何なものか。確かめる術もないが、力を発揮しようとも思わなかった。



そういえば、こんな話を聞いた。チーシャンにある迷宮、アモン。未だに攻略者は出ておらず何百人も挑戦したが生きて帰ってくる者はいなかった。つまり死んでしまったということ。無駄死にではないだろうか、と冷めた答えに行き着いてしまった。もっと力をつけて勇気を持って望むべし。先程からでかい口を叩いているが、自分はどうなのだろう。力試しという名目で行くべきでなかろうか。何かが待っている気がするのだ。喚んでいるとの表現が正しい。
迷っている暇などない。行かなくちゃいけない。



ここから迷宮は数キロ離れているはずなのに、リルラの眼帯の八芒星が浮き出て今か今かと言わんばかりに光っていた。










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テーマ「人外ファンタジー」
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