シンデレラ:神楽 王子:沖田 継母:近藤 姉:銀さん 姉2:土方 魔法使い:妙 ある所に、シンデレラという綺麗な娘がいた。 しかしシンデレラの身なりは、その可憐で美しい容姿とは反対に薄く汚れたエプロンドレスであった。 しかし貧乏というわけではない。 と、いうのも。 「ちょっとシンデレラ、ちゃんと掃除しなさいよ!まだ埃が残ってるわ!」 「そうだそうだ、こんなんじゃマヨネーズも食えやしねぇ」 「掃除が終わったら皿洗いだからね」 やたらとガタイのいい母、姉たちからいじめにあっていたのだ。 シンデレラはむっすりと頬を膨らませつつも雑巾でやる気なさそうに床を撫でて黙っていた。 すると野太い声がまた座り込んだシンデレラの頭上から降ってくる。 「ちょっとぉ、やる気あるぅ?まだ俺らの洗濯物もあるんだけどぉ」 「マヨネーズはまだか」 「トシに万屋、せめて一人称くらい女らしくしたらどうだ?」 「まずこの配役がありえねぇだろ」 姦しい3人の声をせめて黙って聞いていたシンデレラだったがだんだんと苛つきが露わになってきた。 「そうだ、パフェ作ってくれ」 「シンデレラ、マヨネーズ買ってこい」 短気のシンデレラは、とうとう雑巾を母に投げつけて姉二人に猛攻を浴びせる。 「うるさいネ!こっちが黙ってりゃあいい気になりやがって!!パフェなんか自分で作れ!お前!マヨネーズ、マヨネーズうるせぇんだヨ!!それしか言えないアルか!?」 すぐさま姉たちも反撃を返す。 「うるせぇよ!てめぇは今パシリなんだから黙って言うこと聞いてなきゃならねぇんだよ!分かったらパフェ作んなさい!!」 「だから銀ちゃんの方が器用なんだから自分で作れって言ってんダロ、アホ天パ!!」 「この家にはもうマヨネーズがねぇんだよ!てめぇだって困んだろうが、万能の調味料がねぇと!」 「一週間なくても困らねぇヨ!大体お前が勝手に一人で消費してるアル!しかも量が半端ないネ!小遣いから差し引くぞマヨネーズ馬鹿!!」 どうしてシンデレラが他の家族との仲が良好でないかというのも少しばかり理由がある。 今の母はシンデレラの実の親ではない。 所謂、継母というやつだ。 姉たちも母の連れ子で、つまり母とも姉とも血の繋がりがない。 シンデレラの実の母親は、数年前にこの世を去っている。 大好きな母を失い、塞ぎ込むシンデレラ。哀れに思った父は再婚をしたものの、いきなり他人の女性を母に思うことなど、まして傷心の身にあったシンデレラには到底無理なことだった。 初めこそ優しくしていた継母たちも、一向に心を開かない彼女に辟易し、苛立ちを露わにしていく。 彼女は完全に孤立し、父もそんな状態のシンデレラには気付いていたものの、気弱な性格の彼は継母に尻に敷かれている現状。 見て見ぬフリをする他なかった。 各して出来上がった今の状態に、シンデレラも耐える他術がないのである。 「そうそう、俺たちお城に招待されてるのよねぇ!」 「ほう、そうだったのか。そりゃ楽しみだな」 「相手はあの王子だぜ?上手くいきゃあ玉の輿だ。金持ちの仲間入りだな」 継母はペラリと四枚の封筒をシンデレラに見せつけるかのように姉たちに渡す。 「シンデレラの分もあるけどぉ、ドレスはないからいらないわよね!もちろん、お前たちの分はあるわよ」 「お前は大人しく家の掃除をしてな」 ぶっすりと不機嫌な顔をしながら、雑巾で適当に床を拭いて黙っていたシンデレラであったが。 「おい、マヨラー。煙草の吸殻落とすナ」 「おーっと。こりゃ失敬」 「おいおーい、掃除すんのがてめぇの役目だろぉ?