吉田春は極めて子供だ。なんかあったら逃げるか殴るか。そんな単純思考の持ち主。この間は水谷雫ちゃんという同級生に流血させたとか。さすがは問題児。そっからはもうハルは雫ちゃんに夢中でいつもわたしにその話ばかりする。
「っでさー、雫ってば可愛いんだぜ!」
そういう言葉を言われるの嫌なのわからないかなあ。ハルから雫ちゃんの話を聞く限りは雫ちゃんもハルをよく思ってる。ああ、これは失恋決定だ。永らく幼なじみという柄でお世話になったが付き合うんだったらわたしはもういらない。
「告白したの?雫ちゃんに」
「あ?まー…な。どっこいどっこいってとこ。」
そこからの返事はしない。同じ高校で虚しくクラスは違ったのはわたしの不運。どんな風にハルら雫ちゃんを見てどんな甘い言葉をかけるんだろうか。
「……ぷ、」
「あ、てめ、何笑ってんだよなまえ!雫をバカにすんな!」
想像できない。したくもないかな。きっとベタぼれ。わたしもハルも。
そこでようやくため息をついたわたしはハルを見た。そういえば、ハルに好きって言ってもらったことないんだよな。幼なじみとして好き。とか感情あると思ったのに。雫ちゃんが羨ましい。
「なまえ…?」
ハルに言いたいし、言ってほしい。
「なまえー?」
「っえ、」
おっと、肩を掴まれて我に返った。んーとか声を鳴らしながら真正面から近づいてくる爽やかイケメンに動揺しないわけもなく、
「顔、赤けーよ。はは、」
そうやって人の気も知らないで。鈍感が。バカハル。
「わたし、ハルが好きだよ」
『ハルが好きだ』
きっと被ってる。ハルは今雫ちゃんとわたしを重ねて見てる。
「………なまえ、」
「…なに」
「オレは雫が好きだ。けど、お前も大切だ」
なんつーか、うまく言えねー。
無理しなくていいよ。そういうのは直感で口にだしちゃだめだから。
「うん」
「なまえってオレに好きだって言ってもらえればそれでいーわけ?」
「、?」
求めているのはハルの心だから、そうなんだけど。
「好きだ、なまえ。…あー、しっくり来ないんだなこれ」
「無理に言わなくていいよ…」
「でも大切だから好きってことなんじゃねーの?あれ、違うか。うー…よくわかんね。要はさ、なまえと雫は違うの」
「学力とか、容姿とか」
「お前、可哀想な奴だな。…雫はオレを変えてくれた。」
一度わたしから視線をそらすハル。今日はよく喋る日だ。
「んで、お前はオレを支えてくれた。長い間な。だからなまえと雫じゃ好きの度合いが違えんだよ!…あ」
「…」
「とにかく!オレの支えは今までもこれからもなまえ一人だけだかんな!あんま不安になんな。家庭事情もあるから、今からすぐにはその、なまえが求めている男女のオツキアイってのは難しいだろーけど、ほら」
出来かけたムードの中ハルはぶつかるような口付けをくれた。
わたしも結局単純思考なのだ。