数年ぶりの再会の【後編】
ひとまず、チャイナは一緒に俺の家に来た。
布団もないので、ベッドにゆっくりと寝かせる。
「…はァ」
…ありえねェ。
好きな女がベッドですやすや寝てやがるのに手が出せないなんて。
素面なら襲っちまうところだが今コイツは酔っ払いだ。人として駄目だ。襲うこと自体駄目だけどそこは置いといて。
でも数年ぶりだぜィ?何の罰ゲームでさァ。
いろいろ成長してるし。
俺も酔ってる為か、いつもより抑えがきかなそうで、チャイナから目が離せない。
こりゃ本格的にまずい。一旦シャワーでも浴びてくるか。
下はジャージに着替え、上はタオルをかけて何も着ずに上がると、チャイナはベッドの上に座っていた。
起きたのか?
「おい、どうした?」
「…ん、沖田……この服やだ」
「は?」
「暑い、寝苦しい」
「お、おい」
「脱ぐアル」
「おいいいい!」
俺の手も振り切ってぷちぷちボタンを外していく。
期待してないと言ったら嘘になるが今は駄目だ。絶対襲うから!
「やめろィ!」
「なんだヨ〜私に指図すんじゃネー」
くっそ、この酔っ払いめ…
あっという間に脱いでしまったがどうにかこうにか下着だけは残すことに成功した……
「……」
もぞもぞとベッドに潜り込んで再度寝始めた。
これは一緒にベッドに入るのも危険だ。
寝れそうもないし一晩起きているのが妥当だろう。幸いにも明日休みなわけだ。
と、思っていたが。
ベッドを離れようとする前に、がしりと腕を掴まれ、一瞬の動揺の間にすごい力でベッドに引きずりこまれた。
「っ!!?」
「お前も一緒に寝るヨロシ…」
殆ど起きていないような状態だが流石というかなんというか力が強すぎる。
「おい、お前いい加減にしろって…」
なんだこいつは。こっちが我慢してやろうと努力してんのに試すようなことばっかしやがって…
がっしりと素肌のコイツは抱きついており抜けられないし、かといって寝れるわけでもない。
泣けてくらァ。
「…このやろう……」
柔らかい頬をむにーと引っ張ると、眉を寄せて俺の躯の方に顔を埋めてしまった。
うん、もうこれ以上悪化させるのはやめよう。
寝る努力をした方がマシである。
固く目を瞑った。
*****
…5時前。
まァまァ寝れたじゃねェか、上出来でィ。
俺に背を向けて寝ているチャイナ。
さて、どうしたもんか。
「…う……」
あ、どうやらコイツも起きたみてェだ。
頭をもたげて首を傾げている。
「俺のマンションでィ」
「うわぁっ!」
振り返って驚く。
まだ状況も掴みかねているようで、顔を赤くしてきょろきょろと視線を彷徨わせた。
「昨日飲みすぎなんでさァ…」
「ひゃわぁ!ご、ごめんアル!」
その一言でやっとわかったらしい。ばつが悪そうに、布団を捲って出ようとした。
「ちょ、えぇ!!?」
自分の格好にもようやく気がついたみたいだ。
布団を躯に巻きつけ、焦っている様子が可愛くてついつい笑ってしまう。
「と、と、と、とにかく!世話かけて悪かったネ!服着るから後ろ向いてて欲しいアル!」
おっと、もうちょっと待てよ。
またとないチャンスなのに。
「っ!?」
手をがっちり掴んで逃がさない。
「もうちょっといいだろィ」
「は!?離すヨロシ!」
「やだ」
すげェ焦ってやんの。
ちょっとくらい苛めてもバチはあたらねェだろィ。夜散々だったし。
「私帰るから…!」
「用事でもあんの?」
「…ないけど」
「じゃあなんでそんな焦ってんでィ」
「服着たいネ!」
いや、でもコイツここで離したらとっとと帰りそうだ。
家で二人きりで、今日は休み。善は急げってやつ。
「まだここでゴロゴロしてようぜィ」
「えぇ!?」
「あ、もしかして意識しちゃってんの?」
「っ、違うもん!」
頑なに距離を置こうとするがもう遅い。
「じゃあなんでそんな焦ってんでィ」
「べべべ、別に!」
「じゃあいれば?」
勢いよくぶんぶん首を左右に振る神楽を見て、少しイラついた。
「俺といられない理由って何?」
まさか男がいるとか言わねェだろうなァ。
一応前も酔った時に確認済みなんだけどねィ。
それから今までの間に男ができたかもしれない。
まァだからといって今日は帰すつもりはないし、野郎がいたとしてもぶっ潰すだけだが。
「…何もない、もん」
悲しそうに、俯き、顔を背けた。
どうやら、嘘ではない様子。
「…かぐら」
なんて、そんなこととりあえず放っておいて。
先にコイツを頂いてしまわなければ。
「4年」
「…?」
「高校卒業してからテメーと会えなくなって4年でィ」
「え、うん」
なんだ、その反応。
ちょっと雰囲気とか、感じれねェの?
