※後味悪い終わり方
またやってしまった。大事な恋人を消してしまった。一体何度目なんだ。何度繰り返した?息途絶えた彼女を抱え笑うのはさぞ不気味だろうに。やめようとしない。人殺しだと、蔑められるだろうか。シンに、マイに。また笑ってくれるだろうか。なまえに。常識の枷が外れた俺には何を言っても所詮無駄なのだ。
「…はは」
追い詰めて追い詰めた挙げ句、彼女は選択をする。俺に殺されるか自分で死ぬか。逃げる余裕なんて与えない。お前にとっての幸せは俺といることなんだし、俺もそうだから。いいだろ?
一度目は絞殺。苦しみにもがく表情は見ていて醜かったけど、声は良かったな。トーマって何度も呼んでくれるし。やめて、とも言ってたけど残念ながら聞けない。だって殺さなきゃ俺の気が済まない。愛してるなんて生温い。もっと深くて狂気にだってなれる。やっと動きが止まったと思えばなまえの口端に流れ落ちた唾液を舐めとりそのまま口付けた。ちょっと冷たいけどそれがいい。死人とのキスなんて御免だが、なまえに関しては別問題だ。最大級の殺し文句を添えて。
「愛してるよ」
二度目は、毒殺。最近素っ気ないなまえに苛立っていた俺は罰を与えた。なまえが好きだという好物に薬を混ぜたのだ。相変わらず俺は罪な男だ。きみのうまい愛し方さえもわからない。なまえを失うことで実際俺はかなりの満足感を得ていた。本当、俺って。
「…トーマ」
感情のこもってない声で最期に遺す。ああ、何て美しいんだ。なまえ、俺だけの、なまえ。
よく三度目の正直という言葉を聞く。俺は三度目に警戒していた。きっと何かが起こるのを。だけど予想は外れていつものように、いつも通りになまえは殺された。死んでくれるのだ、俺のために。
「…、トーマ…」
三度目は刺殺。ナイフを片手になまえを抱き締めながら穴だらけにした。たくさんなまえの血を浴びた。何か言い様のない感覚を覚えた。ひとつになるってこんな感じ?ふと不可解に陥る。なまえは何時だって一人しかいないのに、それなのにどうして俺は何度もなまえを殺したのか。その都度、なまえは好きをあまり言ってくれなくなった。
そして、訪れる四度目。
「トーマったら聞いてる?」
「え?あぁ、…聞いてるよ」
「最近、上の空じゃない?何かあったのかなって、さ」
「…ん、ごめんな。実際ちょっと肩凝っちゃって」
「ふ、何それ」
本当はタイミングを見計らってたんだ。そんなこと言えるわけないだろ。だってお前は俺だけの。しばらく無言が続いた。居心地の悪いものではなかった。俺は笑顔を貼り付けた。本性を見せたらたまったもんじゃない。
「いい加減、もうつらいよ」
え、と口から思わず漏れる焦りに似た言葉。違う違う違う。なまえは別れ話を持ち掛けたのかもしれない。そうだ。そうだよ。持ち掛けられんのもどうだけど、何で俺こんなに焦ってんの。
「いつになったら解放されるんだろって思ってた。でもいつをどこでどう生きようが、――トーマはわたしを殺すんだね」
「…!」
落ち着け反復しよう。
なまえは今なんて…?
「ちょ、待っ、落ち着け」
「その動揺も怪しいよトーマ。いい加減気づいてほしかったよ。わたしとトーマは何度も繰り返してるって。」
ああ、恐れていた事態がついに起こってしまった。何で、どうして。繰り返してるってなんだよ。
「…知らないとでも思った?残念、全部覚えてるの」
トーマに殺されたこと。
「―――!なまえっ!」
嘘だといってくれ。急激に冷えていく体温。俺らしくないよ、こんな焦るなんて。
「それに、トーマだって死んでるんだよ?何度も。わたしを殺したあとに、いつも悔やんで自殺した、…推測でしかないけど。」
「ち、違うんだ、違うんだよ。俺はお前をお前だけを愛して……」
「うん」
「お前を俺だけのものにしたくて…」
「うん」
「だから、…」
今回は初めての失敗だった。だから現時点のなまえにはもう用がない。殺してしまおうか。なまえが言うにはその後俺も死ねば、繰り返せる。もっともあっちはそういう記憶付きだけど。
思い立ってからはすぐに行動を移そうと立ち上がる俺をなまえは抱き締めることで阻んだ。
「ね、トーマ。わたしトーマのこと愛してるよ」
温かいなまえの感触。だめだ、俺にはもうできない。なまえを失いたくない。
そうだ、なまえには悪いがここで二人でもう一度築き上げていきたい。更正するんだ。今までの罪を全力で正当に愛することで償おう。我ながら都合のいいことばかり考えてるが、なまえはどう思ってくれるかな。
「あれ、……?」
なまえの温もりが一段と恋しくなった。だってすごく寒い。
「だから、もうさよならダネ。わたしの未来はわたしが決めるの。ここで終わらせよう?トーマ」
すっと離れてくなまえ。左の腹にある違和感。
「っあ…、え、…どうして…っ」
「愛してるから殺した。トーマと同じ考えでやってみたんだけど。…わたしの痛みはそんなんじゃなかった 思い知って」
脱力感が一気に増える。血だって止まらない。ああほんと、後味悪い別れ方。
「さよなら、永遠に会うことはないでしょう」