ここはとある森の一軒家。
そこに親子が住んでいた。
娘は赤ずきんと呼ばれ、たいそう綺麗な女の子。

「神楽ちゃん…じゃなかった、赤ずきんちゃん。おばあさんのところにお使いに行ってくれないかな?」

赤ずきんはソファに寝転びテレビを見ていたところを邪魔され、気怠げに母の方を振り返った。

「えぇ〜?お前が行けよ駄眼鏡が」

「ちょっと!僕お母さんだよ!?お母さんにそんなこと言っちゃ駄目!」

「うるさいアル。私はニュース見るのに忙しいネ」

「ニュースじゃないじゃん、バラエティじゃん!いや、ニュースなら許すわけじゃないけど!」

「もー。大体銀ちゃんの家遠いアル。なんでこの私が行かなきゃ……」

「お使いいってくれたら酢昆布5箱「お母様、私にお任せくださいヨ」

(安い子だな……)

「道分かる?」

「大丈夫アル!!」

「途中で道草しちゃ駄目だからね?」

「うん」

「狼に話しかけられても知らん顔するんだよ!?」

「しつこい!」

そんなわけで、赤ずきんはお婆さんのところにお使いに行くこととなった。





ケーキはまだしもワインって…
おばあちゃんにあげるものじゃないアル。しかも重たいし。

まぁこれが終わったら酢昆布アルヨ!

天気がよくて気分もわくわく
スキップしながら鼻歌交じりに森を少し進むと、がさがさと草が揺れた。

身構えると、それは優しそうな…

「こんにちは、赤ずきんのお嬢さん」

狼だった。

新八に言われてることも忘れてないわけじゃないけど、どう見ても人を襲うようなそこらの狼とは違う。

……なんか、どきどきする。

「こんにちはアル、狼さん」

「何処に行くんでィ?」

「ババアにケーキとワイン持っていくネ。別にあんなちゃらんぽらんに恩なんかねーけどナ!」

「そりゃ大変だねィ」

狼さんはなぜだか、楽しそうに見えた。

「ここから遠いのかィ?」

「うーん。多分30分はかかるかナ。森の奥にあるってのは分かるんだけど…何処にあるのか正直微妙アル」

新八には大きいこと言ったけど、よく考えたらあんまり覚えてないかも。

「あァ、それなら俺が分かると思うよ」

「マジか!」

じゃあ道教えてくれないかな。
狼さんも忙しいかな?

「一緒に行きやしょうか?」

「いいアルか!?」

「いいよ」

なぜだろう、嬉しくてたまらない。
やばい、 すごくどきどきしてきた。

「お願いしますアル!」

「うん」


狼はなかなかの好感触に、にやりと笑った。




赤ずきんは狼と話していて、懐くどころか信用しきって恋心まで抱いていた。


「狼さんもここら辺に住んでるアルか?」

「ん?あァ、まァね」

狼さんの一つ一つの仕草がかっこいい。
このお使いが終わってもう会わないのかと思うととても寂しい。

「そういえば、ここから近くに綺麗な花畑があるんでさァ。おばあさんも喜ぶんじゃない?」

「そうだナ…あんな湿っぽい家に必要なのはそういう華やかなものネ」

手を掴まれて、驚いた。

「狼さんも一緒に行くアル?」

「場所わかんないでしょ?」

別れ道を左に曲がった。

狼さんはずっと手を掴んだままで、どきどきしっぱなし。

嬉しいけど、恥ずかしい…
離して欲しいけど話して欲しくない…
あぁー!何アルかこれー!!

「ここでさァ」

いつの間にやら着いていたらしい。

離れた手に寂しさを感じつつ、前方を見ると…

「き、綺麗アルな…」

一面が色とりどりの花で埋め尽くされ、蝶々はどこか踊っているように、ふわふわ舞っている様子が、眩しいくらい綺麗。
とても口では表現できない。


「こ、んなところあったアルか…」

じぃーっと見つめていると、狼さんはくすくすと笑った。

そんな様子もかっこいい。

「いいところでしょ?」

「うん、すごく!狼さんすごいアルな!」

「ここに住んで長いんだよ?」

「ほお」

「ほら、摘みに行こう」

「でもいいかナ?」

「なーに、こんなにあるんだから少し取ったって構いやしないよ」


花の方に近づいて顔を寄せる。

うーん、銀ちゃんの部屋に合いそうな色は……
こんなにあるから迷うアルなー。

花がない芝生の場所にしゃがみ、花の根元より少し上くらいを丁寧に切る。

「私もずっとここに住んでるのにネ。こんな綺麗な場所全く知らなかったアル」

「そりゃあここは結構奥だからね」

「あんまり外に出ようと思わなかったけど…また今度探検してみようかナ!」

「危ないから、俺がまた連れて行ってあげる」

「ホント!?」

「うん、いいよ」

狼さん、かっこいい上にすごく優しくて…
次会う約束までしてしまった。
やばい、顔がにやけちゃうアル!

