無意識と無自覚

いらいらいら。落ち着かない。

眉間に皺が寄る。

なんでかなんて。
少しは理由は分かっているのだけれど。

「ぎーんちゃん!」

「うおッ!…お前な、もうちょっと力加減しろって」

「難しいアルなー」

原因はあれだ。多分。


俺には関係のないことなのだが、チャイナは無自覚で銀八のことを好いているようだ。

銀八とは仲がいいようだがあくまで教師と生徒の域を出ない。銀八はそういうやつだ。

それでも執拗に懐くチャイナに哀れみさえ感じていたものの、段々とあまりの鈍感さに苛立ちが生まれ始めた。


そこからか。

二人でいる場面を見るともどかしさを感じる。そして、チャイナがいつ自覚して離れるかを待っていた。


が、進展は特にない。


そもそもチャイナは、自分が銀八を好きだということ自体無意識である。
まずそこを解決しないと、脈なしに気付けというのも酷か。

銀八も煮えきらない態度を取るから余計だ。


かといって、俺が何をするかというわけではない。
ただ事の成り行きを面白おかしく見ているだけだ。イライラして全く面白くないけど。


「沖田、何してるアルか?」

「…チャイナ」

いつのまにか俺の机の前に立って、不思議そうな顔をして俺を見下ろしていた。

「ボーッとしてるネ」

「考え事でィ。銀八は?」

「え?そりゃ、職員室アルヨ。わざわざあんな天パの為に下までついて行きたくないネ」

「ふーん」

どうだか。
ホントは行きたかったんじゃねェの。

口には出さないが、ちょっと悪態をついてみたり。

「お前は前にも増してボーッとしてるアル。授業中もそうネ。何かあったアルか?」

え?そうだったか。
チャイナは案外俺のことを見ているらしく。


もやもやが、いつのまにか消え去っていたのは後になってふと、気付いた。



*******



チャイナと俺との関係は、軒並み上々だ。

それはチャイナの機嫌がいいから。
前みたいに喧嘩をする回数が減ったということ。

いや、機嫌がいいというより……
腑抜けた、という方が適切か。

何にしても、張り合いのない相手になったチャイナ。


あいつの機嫌が良くなるようなことなんて、大体の検討はつく。

「……銀八か」

十中八九、間違えない。

いつの間にか付き合いだしたとか、付き合いだしてなくともそれとなく両思いだとか。

それで浮かれて、俺の相手なんてしていられなくなった、なんて。


俺があいつらを眺めていたのは、チャイナがフラれて傷つく様を見物したかったというのが本音だ。

そしたら、傷心中のチャイナを俺が慰めて……


…は?慰める?
何考えてんだ、俺は。

嘲笑うの間違えじゃないのか。

あれ。
俺はなんでこんなにも熱心にチャイナのことなんか見てたんだっけ。

「おーきたっ」

「!」

そこで考えることは止められた。
渦中の相手のご登場。

いつもならこいつが来ると、ゴチャゴチャ考えてたことなんて何もかもすっかり忘れて現実に戻るのに今日はやはりいつもとは違った。

お前は俺を沖田、だなんて滅多に呼ばなかったじゃないか。

「チャイナ…」

「またボーッとしてるネ」

なんだよ、わざわざ俺に話しかけてきて。
大好きな銀八のところにでも行けよ。

皮肉が湧き上がって仕方ない。
今にも口にだしてしまいそうだ。

「一緒に帰るアル!」

「……」

「あ、もしかして部活アルか?」


断れば?
そんなにチャイナが嫌なら、冷たくすりゃいいじゃん。

いや、俺は別にこいつが気に入らないわけじゃないんだ。
ただ、銀八がどうするのか、楽しみにしていただけで。


……もう気付き始めてる。

チャイナがうまくいったような様子にこんなにもやるやせないのも。

HRが終わって銀八がいなくなった後、真っ先に来るのは姐さんとかじゃなくて俺で、それにちょっとした優越感を感じているのも。


「部活はねェよ。帰ろうぜィ」

悪態をついていても、今日は行く予定だった部活を蹴ってまでチャイナと一緒に帰りたいのも。
全部。

俺は……





「沖田と帰るの、久しぶりアル」

「そうだねィ」

俺なんか眼中にも無いくせに。

なんて思ってたって、本当は舞い上がる程嬉しい。
