「名前、赤司君が呼んでるってー」

わたしの周りには黒子君と黄瀬君がいた。あれから何度か顔を合わせることがあれば一緒に帰ったりもする。バスケ部が休みの日に。そうじゃなければ、出会すかもしれないから。赤い髪の奴に。お昼を挟んだ休み時間にそれは訪れた。
待って、もう一回言ってくれるかな?
赤司君は成績優秀、容姿端麗、スポーツマンと何をしても完璧な男子なわけで。そんな完璧な人に話しかけられれば誰だって嬉しいだろう。だがわたしは会いたくない。赤司君には申し訳ないがとかそんなの思ってられない。絶対前の議案会議が原因だ。まあ少しは見直すかと思ったけど全くだ。署名なんかしたって無駄な行為でしかなかった。ふと机の中にあるプリントには綺麗な字で黒子テツヤと黄瀬涼太と書かれていた。その行為はすごく嬉しかったし、何より二人の気持ちが暖かった。たった二人、されど二人。今は君たちだけでいい。


だから、忙しいからという理由で呼び出しを断ろうとしたらドアから黄色い声とふいに見えた赤い髪。赤い髪…?絶対赤司君だ。いよいよご本人登場。



「…逃げられない、か。容赦ないなぁ」





生徒会長に就任したときの台詞にもそういえば棘があったなあと思い出す。逃がさないと言わんばかりににこやかに立ち伏す。出口はあとひとつあるが、さすがに動けない。赤司くんは絶対王政派だね。



「(深呼吸、と。)…何ですか?わたしに用って」



快い歓迎なんてするもんか。誰が赤司くんなんて喜んで話すか。敵意剥き出しなわたしを見て、くすりと笑いを溢してわたしを見下すような視線で大したことじゃないけど、とわたしをガン見しながら言った。目力半端ない。





「雨の日に俺に貸してくれただろう?助かったよありがとう」

「…、?は?」



意外だった。それ以上にこいつに傘を貸した驚きのほうが大きかったけど。律儀だ。互いに敵対視してるはずなのに人としての心はちゃんとあるんだね。ふむふむ。
ていうか、周りで赤司様、とか麗しいです〜、とか言ってるけど、案外棒読みですよ赤司くん。



「…失礼なことでも考えた?名前」

ぐっと距離が縮まれば小さな声で名前を呼ばれた。名字で呼べよ。気に食わない。




「…別に、わざわざありがとうございます。」



また周りが勘違いしてうるさくなる。そんな仲良くみえる?やめてほしい、誤解だけはされたくない。はい、と差し出された傘を可愛いげもなく奪い取った。とんだ失態だ。





「…君のこと、覚えたからね」




また更にわたしに爆弾を落としていく。唯一従わないわたしを彼はどう思っているのだろうか。
向けられた笑顔にわたしが勘違いしそう。赤司くんに溺れてしまう。駄目だ、堕ちたら負けなんだ。負けてたまるか。
(あの顔は、わたしを試している?)



「最悪…」


用件が終われば、立ち去っていく姿を視界に収めればため息をつく。何だかあの目に浸食されていくのはテツヤ君でも黄瀬くんでもない、自分のように思えた。これからの未来は彼に既に握られている。そんな気がした。



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