文句言える立場かよー」 シンデレラは肩を震わせた。但し、怒りよってである。 「ほらほら、お前たちもとっとと準備しなさい。ドレスは用意してあるわ」 「そうだな。じゃあ行くか」 「おうよ」 3人が出て行った後とぐちぐちと不満をもらす。 「あんの野郎ども…ホントは半殺しにしてやりたいネ!」 それから一息つき、楽しかった頃の記憶がふと蘇った。 (…マミー……) シンデレラは単純に寂しかった。 意地悪な継母と姉たち、なかなか帰ってこない父。 これからもずっと召使いのような人生なんだろうか、とぼんやりと思っていると、足音が近づいてきた。 すぐさま床に這いつくばって掃除をしていたように見せる。 「そろそろ迎えが来る頃なのに遅いわねぇ。俺たちのこと忘れてんのかしら」 シンデレラのいる居間のドアが開き、入ってきた継母が呟いた直後、インターホンが響き渡る。 「来たようね。お前たち、行くぞ」 「はーい、お母様」 「おい、シンデレラ。ちゃーんと部屋綺麗にしとけよな」 そう言って玄関を出て行った。 やっと3人が家にいなくなったことに安堵し、お茶を注いでまったりと寛ぐシンデレラ。 「掃除なんてやってられないネ。適当に言っとけばいいや」 ソファに寝そべり、テレビをつけて見入ろうとするが、そわそわとしてなかなかテレビに集中できない。 「別にお城とか興味ないアル。男なんていらないネ」 自分に言い聞かせるように独り言を吐いてみても変わらなかった。 (でも、少しは…行きたかったのかも。そんな煌びやかな世界見てみたいネ) そこでふと、畑のカボチャを収穫しなければならないことを思い出した。 怠そうに立って裏口から庭へと向かう。 その間も悶々と考え込む。 (ま、どうせあんなゴリラ女どもじゃあ王子だってお断りアル。下手したらあいつら王子より高い身長かもしれないヨ) 外に出ると、後ろで人の気配がした。 「お城に行きたいかしら?」 振り返るといかにも怪しい格好をした綺麗な女の人が立っていた。 「だ、誰アル!?」 「私は魔法使い。あなたをお城に連れて行ってあげたいの」 魔法使いは美しくうふふ、と笑った。 「わ、私別に行きたくなんか…」 「美味しい料理もたくさんあると思うわ」 「行くアル!!」 「決まりね」 一瞬目を輝かせたシンデレラだが、またしゅんと俯く。 「でもドレスもないし、今から行っても間に合うかどうか…」 「だから私が来たのよ!任せてちょうだい」 魔法使いが杖を一振りすると、シンデレラの周りが光で包まれ、いつのまにか薄く化粧を施され綺麗なドレスを身に纏っていた。 「おぉー!すっごいアル!!」 「これなら全然大丈夫だわ。とても綺麗よシンデレラ。あとは…」 畑に目を向け、また杖を振ると… カボチャが馬車に、ネズミは馬へと姿を変えた。 「す、すごいアル!お姉さん、一体どうやったネ!?」 「それはまた今度よ。ほら、早く行かなきゃ終わっちゃうわ。楽しんでらっしゃい」 「ありがとうアル!全部食べ尽くしてくるネ!」 馬車に乗り込んで魔法使いに手を振る。 「あ、そうそう。この魔法は12時で解けちゃうの。それまでには帰ってきてね?」 「分かったアル!」 そうして会場である城へと向かうのであった。 ***** (すごい豪華アル!これがお城…!) 城に着いたシンデレラは、広く煌びやかな内装にすっかり感心していた。 そこではたくさんの男女が音楽に合わせ踊っているがシンデレラはそんなことには目もくれない。 料理が並べられているテーブルに一目散に駆け寄る。 (美味しそうアル〜!) シンデレラの綺麗な姿に見惚れている人たちがいることにも気付かない。 