ぶっちゃけると私は黄瀬涼太が嫌いだ。というより、好ましく思っていない。そう大して知り合ってもないのに嫌いという言葉で片付けるには失礼だ。黄瀬の取り巻きは黄瀬の外見しか見てないから格好いいとかしか言えない。他にもっと無いんですか。さすがにうんざりするだろうと垣間見える表情を探っても黄瀬はいつまでも笑顔だった。何でだ。ストレスにならないというのか。全くもって理解不能だ。まさに太陽と呼ぶべき存在なんだ。それで昔に流行りそうな爽やか系男子みたいだ。性格、いいのかな。



黄瀬を知ることは単純で楽だ。でも誰も本質を暴こうとしない。絶対に裏があるんだ、と意気込んでもずっとニコニコへらへら。笑顔の病気かなと思うくらいニコニコ。思った以上に出来上がった人間に不審な気持ちを抱いた。だって変。楽しいばかりじゃやってけないし。泣きたいときだってあるし悔しいときもある。前に一度だけ黄瀬が泣いている気がした場面を見たことがある。何て言うんだろう、心が泣いていた。涙とかは出ていなかったけどどこか悲しそうに遠くを見ていたのだ。でもこれは本質なんかじゃない。黄瀬は完璧な男。そうレッテルを貼り付け始めたのは何時から?誰から?ううん、黄瀬は至って皆と同じ人間だ。上下の格差もない、平等。



冒頭でも言った黄瀬涼太を嫌いという事実はやがて塗り替えることになる。





黄瀬を見るたびに胸が苦しくなってくる。疲れてるはずなのに、笑ってる。好んでない相手を観察するのはこんなにも辛いのか。違う、私が好んでいる。この現状を。泣きたいのはどっちだ。


黄瀬とすれ違うたびに香るのは女の匂いでも香水でもない。部活に打ち込んだ後に使うシトラスの制汗剤だ。青春を謳歌している。モデルという肩書きに囚われない黄瀬がそこにはいて。私はどんどん溺れていく。嫌いだった黄瀬に。嫌いな黄瀬に。



そんな感情は忘れたみたいに、黄瀬を追いかける私がいた。
本当に、正直でいていいんだって。伝えたいのは素直でいてほしいこと。





やっとのことで会えたのは放課後だった。待ち伏せするみたいに黄瀬の帰りを待っていた。面識なんて無いし、初対面だ。相手は気持ち悪がるだろう。置き換えてみればぞっとする。ストーカーかよって。あ、来た。一人じゃないんだ。周りは同じバスケ部。何とかして呼び出さないと。走れ、私。





あの、と言い終える前にすっと黄瀬は私の横を通り過ぎた。

いつもと同じ顔で、いつもと同じ香りで。
だけど、違うところもあった。

それは黄瀬が私を見たことだ。

すれ違い様に合った視線は友人に向けるのとは違った。いつもと同じはずなのに、今日だけは特別だと感じた。



「はじめまして、じゃないッスよね」






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テーマ「人外ファンタジー」
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