柔らかな温もり

大学へ向かおうと外に出た玄関先。
そこに、


「そうご君!」

「うおっ」

足元に軽い衝撃。
見てみるとよく見る小さな生き物が。

「そうご君、おはよー!」

「おはよう、神楽。早いねィ」

「神楽はいつもこんな時間アル!そうご君が遅いのヨ」

「俺くらいの歳になるとちょっとは自由なるんでさァ」

しゃがみ込み、目線を合わせた。

「もう一人で学校行ってんのかィ?」

「うん!当たり前アル」

「偉いな」

「もう、それくらいできるネ!」

むすっと膨らんでいる頬をつつくと、手を掴んで引き剥がされる。

「やだ!」

「子供は柔らかいねィ」

「子供扱いしないでヨ」

完全に拗ねてしまった神楽の頭を優しく撫でると簡単に機嫌が直って、嬉しそうな笑顔になった。

「ねえねえ、今度はいつ遊んでくれるアルか?」

「あー、そういえば最近遊んでないねィ」

「だって全然そうご君いないもの」

「俺だって忙しい時もあるんでさァ」

「えー」

しょんぼりしつつ上目遣いでうるうるとこちらを見つめる神楽に、溜め息が出る。

「じゃあ今日は暇だから遊ぼうぜィ」

「やったー!」

俺の首に巻きついて抱きつく神楽を受け止め、背中をさすった。

「そうご君、大好き!」

「はいはい。早く行かないと学校遅れちゃうぜィ」

「あっ!友達待ってるアル!ばいばーい」

手を振り、神楽を見送った後、俺も大学へと急いだ。



神楽は俺のお隣さんの娘だ。

親同士の仲がよくて、神楽の小さい頃からたまに子守を頼まれることがあった。
隣ということもあり、しょっちゅう会うから必然的に懐かれるわけで。

神楽の前では優しいお兄さん。
別に演じているんじゃなくて、自然とそうなるんだよな。なんかほっこりするというか。
だから神楽といるのもなかなか悪くない。


そうだ、今日は何か買って帰ろう。酢こんぶと、それから菓子…何にしようか。ま、あいつならなんでも喜ぶかねィ。ちょっと多めに買ってやろうかな。

「…おい、総悟!」

「…なんですかィ、土方さん。みっともねェ大声出して」

「てめえが返事しねぇからだろうが」

「気付きやせんでしたよ」

土方さんはこちらを訝しげに見つめてきた。

「何なんですかィ、気持ち悪ィ」

「いちいちてめえは…!」

「まあまあトシ!」

いつのまにか近藤さんもいて、今にも暴れそうな土方さんを宥めていた。

「んなことより、お前今日なんか変じゃねぇ?」

「変?」

「なんか浮かれてますよね」

あれ、山崎もいたのか。
ずっといたようだったが気が付かなかった。

「そうそう。あんま講義も聞いてなさそうだったぞ?」

「失礼な。これでもちゃんと聞いてやすぜィ」

「でも、いつもと違いますよね」

いつもと違うってどこがだよ。
さっぱり分からない。

「あ、お前もしかして今日デートか?女でもできたのか」

にやにやと気持ち悪く不快な顔を見せる土方さんを尻目に至って平然と答えた。

「違いやすけど」

「なんだよ。つまんねぇの」

「まあ、でも一応性別は女っちゃあ女ですかねィ。今日会うのは」

「はっ?」

「沖田さんモテますもんね」

「違ェよ。神楽でさァ」

ああ、と皆納得したように頷いてみせた。

「あの子か、懐かしいな。総悟といたとき数回会ったキリだなぁ。今何歳になったんだ?」

「あー…小二だから8歳ですかねィ」

「ほーん。まだそんな年だっけか」

「相変わらず仲良いのか?」

「まあぼちぼちですかねィ。あっちが懐いてくれてるもんで」

すると山崎がわくわくとした表情を浮かべて控えめに口を開く。

「あのー。俺も久しぶりに神楽ちゃんに会いたいなぁ…なーんて」

「なんでィ、山崎ロリコンか?」

「違いますよ!沖田さんがどんな風なのか見たいだけです」

「おちょくってんのか」

「い、いえ!そういうわけでは…!」

「まァいいぜィ。神楽が山崎にも会いたがってたから」

「ありがとうございます!」

そういうわけで山崎とともに俺の家で遊ぶこととなった。



*******



「あ、ジミー!!」

俺たちを見るや否や、ちょうど帰ってきた神楽は俺よりも山崎の方へと飛びついた。
ちょっとショック。

「久しぶりだね、神楽ちゃん」

「ジミーはいっつも影薄いアルな!」

毒舌は変わらない様子だが、前に俺と少し会っただけでそこまで話す暇もなかったと思うんだが…

「てめえらいつのまに仲良くなったんでィ」

「前にデパートてあったんですよ。ね?」

「うん!」

はー、なるほど。
山崎って、いかにもあの眼鏡の奴同様神楽が懐きそうなタイプだしな。

「で、何するんですか?」

「それがネ?遊びたかったんだけど…金曜だから多めに宿題出ちゃったヨ。手伝って欲しいアル!」

