「ね、集キスして」
そう懇願するなまえ。そして集の袖を掴む。この終わりかけた世界でなまえは集に愛を求めた。
「何で…いきなり」
「急にじゃない。ずっと思ってたよ。集が何処か行っちゃう前に」
「だからってそんな…。…僕は絶対帰ってくる、そんな約束だけじゃ駄目?」
「だって最後の戦いで死ぬかもしれない。集は自分を責めて、死ぬかもしれないんだよ!わたし、そうなったら許さない、…だからお願い」
冷ややかな右手がなまえの頬に触れる。桜満集のヴォイドは全てを包み、吸収するヴォイド。悪も罪も。なまえのヴォイドは悪を断つ聖剣で彼と似ていた。どうせなら自分もその右手におさまってしまいたい。そうすればずっと集と一緒にいられる。
唇に感じる温もりを思いながら、なまえは集にヴォイドを託す。
「なまえ。ちょっと外行こっか」
二人だけで休みたいと集は言った。愛の逃避行をしてしまいたい。でも集は行かなくちゃならない。
嫌で堪らなかった。愛しき集が死闘を繰り広げるかもしれない。集にとっていのりは絶対の存在。だから守らなければ、救わなければならなかった。そんなのなまえが一番わかってる。集のそばにいたから。彼の痛みも喜びも分かち合ってきた。集がなまえよりもいのりを優先することは何度かあって、なまえはその度いのりを羨ましく思うが憎いと感じることはなかった。いのりはなまえにとっても絶対なのだ。三人いて成り立つ何かがそこにあるはずで。友達の心を武器にして戦う集をいのりの歌で浄化して、綺麗なままでいてほしいからとなまえが癒す。いつもこの繰り返し。
集はどこか決心ついた表情をしてひとりでに語り出す。自らの過去を。穢れた罪を。
「…なまえ、僕は誰よりも臆病者だった」
「…?」
「そんな臆病者な僕を王へと導こうとして偶然出会ったのがいのりだった。そこから僕は皆に責められて裏切られたりもした。もしかしたら、ヒーローになれるかなって淡い期待もあったんだけど、見事に駄目でさ。なまえ。きみは望む僕でないのにそばにいてくれたね。戦う集は好きじゃないって。でも思うんだ。僕が強くなったらなまえを守ることができる。だから戦い続けた。なまえがいたから、僕は桜満集でいれたんだ」
右手が光るのがわかる。やめて。一緒に連れてってよ。なまえは泣いた。顔をぐしゃぐしゃにして。託したはずなのにどうして拒むの?
「ヴォイドくらい…持っていってよ、!」
「きみを死なせる訳にはいかない」
「そんなのやだ、…集と一緒にいるって。わたしのヴォイドは駄目なの?」
「違う!もしものことがあったらを考えてるから、尚更なまえを危険な目に合わせたくないんだ…」
「集…!!」
「またね、なまえ。行ってきます」
その勇敢な右手を掴むことは出来なかった。なまえには待つだけしかできない。だが集を信じて待ち続ける。
愛しき人よ、最後のキスはまだしないでおくれ