きみを力ずくでも守り抜くと決めた。誰がってわたしが。絶対辛い思いなんてさせないって。だけどきみはいつも背負っていたね。


あの子は今でも歌っているよ。鮮明に、過酷な今を救う唄を。
わたしたちの勝利を願って








なまえは新たに産まれた。

罪にまみれた少年を救う(掬う)ため。今までと同じように未来を導くため。
手にした力は想像し創造できるヴォイド。
主人公である桜満集は王の力を手にした。彼は人からヴォイドを取り出すことができる能力。
それも極めて珍しい世界に3つしかないヴォイドゲノムを使って。




「………なまえ、?」



教室で集が訝しげに訪ねる。彼、桜満集の右手を見すぎていたらしい。本人はその鈍感さで気付いていないが、どうやら上の空だったなまえを呼んでみたのだ。浮わつきすぎていると、時々集はこうやってなまえを呼び寄せる。何処か遠くを見据えた彼女に置いていかれないように。


「あ、あぁ何?」

「何でもないよ。呼んだだけ」



そう目が合えば集は用は終わったというように前を向いた。なまえと集の周りには友人が何人か集まっていた。
校条祭、草間花音、寒川谷尋に魂館颯太。クラスメイトである。



「聞いてよ、颯太ったらまた楪さんに付きまとってるんだよ!あのEGOISTだーって追いかけ回すと楪さんもきっと大変だよ」

「楪さんね、あの子綺麗だよね。その気持ちわかる!集も確か好きって言ってたよね?」


「べ、別に僕は好きとかじゃなくて!」


ただ綺麗な声で歌うから、好きとかそういう感情は入ってない。集は皆まで言わなかった。これ以上否定したって誤解を招くだけだからだ。

祭はEGOISTをよく知らない。政府軍に反抗するクーデターの歌であり、きっといのりがその一員であることも。



横で嫌な笑い方が聞こえた。谷尋だ。なまえは谷尋を名字で呼ぶ。


「お前は颯太に続いて2号だな」

「は?誰かさんと違って追いかけ回してないし」

「そうか」


谷尋との会話は長くは続かない。どこか壁のあるような。一線が引かれているのだ。彼自身の領域には誰も踏み込めない。

だからといって仲良くなる気はない。互いが互いの本性を見せ合わない限り。



お喋りは終わり、それから何時間か授業を受けた。技術が発達している日本には便利な道具だってたくさんあった。ここ数年で日本の行く末は既に他国に握られるようになった。
ロストクリスマス。忌まわしき大惨事。あの時から、全てが始まったのだ。終わりの来ない悲しみが。





*





桜満真名をなまえは知っていた。鍵となる人物。初めてなまえが救おうと考えた人物。姿は楪いのりにそっくりであった。いや逆、いのりが真名に似ているのだ。
ロストクリスマスの前に、もっと前に、真名が正常であるときに、

それは真名も生まれる前の話。なまえと真名は一度会っていた。偶然から成り立つ空間で。なまえはそこで忠誠心を見せたのだ。


「真名。わたしは貴方を救うと約束する」


そして決まって真名は厭らしく笑いこう言うのだ。


「出来るの?貴女がワタシを?ふふっ」


「必ず救ってみせる。」



たとえ終末が訪れようとも。


「集も真名も、同じ。もしぶつかりあったとき中和なんてされない。だからわたしの力は集に捧げる。戦うことになってもわたしの剣は貴方を浄化する」

「頼もしいのね、期待はしておくわ」



またね。

その言葉の意味は果たして。
突然編入してきたいのりのことなのか。
なまえがまた逢えることなのか。
二度目はまだ来ない。







*




日本は軍国みたいに兵器がある。なまえがかつて生きた世界とは科学的に進歩しすぎていた。GHQやら何やらに制圧されたりそれに歯向かうためにできたのが葬儀社で。なんか出来すぎた正義と悪みたいな世界だ。
従うものと抗うもの。
意志が強いのは、




「楪いのり」


まるで宣告をされたような気分だった。名前くらいわかる。それでも自らをなまえの頭に刻み付けたいのかいのりは続けた。本当の意味はきっといのりは個人であり、誰とてもうひとつの存在はないということ。



「―いのりよ」


「わかってるよ。わかってる…」

「、!」


どうしても被せてしまっていたのが申し訳なかった。桃色の髪を二つに結い髪飾りが特徴的だ。

本人が登場するとは思わなかったのでさすがに驚いた。昼休みにこうして屋上にいることはよくあるのだがそこはいつも一人でいた憩いの場みたいなものだから、いのりがいるのは珍しい。



「なまえ、歌は好き?」

「好きだよ。貴方のファンだし」




「私、なまえの力を知りたい。計り得ない膨大さ、ヴォイドゲノムを受けていないのにどうして自らヴォイドを生成できるのか。涯から聞いたの。貴女には力がある。集とは違う神の力」


淡々と用件だけを話すいのりになまえは顔をしかめる。どこまで知ってどこまで知らないのか。


「それを聞いて…いのり、どうするの」


「答え方によってはこちら側についてもらうつもり。葬儀社の一員として、集もそうだから」


「ならわたしは集を守れるってことか。いいね、その案乗った。…だけどそっちがもし集を傷付けたりしたら許さない。彼はわたしにとっての絶対だから」


「うん、わかった」




風が二人の間を吹き抜けた。これは合図。なまえは風が吹いてる間に右手に力を込めた。光はやがて棒のように伸びてから剣という形を成していく。なまえは想像して具現化を行う力を持つ。創造するヴォイド。だが胸の内に眠っているのは聖剣なのだ。



「――鬼姫」



妖刀紅桜とは違う別の刀。昔、鬼の嫁とされた女が自らの夫を殺した際に用いた刀。鬼は剛健であったが抵抗はしなかった。何故かは知らない。剣に呑み込まれたのかその女の持つ剣には鬼が潜んでいるとのこと。ただ知っているのは鬼姫はなまえの武器ということ。

いのりは驚いたようにでもどこか期待してたかのように目を細めた。綺麗ねと言いながら、そのか弱そうな手で刃の部分に触れた。
危ないと思っても遅かった。ほんの少し触れただけだというのに彼女の指は斬れていた。切り傷で済んだのはよかった。鬼姫は血を求めるかのようにうずうずと自我をもってさらにいのりに近づこうとする。この鬼は欲が尽きることを知らない。常に貪り吸収する。



「、…怪我させてごめんね」

「大丈夫。これくらい平気」


確か制服のポケットに入っていたはずの絆創膏をとりいのりのゆびに巻く。
突拍子もなくいのりは問う。私となまえは友達?と。これにはいい答えを出さなかった。なまえは仲が良くなるまでが長いのだ。よほどの信頼を持ち合わせてなければ切り捨てられる。

友達と仲間の境界線は脆いようで固い。まもるかまもらないかの違い。集は仲間、というより守るべきもの。祭も大事な女の子。集を支えてくれるであろう、
谷尋と颯太はどうだろう。あまり気にしたことはなかった。多分今のままだと友達だ。仲間にするには互いが互いをさらけ出さなければならないと思う。


「私はなまえと仲良くしたい」

「わたしもそうなりたい。よろしくね」


よろしくなんて色んな意味があるのに。うんと素直に頷くいのりをみて心が痛んだ。
いのりはまるで人形みたいだ。操作されてるようにぎこちないときがたまにある。それでいのりをよく知らない者は彼女を化け物と形容するのだ。誰も知ろうともしないに。

「いのりはわたしの友達。少なくともそう思ってるよ。だから、信じよう」


彼女の剣とわたしの剣はただ一人を守るためにあると。





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