無愛想で坦々と仕事をこなす姿にリルラは感じた。嫌々でもない、自分の使命であると。前を歩くあどけなさが残る少女はもう諦めているのでは。運命に従うことだって大事かもしれない。けれどもやっと咲いた花を摘むことだって出来やしないのだ。

勿体ないと、自然と足が動いていた。もし彼女にまだ希望があるなら、わたしは賭けに出ることにした。





じゃらじゃら、と音を立てて歩く姿は何て無様だろう。周りのみる目が変わる。一目で奴隷と疎外される。なりたくてなったわけじゃない。私には力がある。ファナリスという民族特有の力。こんな鎖だって千切れるのに。


お前は一生逃げられないんだよ、モルジアナ!



あの人の声が木霊する。結局は怯えている。あの人の仕打ちを知っているから私は逃げられない。怖くて何度足を竦めたことか。もう何年もそう。私はあの人、ジャミルに仕える他無いのだ。



「…」



世界なんて狭い。お金で人間を売買し流通する。ジャミルの力は奴隷。人間が人間を使う。いや違う。あの人は道具だと思っている。自分が頂点である「王」で、使う者であると。私なんかが逆らえるわけがない。この鎖も、昔の痛みも全部植え付けられてしょうがないのだ。自由という言葉がひどく羨ましく思った。自分で考えてまっとうに生きようとして、そうやって頑張ってみたかった。








「ね、そこのあなた」

献上品を運んでると後ろから声を掛けられた。私より年上の女の子。身なりはいいとは言えないが最低限の服装だ。片目は隠れていて顔は半分しか見えない。怪しいのに、そんな不審な感じはしなかった。


「ちょっと置こうか」



触れてもいないのに果物を乗せた器は私の隣に降りた。まるで透明人間が故意に取って置いたみたいな。


「…?」

「お話しない?」




きっと不利益な話と勘違いしてる。駄弁るだけだよ。少しの休憩くらいいいじゃない、領主様とやら。貴方は?と尋ねる彼女に旅人と返した。話なんか本当はない。彼女を試すだけ。自由になった足なら、自由に走れるから。



「…白虎(ハク)、対象を切り裂け」



リルラの声が低くなり唱える。瞬間、モルジアナの足の鎖が切れた。繋ぎ目だって無い。周囲の息を呑む音が聞こえる。リルラは知っていた。奴隷の鎖を勝手に解く行為は、貴族の所有財産の窃盗にあたり、重罪であることを。知っていたからこそわざと切ったのだ。この子の未来を救うために。モルジアナは顔を真っ赤にするだけで動こうとはしなかった。どうして、と愕然としている。





「ほら鎖は切ったよ。どこへだって行ける!」


「…!…余計なことをしないでください」





怒りを占めていた表情にリルラもまた苛ついた。何をそんなに。チャンスは無駄へと終わってしまったのか。


左目しか露にしていないのでリルラの全体の表情は読み取れなかったが、モルジアナは異変に気付く。リルラの足元の石ころが浮き沈みしてることに。




「わたしはあなたを救いたかっただけだよ。見かけの鎖を取っても逃げなかったのはそれほどあなたの心は領主に恐れを抱いているんだね」


「…知ったようなことを、」


「何も知らないわけじゃないし、全部分かれるわけじゃない」


「私じゃなくても良かったはずだ…」



「あなたは綺麗だから。汚れちゃいけないの。それだけ」





「領主様の物に手を出すかー貴様!!」



警吏がリルラの行為に気付き捕まえようと取り囲む。そうだ領主と顔を合わすことが出来るかもしれない。誰にも見えぬようリルラは口の端を静かに上げた。








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