人だかりの中でひたすら食べ物を頬張る。 暫くすると、会場内で歓声が起こった。 王子の登場である。 (ん?あ、あれが王子アルか…顔はまぁいいけど私は特に興味ないし……) なおも食べながら王子を興味なさげに食べていると、騒がしくなった場内に乗じて男がシンデレラに近付いた。 「そこの貴方」 「ん?私?」 「はい。私と踊っていただけませんか?」 「えー。あんまり上手くないですヨ」 「僕がリードします」 シンデレラはあまりダンスは得意ではない。でもそれ以上に食べていたいというのが本音だ。 「…いえ、いいです。貴方に恥をかかせるわけにはいけませんので」 なんとか言い逃れようと必死だった。 「そんなことは心配なさらなくて結構です。どうですか?」 しかし男もなかなかしつこかった。 段々とシンデレラは苛立ち、少し言葉をきつくしようと思い立ったその時。 誰かがシンデレラの肩を優しく抱いた。 「嫌がっているんで、それくらいにしたらどうですかィ?」 思わぬ助けに振り返るとシンデレラは驚いた。 そこにいたのは先程注目の的であった王子ではないか。 ポカン、と王子を見つめる。 「えっ、その…」 「俺、この娘に用があるんでさァ」 「はっ、はい!すみません!!」 男はいとも簡単にこの場を離れていった。 ずっと呆然と眺めていたが、すぐさま帰る。 「あ、お忙しいところありがとうございましたアル。じゃ」 「待てコラ」 がしりと肩を掴んで動きを阻んだ。 「何アルか?」 「俺と踊りなせェ」 シンデレラは目をパチクリさせた。 「私は食べたいアル」 「おい、この俺が誘ってんだぜィ」 「知らないアル。踊りたけりゃ他の子のとこ行くヨロシ」 「まず皿離せや」 王子は持っていた皿を奪い取ろうと掴むがシンデレラも負けじと応戦する。 「やーめーるーネー!」 「どんだけ食い意地張ってんでィ!」 「初対面のお前にそんなこと言われたくないアル!」 「てめェ、ここに何しに来たんでさァ!」 「食べに来たに決まってんダロ!」 しかし男である王子が優勢で暫くすると取り上げた。 「あぁーっ!何するアルかぁ!!」 「変わった奴ですねィ。ますます気に入った」 「はぁ!?どうでもいいけど早く返すヨロシ!」 背も一頭身くらい王子の方が高いもので、シンデレラは手を伸ばすが届かない。 「お前、俺の妃になれィ」 「…は?」 眉を寄せて怪訝な表情をするシンデレラ。 「なんで私アルか」 「俺はてめェを気に入ったんでィ。猫被ってる女より楽しめそうでさァ」 「黙るヨロシ。私はお前のこと気に食わないネ。さっさと違う所行け」 「嫌だねィ」 しっしっ、と手を振って追い払おうとしたが一向に離れない。 二人の押し問答が平行線を辿っていた時。 シンデレラは気が付いた。 「あぁ〜!!もう時間アル!もうっ、全然食べられなかったネ!お前のせいだからナ!」 「は?…おい、もう行くのかよ」 「そうアル!もっと食べたかったのに…!」 シンデレラは名残惜しくもしっかりと言いつけ通り、急いで走り出した。 「おい!待てコラ!!」 「お前に構ってる暇はないネ!」 王子は追いかけたが既に距離ができていたのでなんとか馬車に乗り込み急いで家へと戻った。 「チッ…まァいい。逃がしやしねェよ」 「ふぃ〜。なんとか間に合ったアル」 家に戻り、元の格好に戻ったシンデレラはソファーに座ると一息ついた。 そこに魔法使いが現れる。 「ごめんなさい、神楽ちゃん。ガラスの靴せっかく用意したのに渡すの忘れてたわ」 「そうだったネ。