虚ろだった光景を、約束を今でも覚えているかと言われれば答えはノーだ。記憶なんてすぐに忘れてしまう。だから、目の前にいるこの男が山崎宗介だと認識するまでに時間がかかってしまったのだ。まるで、旧知の仲とでも言うように「久しぶり」なんて軽く声をかけられ。「ずっと会いたかった」と言われても急すぎて実感も湧かなかった。つまり、私が言いたいのは
「あの…、本当に山崎くんですか?」
これだけだったのだ。ちなみにここは鮫柄学園の近くのショッピングセンターだ。新しいスポーツバッグが欲しくて探しているときに声をかけられた。ちなみに松岡くんも一緒だ。二人で店を回ってるときに松岡くんが彼に気付き、こちらに来て私を認識し、今に至るわけだ。
まじかよ、なんて隣から呆れた声が聞こえた。失礼な。こんな大きい男の人、初めて見たから。一瞬、脳内にエネゴリくんが出てきてしまったのは申し訳ない。
「ああ、俺だよ。山崎宗介」
背だって桁違いに大きくなった。声だって男らしく低い声。でも、変わってないところが一つ。人の目を真っ直ぐ迷いなく見るところだ。…変わってない。
「山崎くん、」
「やっとわかったか」
「うん」
松岡くんと山崎くんは佐野小からの付き合いらしいが私はそうではない。岩鳶小だ。何故この二人の知り合いかといえば、山崎くん家の近くに小さい頃に住んでいて、スイミングスクールに通う遙くんを通じて松岡くんと知り合った。世界は狭いもんだ。
「それで、どうして山崎くんがここに?」
そして、彼は虚ろな約束をもう一度言葉にして紡ぐのだ。