ひとりはいやだ。ひとりおいてかれるのはいやだ。ねえ、助けてよ。ぶくぶく。泡になりたい。そして消えたい。泡になりたいなら人魚にならなきゃいけないのかなあ。だって人魚姫は、泡になるんじゃなかったっけ?あんまり覚えてないや。なんか、不完全燃焼って感じなんだよね。やりきった感がないんだ。そもそも何かひとつのことに対して燃える性格じゃないし。興味ないことは切り捨てるし。笑うことも少ないし。作り笑いだってすぐ見破られるし。ほんといいとこない。自分にうんざりするよ。
周りに合わせるのだって疲れた。相手もきっと気付いてる。みんなといたくないのに、ひとりを嫌う私は変な子。ちゃんと生きてるし、今だって呼吸できてるのに。とてつもなく死んでしまいたいって思うんだ。ストレスかな?諦めに近いそれを名前にするのは難しかった。
「死にたいなあ」
「水でか」
「うん」
「それは、やめろ」
「どうして?」
もしかして七瀬くん悲しんでくれたりする?聞かずとも、七瀬遙は水を愛し、水に愛された男だ。そんなところに水の中で消える命というのは彼には堪らないだろう。拒絶を示す表情に冗談も言えなかった。
「溺れて、泡になりたい」
「無理だ」
「…消えたいだけなんだ」
「駄目だ」
「どうして?」
「死ぬには早すぎる。それに悲しむだろ」
「早いも何もいなくなりたいって思うのは悪いこと?七瀬くんは思ったことないの」
「なまえ」
強く手を引かれた。どこに連れてくんだろう。今の私の顔は死んでいるんだろうな。誰といようとめったに上がることのない表情筋。
「来い」
「え」
「いいから来い」
ざぶん。お互いに制服のままに飛び込んだ。岩鳶高校のプールに。冷たいし寒い。夜には厳しかった。震える体を抱きしめる七瀬くん。
「お前はここで死にたいと思うのか」
「…」
「俺は、違う。水に入れば生きてるって感じる。もしお前が少しでも未練があるのなら」
「七瀬く、」
死ぬな、生きてくれとも言わない七瀬くんからのキスは涙の味がした。