連れていってくれない?貴方の闇を知るために。太陽が照らしてあげよう。暗闇を取り払い光の元へ、さあ、走ってごらん。


「…何を企んでるんですか」


不服そうに尋ねるモルジアナ。内緒、と笑うリルラ。元々口数が多い方ではないモルジアナはそうですかと一言返し会話は終わった。連れてかれるままについた先は領主が居座る所。




「ここは…なかなかすごい」

「黙って進め!」

坦々と当たり前かのように人を散々こき使っている。女を傍らに肩もみをさせ仕事に取りかかっている。なかなかこちらに目も暮れなかった。だけど状況を察知したのかやっとこちらを見たジャミル。




「それで何の用かな?その女の子は?」


半分呆れといった表情をする。仕事の邪魔はするなということか。


「はっ、ジャミル様…」

この男がチーシャンを統べる王?いや領主だ。気づかれないよう碧眼になりもう一度彼を見た。欲しているのは王の選定者、つまりマギだった。



「この女が、奴隷の鎖を斬ったのです!」

「…」

「―じゃあ、直せばいいんでしょ」



彼の従者が彼に言伝を伝えたときにもうジャミルの目付きが変わっていた。気を抜けば、隙を狙ってなにかをするつもりだった。直感でまずいと感じて咄嗟に赤髪の少女の鎖を直す。面倒くさくなる前に鎖の対象時間を元に戻した。繋ぎ目など無かったそれが青いひかりとともに瞬く間に形を成して元通りになった。モルジアナはずっと凝視していたが意味がわからないといった様子だった。



安心するのは早かったみたいだ。何も解決していない。お前、これをどうやった?さあ、貴方に説明しても理解できるでしょうか。口にはせず目で言ってやった。




「…疑い深いですね。はぁ、見ての通り直しましたよ。時間の流れを戻したの。すごい大変なんですよ。だからもう使いません」

「当たり前です。…じゃなくて!貴方は初めからこうなると分かって来たんですか?そんなの、」

命知らずもいいところです。モルジアナは悔しそうに背ける。現状から。それにこれ以上話すとリルラに呑み込まれそうになる。


「助けたいんだよ、どうしても」

「…!」

泣きそうに顔を歪めるリルラにモルジアナは掛ける言葉を無くす。この人はどうしてそんなに、自分なんかに執着する?



あなたは綺麗だから。汚れちゃいけないの。それだけ



交わした会話を思い出す。そうだ出会ったときから彼女はモルジアナに不気味なほどに親切だったのだ。囚われから解放するために現れた騎士のように。何なんでしょうか、この人なら悪くない。ほかほかと心が温かくなってくのがわかる。こんな状況なのに、不謹慎だ。私は、




「お前は僕のものに手を出した。その事実は変わらない。その罰を受けるべきだ、なぁ、モルジアナ?」


ぴくんと肩を揺らす少女はモルジアナと言った。そう、モルジアナね。覚えた。この子は助ける。要らないのは彼女の環境。

リルラの前髪の奥をちらつかせてるのは、名目上、金属器の眼帯。ジャミルは金目のものだと判断しそれを取ろうと立ち上がり手を伸ばす。

阻止すべくその手を掴む。そして左手にルフを集め、銀の槍を出した。別空間からこちらに喚んだ武器。


「な、なんだ…!?」

「チーシャンの領主、ジャミルよ。お前は無価値だとわたしが判断した」



槍の矛先をジャミルの首筋に当て言い放つ。死刑宣告のように。何様なんだと自分でも笑いたい。だけどこれも自分の役目である。人の生き死にさえもジャッジするなんてどっかの天使かって。

なんなんだ!捕まえろ!お前たち、こいつを捕まえろ!

動ける者などいない。すくんでいるのだ。リルラの変貌に。誰も口出し出来なかった。ジャミルだけがただ一人喚いていた。モルジアナはほっと一息ついた。良かった、と。リルラの力の方がジャミルより遥かに上だと安心したのだ。





その後、その街でリルラの姿を見た人はいないという。








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