Vanishment Emotion【前編】

ある日突然だった。


「チャイナ、お前さ…俺のこと好きじゃねェだろィ?」

「え?」

「付き合ってからもてめェはそれでィ。見てたら分からァ」

「そ、そんなこと…!」

「あー、もういい。別れよう」

「っ…上等アル!勝手にしろヨ!!」

売り言葉に買い言葉だった。
その時は、まさか本気だなんて思ってもいなかった。




アイツとずっと話してないアル…
公園にもいないしまだ謝りにこないのかヨ!?


自然と沖田を探す毎日に、とうとう見てしまった。

沖田が他の女の人と歩いているのを。

聞くところによると、誤解なんかじゃなくて、本当に付き合ってるらしい。


そこでやっと気がついた。
本気で別れたこと。

それから…
私は本気で沖田を好きだったこと。


なんて自分は傲慢だったんだろう。
もう何もかもが遅い。
今更、謝ることも、自分の気持ちを伝えることも、もうできない。

泣いたってもう遅いけれど……
泣くくらいいいよネ…?





「…ん」

……そうか、ここは宇宙船の中。

なんて昔の夢を見てしまったんだろう。

自分の目に溜まった涙を無表情で拭い、躯を起こす。


あれから4年、私はエイリアンバスターになった。

父から宇宙への誘いは先延ばしにしていたけど、沖田と別れたことであの時すぐに未練なく決心できた。
あの別れで簡単に決めるほどに、沖田は私の心の中にいたんだ。

今思うと、それでよかった。
本当に。


私は結構、立派なエイリアンバスターになった。
成長した私を見て欲しくて、お世話になった銀ちゃんたちの元に今日は向かっているのだ。


アイツとは会うつもりはない。
まぁ、会うこともうないだろうけど。
お互い気まずいしネ。

そのことだけはとても憂鬱だけど、でもそれ以上に久しぶりに皆に会えるのが楽しみアル!



*****



「ぎーんちゃーん!!」

「うおっ」

久しぶりに銀ちゃんを見て、思わず抱きついてしまった。
全然変わってない。

「でもちょっと老けたアルか?」

「ちょ、会っていきなりそれ!?」

「…銀ちゃん懐かしいアルなぁ」

銀ちゃんは地球のパピーみたいな存在だったから…
会えて嬉しい。

「お前も成長したな」

「ふっふっふ…ダロ!?」

「あんなにちびっこかった神楽がねぇ」

でも銀ちゃんの方が高いんだよナ…

変わらず頭をくしゃくしゃと撫でられ、むっとする。

「もう子どもじゃないのヨ?」

「はいはいそうですねー」

「ムカつくアル!」

「ぐふっ」

銀ちゃんの腹にパンチをかましてやった。
腹を抑えて身悶えている。

「お、おま…その殴る癖直せ…」

「銀ちゃんだから大丈夫ヨ!!」

「もう銀さんも年なんですが…」

「何言ってるネ。まだ若いダロ?」

もうだらしないナ。
そんなに力込めてないもん。

「……で、他の奴らにはまだ?」

「うん、会ってない」

「おーそうか。じゃあとっとと行きなさい。皆待ってるぞ」

「うん!」

楽しみ!
姐御は今どうなっているんだろ。
新八は変わってなさそう。
九ちゃん女の子らしくなってたりして。
そよちゃんにも会いたいアル。
のぶたすはまだ見廻組にいるかナ?

「神楽、沖田君とは会うの?」

びくっと躯が震えた。

少し間を置いて銀ちゃんには笑顔でなんでもない風に装う。

「…会わないアル。アイツとは、もう……」

「…そうか」

銀ちゃんには、気付かれてるんだろう。
私がここに来て、すごく心を乱していて…でもやっぱり一番会いたいと思っている人が。

付き合ってる人がいるかもしれない。年齢を考えるともう結婚してるかもしれない。

それでも一目会いたい。

「じゃあ行ってくるネ!」

でも会わないヨ。
もう迷惑はかけたくない。
アイツに会うために来たわけじゃない。
どんなに会いたくても、ネ。

ホントはゴリやトッシー、ジミーにも会いたいけど…
沖田にバレちゃうかもしれないから。

「神楽ぁ、自分には素直にな?」

見送ってくれた銀ちゃんの笑みにはやっぱりそんなことお見通しであるように見えた。

きっと分かってる。
私が沖田に会わないでおくつもりのことを。当たり前のように。

…これだから銀ちゃんは……

大好きアル。





志村邸の門の前に着き、緊張しているものだから入るのを躊躇っていると姐御が出迎えてくれた。

「神楽ちゃん!」

「姐御!」

「聞いてるわよ、新ちゃんから。とりあえずおかえりなさい。さ、中に入って!」

「姐御…ありがとうアル!」

姐御は4年経っても美人。
いや…もっと綺麗になった気がするネ!

