ひた隠した悋気【後編】

「ごちそうさまでした。美味しかったネ!」

「作りがいがあったってもんでさァ」

二人で片付けを終え、改めてお礼。


結果、味も完璧だった。美味しすぎてすぐに平らげてしまうくらい。


しかし彼女の立場からして言うとかなりマズイ。

私もそこそこ一人暮らしが長い分、そこそこの料理はできると踏んでいたけど……

こんな高スペックな男性に見合う人っているのだろうか。
…明日から料理の練習しよう。

「今度は神楽が作ってくれるよな?」

「え゛っ!あ、その、そうアルな。またお互い暇があれば……」

あはは、と笑って適当にこの場は誤魔化そうと思ったのだけれど…

「じゃあ明日は?」

「えっ!!?」

「神楽もオフなんだろ?たまには二人で過ごさねェ?」

た、確かに明日暇だなぁと思っていたけど総悟さんも大学休みなのかな。

じゃなくて。

「なんで知ってるアルか?」

「ん?ああ、新八君に聞いたんでさァ」

あ、あのくそマネージャー…
総悟さんが頼りになる人だってのは十分知ってるけど!
せめて私に報告くらいはしろヨ!!

「総悟さんは……大丈夫アルか?」

「俺から誘ってんだから当たり前だろィ」

ああ、もう、嬉しくて死んじゃう!

「行く!行きたい!」

「じゃあそうしようぜィ」

えへへへへ。

クッションをぎゅっと抱きしめてゴロゴロ転がる。

やった。明日はデート!

「つーわけで今日泊まっていい?」

「もちろんネ!」

しかも総悟さんがお泊り!!
もうなんか夫婦みたいじゃないアルか!?

浮かれまくって妄想に耽っていると、ソファがぎしりと軋む音で我に返った。

「? 総悟さん?」

総悟さんが眼前にいた。
目をパチクリと瞬かせて総悟さんの綺麗な顔を見つめていると、座っている私にのしかかった。

「そう……」

名前を呼んで問いかけようとしたのを遮られるかのように、総悟さんは私の耳に緩く噛み付いた。

「ひゃっ?」

半ばパニックに陥って押しのけようとするも、総悟さんははぐはぐと噛んできた。

「総悟さん?」

「……」

「どうしたアルか?くすぐったいネ」

耳から離れたかと思うと私を抱きしめて、上にもたれかかって密着したままの総悟さん。

そして言いにくそうに言葉を詰まらせた。
むっとしたままで、私、もしかして睨まれてる?

「…年上として言わないようにしてたけど」

「は、はい?」

「神楽ってさ。俺に距離置いてるよな。遠慮がちっていうか」

…え?

「ええっ?そうアルか?」

「そうでィ。わざとだろ?俺のこと、好きじゃない?」

そうじゃなくて、そんなことあるわけなくて。

「忙しいかナ…って」

そういうと、総悟さんは寂しそうに私の髪を梳いた。

「そういういじらしいとこも可愛いけど、やっぱ好きな子には我が儘なこと言われてェな。真っ先に俺に」

「でも……」

「忙しいのはお互い様だろィ?俺はいつでも一緒にいたい」

総悟さん……?
え、えと。
なんかいつもと雰囲気が…

とにかく総悟さんからの甘い言葉の数々に私はこれ以上ないくらいに顔を真っ赤にしているんだろう。

「…いいの?暇な時があったら、遠慮なく誘っても?」

「もちろん」

じゃあ、もっと総悟さんといられる時間が増えるかナ?

「それに、俺には全然聞かないくせに他の野郎誘うのはちょっと褒められたもんじゃねェし?」

ひょいっと躰が浮いたかと思うと、総悟さんはソファに座り、私はその膝の上に乗せられた。

なんとなく…機嫌が悪い、ような。

「どうしたアルか、総悟さん」

なんで怒ってるの…?
理由を聞こうとしたのだけど……

「…ところで、神楽。今忙しいのってドラマかィ?」

「え?あ、うん…って知ってたアルか」

あれ。話、逸らされた?

