「そんで青峰っちや桃っちにも近づかないで」
何で。友達になれたのに。アンタに否定されなきゃいけないの。そんなのエゴだ。何も正しくない。黄瀬の本性が見えてきた。嫉妬だらけで独占的が強くて自分以外の者は見下し、ひたすら栄光という輝きを潰す。黄瀬涼太。だったら、やっぱり認めさせてやりたい。わたしを。わたしの価値観を。
お願いするならもっと態度ってものがあるだろ。礼儀も何もないな。はいそーですかって従うと思わないで。
「やだ」
「…は?」
一気に声色が変わった。黄瀬は怒ってる。
「やだって言ったの。どうして黄瀬くんに命令されなきゃならないの?確かにわたしと貴方は違う、だけど、」
「わかってんなら、言うこと聞けよ。命令?上から下に物を言うなんて当たり前のことっすよ。あれ、まだ芸能界の期待の新星だっけ、そんなんにはわかんないすか?」
「最っ低、!―」
「、つ!」
こいつ人を何だと思ってる。確かに社会の仕組みではそうかもしれない。でもそれを黄瀬が言うか。突然で悪いが、ビンタしてやった。勿論パーで。痛みで気付けばいい。情けなさを、嫉妬深さを。憐れすぎる。わたし以上に。黄瀬なんてあんな黄瀬なんて、消えてしまえ。その前にわたしが消されるかな。なんか泣きそうだ。ああもう泣いてたか。
そのまま部屋を出て何処かもわからない場所を走り回った。今日走ってばっかだな。体力にそんな自信ないけど、帰るために駆けていく。携帯電話で現在地を確認した。なんだもう家は近いじゃないか。眠って、休んで、また次に生きよう。それがいい。明日はどんなわたしになろうと仮面を剥げばわたしになるのだから。
振動する携帯電話を手に取ると着信中の表示。何ならマナーモード切っておけば良かった。大事な話かもしれないのに。
「マネージャーから電話…?もしもし、」
あ、名前?と大人の声が聞こえる。マネージャーのアサミさんはオンとオフの切り替えがしっかりできる頼りある大人だ。自己管理もいいし、名前のスケジュール管理だってバッチリなわけで。両者ともに芸能界では印象が良いのだ。
「新しい仕事入ったわよ。ほら前のインタビューが好印象だったのか、ドラマの監督さんが気に入ったみたいで」
仕事が入った、ってことはまた演じられる。いい気晴らしにもなれる。しかもドラマ。
「名前と黄瀬君が同じ高校ってのもあるし、いっそ共演してみないかって話よ。
……聞こえなかった?だから次のドラマ、黄瀬君とダブル主演よ」
合間にうん、うんと相槌を入れていたのが急に切れたことに不安を感じたのかアサミさんは再度同じ事を名前に告げる。それは名前にとって爆弾に等しい仕事の話だったのだ。
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