没落姫と旅路の終わり【後編】


気付くと一面が青かった。

青く透き通った世界でこの記憶の誰かはいつも上を見上げているようだった。

どうやら、海、の中…?
私の目線がこの子だから海に注がれる日の光しか見えないけれど、でも魚や貝といった類じゃなさそう。

ふと見ると上半身は人間なのに下半身が魚。
なるほど、人魚というやつか。

不思議と違和感がないのが驚きだ。


それからこの子と共有して流れ込む感情。
……そうか。この子は陸の男の子に恋をしているらしい。



それから、なにか薬を貰って、人間になって、陸に出ようとして…



目を開けると別の場所にいた。
ふかふかしたベッドの中で視線を彷徨わせると、

『起きたかィ?』

顔を見て、驚いた。

そう、ご……?
どうして、ここに?
他人のそら似?

まるっきり総悟だ。よく似ている。世界は広いアルな。

ただ、この子が恋い焦がれていた人だというのは理解できる。

これは一体誰の…いつの…記憶なんだろう。


なんだかんだで話が進み、この子の住むところがこの総悟みたいな王子様の
城に決まった。

にしても好きな人にいきなり会えて、しかも一緒に住めるなんてすごい強運だ。

『で、お前の名前は?』

と、王子様が言った。


あ、それは私も気になるネ。
もしかしたら知っている人かもしれない。


『神楽アル』


え……

かぐら……?
私の名前と同じじゃ…?

え?あれ?

もしかして、じゃあ、この男の人は……


『神楽、か。俺は沖田総悟。よろしくな』


時間が止まったようだった。
息が苦しかった。

…他人のそら似とかじゃなくて。名前も偶然とかじゃなくて。


直接見てないからと、見て見ぬフリをしていた。

声も口調も視界の端に映る髪の色も、全部私と同じ…

総悟だってそうだ。全部全部、私が知り合った総悟と同じで。


じゃあ…もしかして……


***


「っはぁ…はぁ…」

思い出した…
なにもかも全てを。

「神楽…!おい、だいじょう…」

反射的に触れていた手をパチンと払いのける。
総悟は驚いた顔をしていた。

「お、思い出したアル…全部…」

この記憶が本当なら、私は前に…

総悟は緩く口角を上げている、でもそれはとても悲しそう。

「そうかィ。…やっと、だなァ」

「なんでそんな顔なんだヨ!?お前が思い出させたくせに!」

「だって全部、なんだろィ?」

そうだ、全部…

ぽろぽろと涙が頬を伝い、視界が滲むが、真っ直ぐに総悟を見つめた。

「ねぇ…どうして、私を殺したアルか…?」

「……」

「やっぱり私は邪魔だった…?」

「……」

「あの後婚約者の人とちゃんと結婚できた…?」

「……」

「私は今でも恨んでないけど…総悟は今までずっと恨んでるアルか…?」

「……」

総悟の無表情がとても怖くて、スカートを握りしめた手を、俯いて見つめた。

「ごめんアル…私が総悟の所に居させてもらったせいで、総悟の立場がおかしくなっちゃったなら……総悟は優しい人ネ。もっと私がはやくに出ていっていたら…」

責めてくれていい。
私は償えるなら、なんでもしたい。
許してくれなくても…

「…違う」

「……?」

「神楽がいて不幸に思ったことなんて一度もない」

―――え。

前を向こうとする前に膝まづいた総悟が私にふわりと抱きついた。

「っ!?」

「そうじゃないんでィ」

総悟は、全然怒っているようではなかった。

「神楽が謝るなんて変じゃねェか。悪いのは俺だ」

むしろ総悟の声は震えていた。
総悟は、怒ってないの…?

「…昔会ったときから、一目見たときからずっと、今でも覚えてる…」

総悟が、私を?