「彼女の出演番組くらい知ってらァ」

やばい、総悟さんからの"彼女"という言葉に思わずにやけそう。

褒められるのかと思いきや、やはり総悟さんは厳しい表情のまま。

「…演技悪かったアルか?」

「むしろよかったよ」

眉間に皺を寄せながらぶっきらぼうに答えた。

総悟さんは私を恨みがましげに見つめて、それからひどく落胆したように溜め息をついた。

「俺の言いたい事、分かる?」

「分かんないネ…」

早く知りたくて、唇を尖らせて不満を露わにする。

「神楽は俺を過大評価しすぎ。確かに年上だけど、立派な大人だとか、優しいとか、そんなこたァねェんだよ」

「そんなことないアル!総悟さんはすごくいい人ネ!私には勿体無いくらい」

「…いい人、ねェ……」

総悟さんは私の腰に手を回すと、躰ごと引き寄せて密着する形となった。

「神楽と付き合ってから分かったことがあるんでさァ」

躰を捻って総悟さんを振り返るけど、なかなか角度が悪くて表情は見えなかった。

「なにがアルか?」

「うん……」

曖昧な返事をしたかと思うと、

「わっ」

私を横に抱いた。
びっくりして総悟さんを見つめると、妖しく不敵な笑みを浮かべていた。

「俺って、けっこう独占欲が強くて、嫉妬深い」

「総悟さんが…?」

すると、私はどさりとソファに沈められ、総悟さんは上に馬乗りになっていた。

「…へ?総悟さん?」

「神楽。あのドラマ、もちろんキスシーンあるんだろ?」

「う、うん。何回かは…」

「だよなァ。そんなにプラトニックなもんでもなかったもんなァ」

総悟さんが私の頬を覆ったかと思うと…

「っ!総悟さんっ?」

気が付いたらキス、されていた。


思えば、私たちってそういったこと、全然したことなかったし、そんな雰囲気にもならなかった。

突然の出来事にこれでもかというくらいに顔に熱が集中した。

「どんな風に俺以外の男とキスするつもりだったの?」

「…え?」

「ドラマのこと全然伝えないで、俺としたことないのに先に他の野郎とどんな風にしようと思ってた?」

「どんな風に、って…その……」

なんだか変な雰囲気だ。
先刻から分かっていたけどやっぱり総悟さんは怒っているらしい。

さっきの話の流れからすると、つまり……

「ふっ!?」

私がうわの空の間にまた唇は重なる。

でもさっきの優しいものとは違って、とても深いものだった。

「ん、んむっ…!?」

口をこじ開けられ、総悟さんの舌がにゅるりと侵入してきた。

びっくりして逃げようとしたけど、がっちりと顔は固定されていて、舌もそのうち絡め取られる。

「は…ん、んんっ」

総悟さんは好き勝手暴れて、私はそれについて行くので精一杯。
室内に響く水の音がいやに恥ずかしかった。

「ふっ…ん…」

呼吸もままならなくて、トントンと弱々しく総悟さんの胸を叩くと、案外あっさりと離してくれた。


「そ…そーご、さん……?」

はぁはぁ、と徐々に息を整えながら、ただ総悟さんを見つめた。
総悟さんも無表情で私をじっと見据えていた。

「俺の言いたい事、分かった?」

真っ直ぐに私を見つめる視線が痛い。

「…もしかして……総悟さん、が、ヤキモチ妬いてたって、こと?」

「もしかしなくてもそうでィ」

だからずーっとむすっとしてたのかナ。
なんか…総悟さんには悪いけどものすごく嬉しかったり。

「何笑ってるんでさァ」

あ、睨まれてる。
やばい。顔に出ていたみたい。
でも、今の総悟さんは全然怖くない。

「嬉しくて、つい」

「妬かれて喜んでんじゃねェよ」

「総悟さんが分かりにくいのがいけないアル!私ばっかり好きだと思ってたネ」

「ほーう」

からかうようにくすくすと笑いながら言ったのがいけなかったのか、総悟さんは私を抱き上げて立ち上がった。

「なら十分に教えてやりまさァ」

「…え?」

「ベッド借りやすぜ」

「そ、総悟さん…!駄目アル、まだ心の準備が……!」

「だーめ。おしおきだから拒否権なんてねェの」

私があたふた暴れても、総悟さんは余裕そうに淡々と寝室に向かった。

「そーごさん…」

「そんな顔しても許してやらないから。黙って可愛く啼いてなァ」

横暴アル…

不安そうな私を見て、総悟さんは優しく微笑んだ。

「乱暴にはしねェから、な?」

私をぎゅっと抱きしめて、頬に軽くキスされた。

「む…」

ほら。こうやって私、いっつも流されるんだ。


でも私ばっかり浮気者みたいに…
そりゃ、殆ど本当のことだけど、納得いかない。


「…怖かっただけアル。総悟さんに甘えて、拒絶されないか」

「なんでィ、それ」

「だから演技するときくらいは、ずっと総悟さんのこと、想像してたアルヨ?」

「…そこまで大々的に誘うたァいい度胸だなァ。今から本物に実践してもらうからな」

「なッ…!そういう意味で言ったんじゃ……わっ」

「そろそろ静かになりなァ」






-------

芸能人パロ、という素敵なリクでございましたのに、プライベートの様子を内容にしてしまったので、芸能人パロの要素がかなり薄いということに書いてから気付きました。
すみません…

ですので、加筆・修正・上げ直しなどは、まり様のみ随時受け付けますので気軽に申しつけてください。
リクエストありがとうございました。









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -