苦味相殺

まあ、その。
ギクシャクすんのは分かってたけど。

「チャイナ、黒板「私が消すアル!」


誰もいなくなった放課後の教室。

タイミングの悪いことに次の日は俺たちの日直の番だった。


「チャイナの背じゃ届かねえだろィ。俺が黒板やりまさァ。だからてめえは日誌でもしてろよ」

「い、いいアル!むしろどっちもするネ!だから帰ってもいいアルヨ!?」

露骨過ぎる……
普通ならドラマの再放送だなんだ言って一番面倒くさがるくせに。

「日直なんだから俺もするのは当然だろィ。とっとと帰りたいんなら言うとおりにしやがれ」

「……」

そんなに嫌か、俺とするのが。

押し付けるように黒板消しを俺に渡すと、目もくれずに自分の席で日誌を書き始めた。


無言が続く。

「なァ、チャイナ」

「何アルか。さっさと黒板綺麗にするヨロシ」

「もう終わったんだけど」

「…!」

焦ったようにシャーペンをはやく動かし始めた。

隣から覗きこんで話しかけた。

「昨日、大丈夫だったかィ?」

「もう一日経ってるアルヨ。見りゃ分かるダロ」

平然と振る舞うが、やはりどこか変だ。

「で、命令って何アルか?」

「はあ?」

「勝負だったダロ?」

あァ、そういやそんなのあったねィ。

「闘ってねェじゃん」

「情けまでかけられて、このままじゃ私の気が済まないネ」

「体調の問題だろィ?」

「それでも負けは負けアル。言っとくけど、無理なことは無理だからナ?」

え。なんか不本意なんだけど。
でもチャイナも譲る気はなさそうだ。

「んー?じゃあねィ……」

この勝負を持ち掛けた時から企んでいたことがある。

でも、それはとても狡いことだ。
順番としては間違ってる。

けど、それでも俺は。

「チャイナ、付き合ってくだせェ」

どうしても欲しい。

「…え?何処に?」

目をぱちくりさせて、小首を傾げた。

…うん。ま、その返答も予想してたけどねィ。

「違ェよ。恋愛のお付き合いでィ」

少し惚けた後、あたふたと落ち着きがなくなった。

「は、はあ?冗談やめろヨ。お前の馬鹿な冗談には付き合いきれないネ。帰る」

いつのまにか終わっていた日誌と、鞄を手に教室から出て行こうとするのを、腕を掴んで阻止する。

「何でもいう事聞くって言ったろィ?」

「…そういうこと、私は冗談や面白半分でしたくないアル」

眉を吊り上げ俺を睨むと、俺を振り切って再度逃げようとした。

「簡単に逃がすわけないだろ」

掴んでいた腕を引っ張り、力任せに壁に押し付けた。

「や、やめ…離すヨロシ!」

「本気」

「はあ!?」

「本気だから」

そう言うとチャイナは瞳を揺らして、動揺しているように見えた。

「付き合えよ」

「…っ、どけヨ!」

チャイナは息を飲むと俺を押し退けて
教室を早歩きに出た。

慌てて追いかける。


「…いつまでついてくるアルか」

「途中までは一緒でィ」

「………」

チャイナは怒っているのか、無言が続いた。

黙って後についていくと、やっと口を開いた。

「…そもそも、あの時からおかしいアル」

「あの時って…てめえが倒れた時のことかィ?」

「そうアル!送ってくれたことには感謝するけど…あんな、き、キスみたいなこと…」

「嫌だった?」

「そういう問題じゃないネ!あーいうことするのは恋人同士とかであって、私たちみたいなのが…」

ぶつぶつとチャイナの文句を聞き流していると、ギロリと睨まれた。

「聞いてるアルか!?」

「聞いてない」

「おいっ!」

「要するに何が言いたいんでィ」

「だから…!なんであんなことしたのかっていうことアル!」

「なんでって、好きだから」

途端に顔を茹で蛸のように真っ赤にさせた。

あれ。さっきまでと反応が…

「そ、そんなさらっと…」

「さっきから言ってんだろうが。俺と付き合えって」

「そ、それは…ただの嫌がらせかなって、思って……」

うるうると目を潤ませ、動揺しながらも小さく呟いた。

「心外ですねィ。俺が好きでもない女にあんなことするとでも?」

「す、好きって……」

あ、分かった。
よく考えたら俺、ちゃんと言ってなかったっけ。

「ああ、好きだ」

この言葉を。

「…ほんと?」

「本当」

「嘘だとか言わない…?」

「言わねェ」

チャイナは視線を泳がせると、小さく溜め息を吐いた。

「お前の、あのキス紛いの…嫌じゃ、なかったアル」

「それって……」

ふいっと顔を逸らすと、止めていた足を突然進めてすたすたと背を向けた。

「じゃあナ!」

「あ、おい!」

って、帰るのかよ。今いいとこだったろ!

「明日!」

俺が大きな声で軽く怒鳴るように言うと、ピタリと止まった。

「明日まで待ってやるから返事くれィ」

多分、聞こえてるだろう。
でも返事はなかった。

「命令だからな」

「これで二つ目アルヨ?」

「構わねェぜィ」

じとりと睨むと耳まで真っ赤にしたまま、そのまま去っていった。



(命令だって念を押してくれたら付き合うのに。サドのくせに優しいなんて似合わないネ…)






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そういえば勝負のことはすっかり忘れてたのは内緒です。書いてるうちに忘れることってよくありますよね。うん。
というわけで伏線回収の機会を与えてくださった意味でもベル様には感謝だったり(笑)

ベル様にはお二つもリクエストしていただきたした。感謝の限りでございます。
加筆、修正、書き直しいつでも承ります。

リクエストありがとうございました。







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