冗談にも程がある。だってあの、まさかの?って思う人が平々凡々なわたしに、わたしに、…告白するなんて。顔が赤いのはあり得ないと思いたい。でも真っ赤だねと笑われてしまっては返す言葉だって無いのだ。クスクスと大人みたいに口を押さえて笑う様に彼は本当に同い年なのか怪しくも思えた。放課後の教室にはありきたりの設定でも組み込まれているかのように綺麗な夕焼け、そして照らされる彼の赤髪が更に映えるように視界が赤になる。太陽の赤と彼の赤。加えて自覚がそんなにない自分の頬の赤。



「好きなんだ、なまえのこと」

さも当たり前かのようにすんなりと。目を細めて言う赤司くんにわたしは言葉も出なかった。え、恥ずかしくないの?赤司くん余裕に見えますが。何で告白されてるわたしがどきどきしなくちゃならないんだ。普通逆だ。恥を持て、少年。わたしの顔をそんな真っ直ぐ見ないで。今視線泳いでるから!何て返事すればいいかもわからないから!あ、とかえ、としか言葉が出ないわたしに赤司くんはまた爆弾発言をした。



「そういうところも可愛い」



も って何ですか?自分で言うのもなんだけど女子力皆無なんです。がさつなんです。手鏡だってないし、絆創膏もない。あるのはブレザーのポケットにそれぞれハンカチとティッシュくらいだ。やめてくれ!自己嫌悪に陥ってしまう!わたしといえば、力も無いし学力だって青峰並みだ。ああ失敬、青峰とはバカ友だから、大丈夫。変な絆で結ばれているのだよ。青峰は裏切らないと胸を張って言える。ふふん。


赤司くんが何を思ってわたしに思いをぶちまけたのか。気の迷いでは?ろくに返事もせずにわたしは言葉のキャッチボールのボール自己流に投げてみた。さて、どう来るか。



「…あのですね」
「…ん?」
「その…赤司くんは、一体わたしのどこを…?」

「簡単なことだよ。クラスも部活でも一緒にいて徐々に感じたんだ。俺はなまえを好きだってね。外見や中身がどうこうじゃなくて、なまえ自体が好きなんだ」





簡単なこと…だと…!わたしにはありえないようなお話なんですがね!モブ顔のわたしをよくぞ見つけてくれた。てかさらりと恥ずかしい言葉をつらつら…。さすが赤司くんだね。クラスも部活も一緒なのは頷けるけど、特別仲良しって訳でもないんだな、これが。クラスでもいつも話すわけじゃないし、部活でもマネージャー業を坦々とこなしてるだけだし。思い返してみれば見当たる点など無いようにも思えるけど、ひとつだけあった。赤司くんはよくわたしを見ていた。話をするときは勿論、視線をよく感じていたのだ。最初は人間観察かな、と気にしなかったけどあまりにずっと続くので、気にしたら負けだと決め込みスルーしていたのだ。その時の赤司くんにまさか好きという気持ちがあったなんて…。申し訳ない!気付かなくて!だけど気付いたところでどうしようもない。どうすることだって出来ない。狼狽えてばかりで何も言えないわたしに追い討ちを掛ける。




「あ、あと強いて言えばきみはよく人を惹き付ける。そこが一番大きいな」
「わたしが…人を?」
「…どんな困難にあってもめげない。失敗しても立ち直る。…、たまにだが弱音を見せるよな」
「赤司くん!?」


ちょっと待って。この人どこまでわたしを知ってるの。弱音って黒子に言った疲れたーみたいな軽いお話のこと!?



「黄瀬も青峰もきみに惹かれているのは確かだ」
「…はあ」
「先頭を急ぐ真似をしてすまないが」
「!」



じり、と一歩こちらに近付く赤司くん。ち、近い…。ゆっくりなりまだしも結構早い。すたすた、とわたしもバックステップを踏むかのように(表現がちょっと大げさ)逃げていたんだけれど何をどう間違えたのか後ろには壁がありもうバックステップは出来なくなっていた。なまえ、とわたしを呼ぶ声。ああ、変なステップ踏んでごめんなさい。これ以上近寄られたらわたし発狂する。あ、赤司くん…!




「俺はなまえのことが好きだよ」
「…」
「黙ってるのは肯定と受け取って良いのかな?」
「…う、」



俯くしかないわたしを楽しそうにわらう赤司くん。どんな拷問やねん。



「ほら、早く」


急かしすぎでは。二人の距離は徐々に近くなってるのは明らかで。もう吐息がかかるんでは、というくらいに赤司くんの顔が迫ってた。埒があかないと諦めたかのように一瞬退いた赤司くんに油断してしまった。その一瞬、赤司くんを見ようと顔をあげたのだ。それだけだったのに。



「……!」
「…もう、返事はいらないよ」



温かいものがわたしの唇の真ん中に触れた。同じ体温を感じたそれにまた顔が赤くなったみたいで。了承と勝手に解釈した赤司くんは満足そうに笑って綺麗な指で唇をなぞった。神経のほとんどが触れられた場所に集まっているかのように敏感に反応を示した。背中をかけ上がるようなぞくりとした何かに気づかない振りをしたまま、朧気な視界で唯一の絶対を逃さないと見つめた。




title by空想アリア





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