やっぱ変わってねェよなァ。
「…ずっと、忘れられなかった。忘れようとして何度も他の女と付き合ってみたけど駄目だった」
目をぱちぱちと瞬かせて、それから怪訝な表情のチャイナに不安が過る。
「やっと見つけて、逃げられないよう慎重にいって…」
「うん」
「でももういい?神楽」
「…え。う、うん」
なぜかだんだん神楽の機嫌がよくない、むっとしているように見える。
「だから沖田は高校の頃の彼女と付き合ってるんだよナ?」
「え」
「え?」
え。
彼女って誰だ。
分かってなさそうだったがそう思われていたとは。
少々唖然としてしまった。
「ち、違うアルか?」
「…全っっ然違うけど」
「えぇっ!?」
コイツにはちょっと回りくど過ぎやしたかねィ。
「まだ復縁はしてないとか!?」
「馬鹿かテメー」
舌打ちしそうになった。
真性の馬鹿でさァ。なんで好きでもねェ女と呑みに行ったり、家に連れ帰ったりすると思うんだ。
「い、居場所が分かってない!?」
「……」
「その子には彼氏がいる!」
「………」
「結婚してたとか!?」
「…………」
なに言ってんの。
だんだんムカついてきた。
まどろっこしい俺も悪ィけど。
流れを変える意味も込めて後ろから逃がさないようにチャイナの躯を包み込む。
「まさか、本当に分かってねェ?」
「え、う…」
「それともからかってんの?」
ホント…
なんでわかんねェかなァ。
「つか、俺の彼女って誰だよ」
「え?高校時代に付き合ってたっていう…」
「いないけど」
誰だよ。
「え?」
「あ?」
「だっているってお前が……」
必死に頭を回転させた。
そんなこと言ったっけか。
かのじょ…かのじょ……
「……………あー」
…思い出した。
うん、これに関しては俺が悪いわ。
「確かに言ったけど」
「言ったアル!!」
「あれ嘘でィ」
「は、はぁ?」
コイツに何処だかから入ったホラ話を尋ねられて、嫉妬とかしねェかなァという出来心で肯定した。
そしたらチャイナに笑顔で「お前が付き合うなんてよっぽどアル。大事にしろヨ!」と祝福されて泣きそうになったのを思い出す。
そういえば、あの頃からチャイナがよそよそしくなって、俺にもつっかからなくなった気がする。
「大体さ…彼女とか他に好きな奴いたら、それ以外の女家に上げるとかしねェから」
ここまで言ったら気付くんじゃ…
と思ったがチャイナはそっかーだの下を向いて呟いていた。
「お、おきた!」
「なんでィ、俺がまだ言いてェことあんのに」
「ちょっとだけ黙るヨロシ!」
「へーへー」
なにか決心したようなチャイナに遮られた。
まァチャイナの言いたいこととやらを聞いた後でも構わないが。
「……その、沖田のこと…ずーっと好きでした!」
「!」
「好きな人が誰かわかんないけど高校卒業してから毎日告白できなかったの後悔してて、言えるだけでも十分…ふぎゃ!!」
思わず頭を叩いてしまったではないか。
「だーかーらー…てめェが好きだっつってんのに、ちゃんと人の話聞けやクソ女ァ…!俺が先に言いたかったことでィ!」
チャイナは頭を抑えておろおろしていると、頬を真っ赤に染めた。
どうやら気がついたみたいだ。
「ようやく分かったかィ…ずっと好きだったのはこっちも同じ。さっさと空気読んどけよ」
「はい…」
俯いて隠そうしてるが、真っ赤な頬も緩んでいる口元も隠せていない。
たまらなく愛おしい。
今が絶好の機会だよな。
「っ!?」
正面からゆるく覆い被さる。
チャイナはびくりと身を震わせた。
肌柔らけェなァ…と今にも押し倒しそうになる衝動を抑え、予め買っておいたプレゼントをチャイナの首につけた。
「え?」
「うん、似合う」
ピンクの飾りがチャイナに似合いそうだと思わず買ってしまったものだ。
見たて通りよく似合う。
「わぁ…綺麗アル……ありがとう!」
「待て待て。これからでィ」
さて、そろそろど直球に行かねェとなァ。