後で気付いたけどドレスって裾長いから見えないしいいかなと思って」 「不自由なかったならいいけど」 「美味しいものいっぱい食べられたの魔法使いさんのおかげネ!ありがとうアル!」 「ふふ、喜んでもらえたのならよかったわ」 「それにその靴履いてたら王子に捕まったかもしれないしナ!」 「あら、王子とはどうだったの?」 「食べてるとき邪魔されたアル…」 「えぇ?せっかく王子に会えたんでしょ?」 「なんか嫌な感じの男だったから駄目アルな」 「そう…あ、あなたのお姉様方が帰ってきたようね。それじゃあ」 「バイバイ」 そう言うと手を振り返して、すぅっと姿を消した。 私も自分の部屋へとそそくさと戻った。 一階から聞こえる不満気な声をは無視して、今日の幸せなひと時に上機嫌で目を瞑ったのだった。 「シンデレラ、早く起きなさい!」 「…んー」 ドタドタと煩い足音が近づいてくると思っていたら来たのは一番ゴツイ継母だ。 「煩いんだヨゴリラ!まだ8時アル!寝かせるヨロシ!!」 「ちょ、ちょっと!今お客さんが来てて…」 「客ぅ?」 それが自分とどう関係にあるのかと苛立った。 しかし渋々と着替えて階下に降りる。 「あ、この娘でィ」 「へ?」 いきなり後方から知らない人の声がした。 …ん?待てよ、この声何処かで…… 「久しぶりですねィ?シンデレラ」 「げっ、お前は…」 王子!なぜここにコイツが… 「知り合いかよシンデレラ」 「……」 銀ちゃんに声をかけられたが昨日行ったことは内緒なので言い淀む。 「おい、忘れたとは言わせねェぞ」 そういえば結構喧嘩売った気がする。 「というわけでコイツ貰っていいですかィ?」 「どうぞどうぞ。でもコイツ扱うの大変だぞ」 「そこが気に入ったんでさァ」 「…あ、そう」 そしてこちらに近付いたかと思うと肩に担がれた。 「んなッ…お前何して…」 「何って、保護者方の許可が出たんでお持ち帰りでさァ」 「離せっ!離すヨロシ!!」 暴れるも虚しく馬車に放り投げなれた。 「痛っ」 「暴れるからでィ」 「お前が乱暴だからアル!」 神楽はまさか本当に一国の王子が自分を見初めるだなんて冗談だと思っていた。 「どうでもいいけどさっさと降ろせヨ」 「はァ?」 「お前みたいなアホに付き合ってる暇なんてないネ!」 「てめェが帰るところはこっちでィ」 ポカン、と惚けるて、ようやく事態は深刻だということを理解すると青ざめる。 「い、いやアル!帰るネ!」 「だから、今帰ってんだろィ?てめェは俺の妃になんだからよ」 (ちょーっとあしらったからって普通ここまでするアルか!?) がしりと手を掴んで目を覗き込まれ、シンデレラは少し怯んだ。 「俺に楯突いたからこうなんでィ」 「お前が私の食事を邪魔したから…!」 腰を引き寄せ、耳元でそっと呟いた。 「毎晩可愛がってやりまさァ」 シンデレラの躯がビクリと跳ね、顔が一層青ざめた。 ガチャガチャとドアをいじるが開かない。 「ちょっと止めるヨロシ!コイツ駄目アル!よくわかんないけど本能が危険だと告げてるネ!!」 「ハハハ、ほら行儀良くしなせィ。みっともねェぜィ」 「身の危険が迫ってるのにそんな悠長なこと言ってられるカ!」 「じゃあお前はあの家に帰りたいのか?虐められてんだろィ?」 「…それは、その…ってなんで知ってんだヨ!!」 「調査済みでィ」 「そ、そりゃ帰りたくないアル!でも成人するまで耐えたら「じゃあ決まりだねィ」 「話聞くヨロシ!」 シンデレラの必死訴えも虚しく馬車は走り続けるのであった。 (ま、実は一目惚れだけどねィ…) back |