「おぉ、新八ぃー!」

「か、神楽ちゃん!?わあ、大きくなったね。おかえり」

「へへ、ただいまネ」

二人とも私に変わらない態度で接してくれて嬉しかった。
殺伐とした生活をしてきたっていうのに簡単にも頬が緩む。

「積もる話もあるでしょう。話しましょうよ、神楽ちゃん」

「うん!」

久しぶりに志村邸に入り、和室に座っていると新八が饅頭とお茶を出してくれた。
暗黒物質じゃなくて内心ホッとする。

「神楽ちゃん背、伸びたわねえ」

「姐御は変わってないアルな!でも綺麗になった気がするネ!」

「うふふ、ありがとう。神楽ちゃんはもう知り合いには全員会いに行った?」

「ううん…あのネ、姐御」

「ん?」

「私が今日地球に来たのは皆に会うためだけじゃないアル」

「え…?なにか用事があるの?」

「うん。実は…」


私はエイリアンバスターを管理する協会の偉い人に、縁談話を持ちかけられている。

相手に会ったことはない。
二つ年上の夜兎で、宇宙でも権力者の人だ。その相手が協会の幹部の人で、もちろん相手も良家の息子、所謂玉の輿。


「縁談は3日後アル。場所は何処でもいいからって…皆に会いたくてここにしたアル」

「そ、そんな…!神楽ちゃん、それでいいの!?」

「そうだよ、見知らぬ人と結婚なんて!」

「…うん、心配してくれてありがとう。でも、嫌じゃないアルヨ?写真見たけど、すっごいかっこいいし!」

「神楽ちゃん…」

二人とも、そんなに悲しそうな顔しないで。

「ここに来て…お礼を言いたかったアル。相手についてくつもりだからもう地球にはそんなに来れないネ」

「神楽ちゃん!いきなり過ぎるよ!」

「ごめん…姐御、新八、今までありがとう」

迷いはない。
でも、二人を見ていると私もつられて泣いてしまいそうだ。

「もう!一生会えなくなるわけじゃないんだから安心してヨ!」

「でも…」

「…ごめん、先に他の人の挨拶に行ってくるアル」

あぁ、駄目だ。一回頭を冷やさないと。

立ち上がって、にっこり笑った。

「また後で来るネ!饅頭残しておいてヨ?」

うまく笑えているはず。
…私も大人になったから。

「待って、神楽ちゃん!」

姐御は手を胸の辺りでぎゅっと握って気まずそうに、泣きそうに言った。

「沖田さんは…?」

「………」

「神楽ちゃんは、もう…」

…姐御も新八も知っている。
何も言わなかったけど、いきなりぱったりと私と沖田は一緒にいなくなったし、当時はかなり落ち込んでいた。

でもネ、今は…

「姐御、沖田とはとっくの前に終わったことネ」

こうやって堂々と言えるようになったのヨ?


*****


「…神楽ちゃんは、それでいい?」

「うん…なんかごめんネ、仕事終わりにこんな話」

「ううん、別にいい。久しぶりだし」

「のぶたすはなんだかんだ言って優しいの、変わってないアルな」

見廻組の縁側で、二人は買いに行ったドーナツを頬張りながら話をしていた。

「優しくない」

「優しいアルヨ」

暮れかけた夕日を目に映しながら、昔のことが過った。

「のぶたすは沖田とはちょっとは仲良くしてんのかヨ」

「全然に決まってるわ。会うのも稀なのに」

心底嫌そうに答える信女に、神楽からは思わず笑みが零れる。

「はっきり言うアルなー」

「安心した?」

「え?」

「私があいつと仲良くないこと」

「…のぶたすはたまーに意地悪アル」

ふっと自嘲気味に笑って、それから屈託のない笑顔を浮かべる。

「私は本当にのぶたすが沖田と仲良くなってたとしても嬉しい。これ本心ネ」

「…そう」

神楽は縁側から立ち上がり、隣の信女を振り返る。

「ねぇのぶたす…明日暇?」

「そうね」

「一緒に何処か行こうヨ。思い出作っておきたいネ」

「デートのお誘い?」

「うん、そうアル」

「行く」







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