腕に込められた力が、嘘じゃないと言っているようだった。

「ひと、め…?」

「知ってた」

「何を?」

総悟は息を飲んで、ゆっくり吐いた。

「お前が、あの時助けてくれた人魚の子だって」

え…

「人魚だって、気づいてた、の?」

「すぐにわかった。どういうわけかお前が人間の容姿だったけれど、そんなことはどうでもいい」

でもあの時王宮では、

「婚約者の子が総悟を助けたって広まってたアル」

「あいつは偶々立ち寄って俺をみつけただけでィ。違うことは分かってたけど訂正できなかった。それに俺が知っていれば十分」

どんどん息苦しくなる。
それは嬉しいと思う反面…納得できない。

「どうして私を……」

殺したのか。

一番聞きたいことであり、一番聞きたくないこと。
でも聞かないと、進めない。

「…本当はお前と結婚するつもりだった」

「…?何の話「お前が言ったじゃねェか!幼馴染と結婚するって」

そうだ、私は総悟に迷惑をかけず独りで泡になるためにそんな嘘をついた。

「神楽が俺から離れない自信があったんでィ。神楽が俺を好いてることも知ってた」

「なっ!」

そりゃ、会いに行ったのだから、そうだろうけど!

「だろ?神楽。見てたら分からァ」

「…うん、まぁ…その…」

でもそんなに私分かりやすかったのカ?

一人心の中で慌てふためいてく。

「神楽がまさか出ていくなんて思わなかったんでィ。あの時には、もうあの女とは婚約解消してたんだぜィ?」

「えぇっ!?うそ!」

「本当でィ。…あの時神楽を帰したらもう一生逢えない気がした。神楽が他の誰かのものになるかもしれないのにも耐えられなかったんでさァ」

「そんな、どうしてそこまで…」

総悟は少し私との間に隙間をつくり、じっと私の目を覗き込んだ。

「神楽、愛してる、ずっと。今も昔も」

「…っ」

「ずっと探してた。ここに住むうちに、過去とは別にまた神楽を好きになっちまった」

「探しものって…」

「あァ、もう思い出させなくてもよかったのに…でもそれと同時にまた欲が出てきちまった」

「え…」

「俺にそんな権利ないって分かってんのに、やっぱり誰にも渡せない」

「総悟」

私は緩く首を振った。

「でも当時総悟は婚約者の子にすっごく優しそうだったヨ。少なからず情はあったんダロ…?」

と聞くと、総悟はさも簡単な質問であるようにふっと笑った。

「優しそう?じゃあそれはおかしいねィ」

「なんで?」

「俺は優しくねェからなァ」

ん…?
そうだろうか、十分に優しい気もするけれど。


首を傾げる。

あ、でもたまに悪戯してきたりとか、素で無邪気に笑ってたりとか、そういうことはあった。

その総悟はいつもの王子とは違って実年齢より下の少年のようで、自然体でいてくれてるのは嬉しかった覚えがある。


いろんな疑念がほわほわ溶けていく感じだ。


「償いはちゃんとすらァ。神楽の望むことならなんだって」

せっかくいい感じなのに、そんなこと行って欲しくない。

もう前を向いて歩いていけそう。

というか、私はそもそも恨んでない。


「じゃあ、償いって言うなら…今度こそちゃんと言って…?」

あの時とは違う。私からも近づかなきゃ駄目だよネ。

精一杯の笑顔で応えると総悟は驚いた顔をした後、膝をついて私の手を取り、甲に優しく口付けた。

「俺は今、家から追われるている身。それでもついてきてくれるなら、俺と結婚してくれねェか?」

涙がまたゆっくりと頬を濡らす。
でもさっきとは違って、悲しいものじゃない。

「ふえぇ…よろしく、ひっく…お願いしまふ……」

「なんでィ、泣くなよ。てめェから言っといて」

「だってー…」

あまり、よく分からない。頭がふわふわして、よく考えられない。
でも、不幸せなものではないから…

「総悟、大好き」



一からやり直していきたい。
あの時から止まった時間を、二人で一緒に。






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大変遅くなり、申し訳ありませんでした。
ミミ様には本当に長いこと待ってもらっていると思いますが…

この話は書きたいことが多くて長編ものにしたいくらいでした。
なので少し長くなっております。

とても具体的なリクエストを頂いたのにご期待に添えられていない場合はご本人様のみ苦情・加筆・修正も承ります。

ミミ様、この他にもたくさんリクエストを頂きました。
書けないものもありましたが、とても嬉しかったです!
リクエストありがとうございました!!







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