「狼さん!」

「ん?」

私は膝立ちになって狼さんの頬にちゅ、と軽くキスをした。

「いろいろありがとアル」

お世話になりっぱなしだ。
今何も持ってないからお礼ができないけど…

ん?
狼さんを見ると、かなり驚いた顔をしてフリーズしていた。

「狼さん…?大丈夫アルか?あ!ごめんアル、ちゅーなんかしちゃって………っ!?」


言い終わる前にがしりと狼さんに両手首を掴まれたかと思うと、地面に押し倒しされ、縫い付けられた。

「わっ!お、狼さん……?」

「…あーあ。本性隠すつもりだったのにねィ」

いきなり狼さんの雰囲気が変わった。

とにかく離れようと暴れるが、すごい力でびくともしない。

「狼さん!?」

思わず声が上擦った。
でもそんなの気にしてられない。

「逃げんなよ…」

状況が飲み込めなくて、視界が霞んできた。

「狼さん…」

小さく呟くと、狼さんはハッと驚き、我に返ったよいだった。
さっきよりも瞳が柔らかくなった。

「泣くなよ…怖がらせるつもりはなかったんでィ」

困ったように笑うもんだから、ひとまず安心して拗ねたように口を尖らせる。

「…さっきまでと口調が違うアルヨ」

「慣れないことはするもんじゃないねィ。紳士を演じてやるつもりだったのに」

どうしてわざわざそんなことを?
やっぱりよく分からなくて首を傾げる。

「私を食べるアルか…?」

「…ちょっとテメーが思ってることとは違ェかなァ。まァ殺しゃあしねェよ」

う、うーん…
こんな体勢だからイマイチ説得力に欠ける。

「離して欲しいネ」

「あ、それは無理」

「ほらぁ!」

やっぱり私食べられちゃうアルか?
もういろいろ終了?

「だから殺しはしねェって…その代わりさ」

狼さんは耳元に顔を寄せてくるものだから、ピクリと身体が震える。

「俺とイイことしやせん?」

イイこと…?

「痛くない?」

「…努力する。いや、気持ちいいことでさァ」

「………。」

…なんかこれに頷いてはいけない気がする。
なにか、ということは言えないが私の危険信号が警報を鳴らしている。

「やっぱり嫌ヨ!離してー!」

「なんで?」

「狼さんの目が怖いネ!」

「そんなこと言うなィ。なァ神楽?」

「わ、私の名前を…!?」

「いや、この際神楽には拒否権ねェから」

「ひゃあああっ」

首筋を生暖かいものがべろりと這った。

意識せず出た悲鳴にか、狼さんはそれは真っ黒な悪魔のような笑顔を見せた。

さっきまでの優しい狼さんはどこに!?
これはやばい。本当にやばい。

私の恋したこの狼は、どうやらドのつくSのようで…

「安心して俺に身を任せなせィ」

「い、いやアルううううううう!!」

隙をついて腹を蹴り飛ばし、狼さんが身悶えている間に振り返りもせずに走る。

「あっ、待てィ!」

ま、待つわけないダロ!

必死で走り抜ける。
とりあえず銀ちゃんの家に行こう。そちらの方が近い。


さ、散々だったアル…
もう勘弁ネ…って。
なんでこんなに顔が熱いアルか!?
なんでさっきよりドキドキしてるアルか!?
私はマゾじゃないアル!
会いたいとか思ってないし、思ってたとしても気のせいだから!
だって私が好きだったのは優しい狼さんだし!あんな意地悪な狼さんなんか嫌いネ!

あああああああああ!
早く忘れるのが一番ネ!!



その日から、件の狼は家に通い詰めたり追いかけ回したりと、あまりにしつこく、毎日が忙しくなるのを神楽はまだ知らなかったのだった。



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