ここ数日。 心がなぜか晴れない。 土方さんに嫌がらせをしても、だ。 もやもやというかなんというか。 何がしたいのかわからない。 こんなの、姉上の彼氏が土方さんだと発覚した時以上だ。 あまり気分のいいものじゃない。 自分ではどうしようもないので聞いてみた。 「突然ですけど俺どこかおかしいですかィ?」 「は?」 「どうしたんだ、総悟。どこか悪いのか?」 「自分でも分かりやせん」 「沖田さんがおかしいのなんていつものことじゃ「てめェにゃ聞いてねェよ」 うな垂れる山崎はさておきに、二人になんとかヒントは聞けないものか。 「う〜ん…変なときなんかあったかなぁ」 「…知らねぇな。そういうのはやっぱ自分が一番分かるもんだろ」 「わからねェから聞いてんでしょ」 とは言っても特に期待できる回答がなかったので一応山崎にも聞いてみると。 「そうですね…沖田さん、たまに機嫌いいときありますよね」 「はァ?」 もやもやする原因を探ってんのに関係あるか? それにそんなときあったか…? 「いや!分かりませんけどッ!でも帰りとか、授業終わった後とかになんか嬉しそうだなって思うんですよね」 「…へェ」 嬉しいとき、か。 あんまり考えたことなかったけど。 今んとこそれしかねェよな。 「ちょっと意識してみまさァ。恩にきるぜ山崎」 「参考になるならいいですけど」 というわけで。 できるだけ意識してみた結果。 「じゃあ授業始めるアルヨ!」 嬉しいときってのはこの時間だ。 よくよく考えたら授業も真面目に聞いてるし眠気もなくなった。 英語が好きになったのか?と言われるとそうではない。 別の英語の時間は5割以上寝ているからだ。 ならば理由は一つ。 担当教師のせいだろう。 つまり。 俺は今、教壇に立っているこの女のことが…… …まさか。 確かに居残りがあった時は妙にこの教師のことを考えてたこともあったけどよ。 それはただ面白いやつだと思っただけで深い意味があったわけじゃない。 …はず。 教師に惚れるってガキじゃあるめェし。 やっぱあるわけねェ。 もやもやしてたのも授業がなくて姿が見れなかったからだって? どんだけだよ。 そこまで重症だったら流石に自分で気付くだろ普通。 …いや、授業が好きだというのを認めたとしても。 別に変な意味はねェんでィ。 絶対そうだ。 無理やり感が否めないが自己解決させた頃には授業終了のチャイムが響いた。 何事もなかったかのように教科書を机にしまっていると声をかけられた。 「沖田!」 「せ、先生」 ボーッとしていたのであまりに突然で、舌を噛んでしまう。 「ちょっと廊下来るヨロシ」 「へ、へい」 な、なんだ?心臓がドクドクとやけにうるさい。 さっきまで何もなかったのに先生に話しかけられた途端いきなりだ。 内心パニックになってはいたがそれでもできる限り平静を装いながら神楽先生についていった。 「最近ちゃんと授業受けてるアルな!嬉しいネ!」 「当たり前でさァ。もう居残りは勘弁なんで」 またあってもいいと思っているのは無視だ。 「ふふ、なんにせよよかったアル」 …あ。 まただ。コイツの笑顔を見ただけで、心臓が暴走して嬉しいのに苦しいという複雑な感じがする。 なんだよ、やめろって。 「成績は落としやせんぜィ」 「どうかナ?」 おでこをつん、と指先で弾かれた。 瞬間に心臓が跳ねたかと錯覚するくらい煩い。 「居眠りはしてなかったけど今日はボーッとしてたダロ?ちゃんと聞いて欲しいアルな?」 「ど、努力しやさァ」 「うん、その調子ネ。じゃ、頑張れヨ学生!」 先生が振り返ったのを確認して触れられた部分を右手で覆って反芻してしまう。 先生の手の感触。冷たくて、細い。 指先だけだったのがたまらなく残念でもっと触れて欲しい、いやむしろ触れたい。 やっとちゃんと分かってしまった。 俺、神楽先生が本気で好きだ。 back |