「あ、いや」


歯切れの悪い返事をした。別に疚しいことなんかないのに。これじゃ学校のときと別人じゃないか。彼も自身も。気丈で麗しくて、ああ。わたしも堕ちたものだ。なんて情けない。だけど決して声に出さない。見栄の張り合いなどしたくないから。

というかさつきちゃんと青峰くんと知り合いだったのに愕然、のちわたしはオマケのように呼ばれたことに苛立ち募る。こんなとこで出会すとは思わなかった。しかも黄瀬は入念に変装なんかして。まずその黄色い髪をどうにかなさいよ。目立つんだよ、



「…」



揺れてく、ような。わたしの気持ち。ライバルになりたい、でもこんな最悪な奴と同等になりたくない。目指すべき場所は同じなはずなのに。まだ遠い。

こんな思考を張り巡らせるのにかかる時間は短時間。黄瀬と見つめあった時間、5秒。





「あー!きーちゃん、鉢合わせちゃったね。みんなマジバにいるからさ、そこで良かったのにわざわざ名前ちゃんがいるのに声かけなくても…」


「知らなかったスか?俺と名前ちゃん、同じ海常なんスよ!」

「こんなのと一緒とか最悪だな…迷惑かけてねえか?名前」


そこでいきなり振られても。迷惑というかこんな風にしっぽなんか振ってるの見たことありません。こいつは、どんだけの顔持ってるんだ。今二つの顔の狭間にいるのはわかる。海常のクラスメイトとしての顔と昔馴染みの友人に会えた顔。わたしは部外者にふさわしい。さっさと退場したい。




「黄瀬君はいい人だよ。気さくに話し掛けてくれるし、優しいし」


ごめんなさい、嘘つきました。勝手に人の領域に踏み込んでくる下劣な野郎です。なんて言えるわけもなく。




「その調子じゃ黄瀬も苦労してんだな、女とかに」

「そんな俺モテてないっすよー!」
「うぜ」

「ひどっ!」


なんだ、黄瀬も嘘ついてるならいいや。寄ってくる女に笑顔振り撒いてるくせに何言ってんだか。




「じゃあ、わたしはそろそろ…」

「もう行っちゃうの?…んー、応援してるから頑張ってね!!」

「…ありがとう」


この空気感に慣れたくなくて、来た道をもう一度走った。汗が頬を伝っても気にしない。それくらい怖かったのだ。悔しいくらいにわたしは黄瀬に脅えていた。


どれくらい走ったか。ショッピングモールについたときには、鞄に入れていた伊達メガネを装着して髪を結んだ。これならさっきよりもバレない。息だってまだ落ち着かない。心臓だってまだゆっくりと鼓動を打ってくれない。どくどく。だけどこの感覚が気持ちいい。絶命寸前みたいな。首に冷や汗が流れ落ちて、気が付いたときには腕を掴まれた、振り向かなくてもわかってしまうのが憎い。名前は固まったまま。次に紡がれる言葉を待った。




「な、んで…逃げるんすか?」





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