全く今日という日はツいていない。天気予報は大外れ。ゲリラ豪雨。傘を差していても水滴は落ちる落ちる。止まらない。空が泣いてるみたいだ。易い表現を使っても別に誰も聞いてないから構わない。

空から優しい光が僕を照らす

耳から流れ込むのはアニソンから派生したアーティスト。名前は音楽で好きなものはジャンルを問わず聞いていく。

ここは始まり?まだみたいだ

何でもプロデュースしてるのが有名な音楽家だとか。ピアノの前奏から始まりやがては壮大になっていく。

思わず転びそうになったけど

ベースの音は重くのしかかりいい感じにリズムを刻んでいた。透き通る声が自然と鼓膜を響かせる。

駆け出した先に
未来が見えた気がした


あと少し、
サビが始まろうとした矢先、片耳のイヤホンが突然抜けた。誰かが取ったのだ。サビは両方で聞きたかったというのに。名前は確認しようと斜め後ろを向いた。




「黄瀬くん…おはよ」

「はよ。名前っち見付けたから傘いれてもらおーかなって思ったんすけど、無いんすね…」

「あの予報を信じたわたしが馬鹿でした。黄瀬くん傘あるじゃん、入れてよ」

「どーぞ」




傘あるのにわざわざ名前のに入ろうとする意味がわからなかった。こっちは寒くて震えてるというのに。一応パーカーのフードは被ってるもののびしょ濡れだ。黄瀬と名前が同じ傘に入れているのは、名前が黄瀬に対して"そういう"目で見ていないから。黄瀬は名前を大事に思ってるからこその親切心なだけ。



「黄瀬くん濡れちゃうよ。わたしもっと出るから入ってないと…」

「いいよ、大丈夫。女の子が体冷やしちゃ駄目でしょ」



玄関についたとき黄瀬は名前にタオルを渡した。部活で使う何枚かのうちを貸してくれた。洗って返すね。水浸しの彼はいつもよりも違って見えた。男らしさが充分に出ていたのだ。早くも夏服の彼のシャツが少し透けていた。浮き彫りになる体のラインがまた胸にくる。今更ながらかっこいいと不覚にもときめいた。



「名前っち」

「んー?」

「さっきの曲、あれもう一回聞きたい」

「…いいけど。あれ黄瀬くん知らないアーティストだよ」

「聞き入っちゃってたら歌詞に感動したんすよ。だから貸して。…タオルの貸しを返すと思って!」

「自分でいうかそれ」




サビしか聞いてないのに。まだ良いところはたくさんある。黄瀬と共有できるものが増えた。チャラになるならいい。黄瀬は笑って自分の教室に入っていった。タオルからはシトラスの香りが鼻を掠めた。











今日という日はツいていない。弁当を忘れたのだ。気付いたのは昼休みになってから。なんて不運。腹は自然に減るし、買うしかない。帝光は人数多いから購買も混む。名前は今まで利用したことはなかったがそれも終わり。ついに足を踏み入れる。
人でごった返している。おまけに女子はいない。体育系のごつい男子ばかりだ。酔ってしまいそう。直感でそう思った。押し潰されて振り出しに戻るのはどうやら当たり前だとか。



「…っ、すいません、通ります…!」


列も何も関係ないらしい。名前は順番が回ってきたと思えば抜かされるの繰り返し。いい加減にしてほしかった。


「ねぇアレ…」
「あの子じゃね?」
「おいどけようぜ」


非難の声が聞こえた。目を見開く名前。やめて、そんなことでどけてほしいわけじゃない。わたしは至って普通なのに。


「焼きそばパンとー、メロンパン一つちょうだい」



間延びした長身の男が購買の店員に向かっていう。気にしていないみたいだ。任務を終えたかのように戦利品を大量に買った兵士みたいな巨大な男はそのままこちらに歩いてくる。



「そこどいてくんない?」

「…あ、」


紫原が名前を鋭い目で見ていたのを彼女は知らない。
それでもまだひそひそと聞こえる。おさまれ、おさまれ。



「名前っち!」



周りに女の子を携えた黄瀬がこちらに来た。本人は鬱陶しくてしょうがないのだが。黄瀬は名前の存在に気付き、どうしたのと近付く。事を話すと大袈裟に反応した。



「えー!忘れたんすか?名前っち今日ツいていないっすね…」

「それわたしも思った。絶対今日占い最下位だ…」

「ん、」



手をこちらに差し伸ばす。お金を渡せば代わりに買ってきてくれた。世話になってばかりだ。



「ありがとう、黄瀬くん」


黄瀬は時々名前のことを可愛いと思うようになった。最初の出会いは最悪でしかなかったが大事な友達であり、唯一の女友達。こうやって笑いかけてくれるのにも、まんざらでもないが嬉しくなるのだ。







放課後になるとまた一人のキセキに出会した。第一声は「お前はおは朝最下位なのだよ」だ。初対面のはず。お前呼ばわりしないでほしい。「確かに今日はツいていないですよ…」「そんなお前にラッキーアイテムを渡そう」「え?」受け取ったのは何処かのヒロインアニメの武器のバトンだった。なんでこんなの持っているんだろう。それにどうして自分に?



「これであとの時間は有意義に過ごせるのだよ、またな名字」


気になることがたくさんある。確か彼は緑間真太郎。バスケ部であのキセキの世代の一人。名前とは初対面。そして星座も違うのに持っていたラッキーアイテム。

単なる優しさか、彼の性格上それ以上否めない。


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テーマ「人外ファンタジー」
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