「チャイナ…いや、神楽。まだ俺は社会人として未熟者で、収入もそれほどじゃねェけど、気軽に言ってるんじゃねェんでさァ」
「うん…」
「俺と結婚を前提に付き合ってくだせェ」
流石にもう俺の気持ちには気づいていたようなのに、ぽかん、と口を開けて驚いていた。
「正式に結婚申し込むときに立派な指輪買ってやるから、今はその安物で我慢してくれィ」
そういうと神楽の目に涙が溜まり、嗚咽をあげながら笑顔で頷いた。
「はい…!」
晴れてなれた愛する恋人を抱きしめ、密かに髪の上から額に口付けた。
「…でさー」
「ん?」
「感動のとこ悪ィけどよ、俺とお前…どんな格好してるか忘れてね?」
「!!!」
「会わねーうちにでかくなったもん押し付けられっと正直男として、特に惚れた女ってのがまた反応しちまうわけなんだが」
「っああああ!!ごめんアルー!」
「…する?」
「む、無理無理!まだ心の準備とか…」
「え?まさかおま、しょ「言うなぁあああああ!!」
「ぐふっ!」
「そういうわけだからちょっと待つヨロシ!」
「はいそういうことなら待ちますがあまり長くは持ちませんぜハジメテきたああああ「だから、やめろヨぉおおおお!!」
「ぐあぁっ!…てめ、二回も彼氏殴るってどういうことだ…しかも顔面……」
「お前のデリカシーのなさの問題ダロ!!」
「はいはいそうですねー。ところでさ」
「なんだヨ、まだあんのか」
「違ェって!…あの同窓会ん時、銀八と連絡先交換したわけ」
「したアル」
「即答…」
「別にいいじゃねーかヨそれくらい」
「……」
「…まさかお前が告白できなかったのって」
「てめーら見てたらネガティブにもなんだろ」
「家族アルヨ?」
「他人の男でさァ」
「そうだけど…」
「ネックレスの意味って知ってる?」
「…知らない」
「『あなたに首ったけ』って意味な」
「は、恥ずかしいこと言うなヨ!」
「事実なんだから仕方ねェだろィ。それにネックレスってさ」
「な、なに」
「首輪みたいでいいじゃねェか」
「最低アル、このドS!要するに何が言いたいネ!!」
「…浮気は許さねェからな」
「銀ちゃんとするわけないダロ!」
「銀八に限ってんじゃねェや。どの男でも、でィ」
「それはこっちの台詞アル」
「あん?」
「お前の方が浮気しそうネ」
「してるくらいだったら今もこんなに忘れられないわけないだろィ」
「ほんとに!?」
「あァ」
「ホント!?」
「あァ」
「…ふーん。まあ、一応?信じてやるかナ?」
「おいこら。俺が先に言ったんだろ。天然っぽいてめェのが心配なんでィ」
「私は一途アル絶対。つか天然じゃねーヨ!」
「どうだかなァ」
「…沖田、大好きアル……信じてくれない?」
「……あのさァ、そうやって煽るのやめて欲しいんですけど」
「なにアルかもう!」
「じゃあ押し倒していいんかィ?」
「!!ちょ、どくヨロシ!」
「今俺ちょっとやべェんだよなァ」
「や、むりむり!お願い、おきた…まだ待つヨロシ!」
「ちょっとだけだぞ」
「ケチ。いいダロそんな焦らなくても……もう私はお前のものアル」
「…なんなの、煽りたいの?ホントはヤりたいの?無理やりしていいの?」
「そんなこと言ってないネ!変態!!」
「じゃあそんな可愛いこと言うんじゃねェ…待って欲しいならちったァ控えろィ」
「よく分からないけど…できるだけ気をつけるアル」
「そうしろバーカ」
「…あんま馬鹿にしたら煽っちゃうアルヨ」
「したら襲う」
「ごめんなさい」
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大変遅くなってしまって申し訳ありません。
これは神楽ちゃんの視点を書いてる時から大体沖田のも考えてたので書きやすかったです。
琉衣様より素敵なお言葉嬉しかったです。
小説を書く原動力になります!
リクエストありがとうございました!!
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