数学の問題集のようなものを鞄から取り出した。

「宿題多そうですね」

「そこまでじゃないアル。5ページくらい」

「帰ってから自力でやりなせェ」

「でも教えて欲しいんだもん」

お願い!と両手を胸の前で合わせ、じいっと俺の瞳を覗き込む。
なんとなく、神楽に頼まれると断れない。

「…じゃあ早くしろィ」

「さすがそうご君!ありがとー!」

嬉しそうに、机に教科書とノートを広げる。

その後ろで山崎は俺を見てにやにやと笑っていた。

「なんでィ、山崎」

「えっ、いや…思ったより優しいんだなと思いまして…すみません」

「小学2年生の女児を見てにやにやしてるさっきの様子の写真なんてものがあったとして、警察に届けたら確実に御用だよな」

「ちょ、すみませんって!謝まってるじゃないですか!」

「ロリコンは犯罪ですぜ」

「ちょっとおおお!」

近藤さんたちはともかく、事情を知らない奴に本当に言ったらどうなるのやら。
ちょっと好奇心が……

「本気でやめてくださいよ!」

「へーへー」

その時、つんつんと脇腹をせっつかれた。

「そーご君!ここ教えてヨ」

「山崎の方が教えるのうまいぜィ」

「ほんと!?」

「ええっ!僕ですかぁ!?」

「たまに会うくらいなんだからいいだろ」

「ジミー、教えて?」

頼まれるとまあ小学生の問題なわけなんだし、と頷く。
そうは言っても神楽のこんなうるうるした目で頼まれたら、誰だって断れないというのもあるだろうけど。


この日、大半の時間は神楽との勉強会に費やされた。



********



「あ、僕そろそろ電車の時間なんで帰りますね」

「おう、そうか。わざわざ付き合わせて悪かったな」

「いえいえ、そんな。こっちこそ普段とは違う沖田さんを見れて収穫でしたよ」

「あ?」

「い、いえ。別に悪い意味じゃあ…」

俺はそのまま山崎を帰すつもりだったのだが、そうはいかなくなった。

「じゃあ神楽が駅まで送るアル!」

「「えっ!」」

それだと帰り道は一人になっちまうし、なにより…

「大学生が小学校低学年のそれも女の子に送ってもらうなんて情けなすぎるでしょ!」

「く、くくっ…山崎にはぴったりかもなァ」

「ちょっと!笑ってないで!」

神楽は山崎の肩をバシリと叩くと、部屋にかけてある時計を指差した。

「大丈夫アルか?時間」

「あっ!そうだったね」

「じゃあ行こう!」

「いやいや、神楽ちゃんはいいから!」

「やだー!神楽も行くの!」

山崎と神楽の不毛な争いの横で俺も立ち上がる。
神楽が言い出したら譲らないことは百も承知だ。

「さっさと行くぞ、山崎」

「えっ!沖田さんも行くんですか!?」

「帰りに神楽を独りにするわけにはいかないだろィ」

「大丈夫アル!」

「だーめ!そろそろ暗くなる時間だから危ないんだよ」

「なんかすみません…」

まァ、なんとなく3人で行くハメになるのは分かってたことだし。



…しかしよく考えると8歳の女の子相手に大の男二人が並ぶというのもいろんな意味で危ない絵面な気もするが、そこは敢えて突っ込まないでおいた。



結局山崎が出るまで見送った後、神楽は急にふらつき始めた。
少し心配しつつ尋ねる。

「どうしたんでさァ」

「そうご君…神楽、眠たいネ」

なんだ、眠たいだけか。

もうすぐ帰れるから我慢しなさい、と言ったが久しぶりに騒いだせいもあってか、神楽の眠気は歩いていても収まらないようだ。

仕方ないな。
俺は一旦神楽の手を離し、目の前で膝まづき、背中を差し出す。

「ほら、神楽」

「んー?」

「おんぶしてやるから」

ふにゃふにゃと寄ってきたかと思うと、俺の背中に暖かさを感じるのと同時に規則正しい寝息が耳に入った。

神楽をできる限り優しく背中に乗せて立ち上がる。

「寝るのはや」


一人、夕暮れも沈みかける空を見つめ、呟いた。







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ほのぼのです。ひたすらほのぼのです。何もない位ほのぼのです。

この沖田はロリコンではないですよ、あくまでお兄さんのような感情です。今のところは。
がっつりロリコンにすべきなのか迷いましたが……
二人は10歳差でして、できたらまた後に○年後とか書きたいなぁと思います。

こんな凹凸もないような話になりましたが、受け取っていただけると幸いです。
もちろん加筆・修正など、ご意見がございましたら本人様のみ受け付けます。
リクエストありがとうございました。









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