今だけでも、隣にいるのは俺なんだって銀八に見せつけてやりたくなる。

「なんかそっけないアルな。喧嘩も吹っかけてこないし」

「てめぇが乗らねェだけだろィ」

「そんなことないネ。お前、ムカつくこと言うの減ってるヨ」

「そうかねィ…」

そうかもしれない。
喧嘩を吹っかける気分になれないのも事実だ。


俺たちの間にはそれしかないのに。

普通に話したことなんか殆どないからチャイナ自身のことは全く知らない。

表情だってそうだ。
不機嫌なものしかない。

なのに…
銀八には……


「つまんないアル」


…つまんない、か。
そうだよなァ。所詮その程度。

どんどん自身の感情が冷え切っていくのを感じた。

「そうだ、聞いてヨ!今日ね、銀ちゃんが……」

またか。

爪がくい込むくらい拳を握りしめる。


「てめえは本当に銀八好きだよなァ」

「え?」

惚けたチャイナを横目に、俺はもう止められなかった。

「いっつも銀ちゃん、銀ちゃん…なァ、好きなんだろ?」

「べ、別に!!あんな甘党天パなんて…!パピーみたいな存在ネ!!」

なに本気で照れてんだよ。
皮肉も分かんねェの?

「やっぱりムカつく…」

「へ?」

明らかに態度に出てるのにまだ気付いてないのも。
そんなチャイナにいちいちイライラしてしまうのも。

「馬鹿みてェ」

「な、何アルか急に!」

あァ、駄目だ。
落ち着けよ…

「そろそろ卒業したらどうでィ。銀八から」

「…一体どうしたのヨお前」

言ってしまえ。
そしたら、楽になるんじゃないか。

「そうやって毎日銀八銀八って、親離れできてない子供みたいで見ててイライラすんでィ」

「そんなのッ…!お前に関係ないダロ!」

「………でィ」

「は?」

そこで言葉を濁しちまえばよかったのに。

「関係大ありでィ…鈍いてめえに直球で言ってやらァ。好きなんだよ!チャイナ、てめえのことが!分かれ馬鹿!!」

「な…」

口をポカンと開けて唖然としていたかと思うと、みるみるうちに顔を赤らめる。

「チャ……」

ハッと現実に戻ると俺は、自分の言ったことをすぐさま後悔し弁解しようとしたが、その前にチャイナは走り去ってしまった。



********



あーあ。終わった。

昨日、あれから連絡を取ろうと思ったが、そういえばチャイナの連絡先も知らねェんだった……

明日からどうしようか、そればかりを考えて結局一睡も出来なかった。


「マジでどうすりゃいいんでィ…」

溜め息をついて、ふと前を見ると早速いた。チャイナ。
あっちもこちらに気付くと気まずそうに目線を逸らして駆け足気味に先に行った。


…まァそりゃそうか。
予想通りの反応だねィ。

もう…戻れねェのか。



半ば諦めの気持ちを持ちつつ、ただやはりどうにか仲が戻らないかとチャイナを観察していると違和感に気付いた。


確かに俺を避けてる。
避けてるけど……




せっせと帰り支度をしているチャイナ。
絶好のチャンスだ。

「おい」

「っ!!」

飛び上がる程驚くと、鞄をひっつかんで教室を飛び出した。

「おいっ」

俺の制止も無視。

そんなに全力逃げなくてもいいじゃねェかィ。

逃げられたら……追いたくなる。

「待てよ!!」

それと。一つ自信が湧いてきた。
まだ予想だが、多分、チャイナは……

追いかけるのに、躊躇いがなくなった。




「〜っっ!なんでついてくるアルか!?」

「ついてってるんじゃねェやィ!追いかけてんでさァ!」

「どっちでもいいネ!」

部活やらでひと気のない校内。

必死で走り回って逃げるチャイナを、俺も必死で追いかけるが……
何分あいつの運動能力も優れたもので埒があかない。

何か策を…
と思っていた直後、チャイナが角を曲がった。

あれ、その先って確か行き止まり……

「!!!」

どうやら間違えたらしいチャイナは行き止まりの壁を見て急ブレーキをかけるとともにびくりと震えた。

急いで振り返るも、もう後ろには俺がいる。
ニヤリと笑うと顔を青ざめた。

「く、来るなヨ……」

「やーだねィ」

少しずつ後ずさるチャイナに、俺は大股で近付いた。

「…!」

一か八か、チャイナは横をすり抜けようとしたが、そんなのお見通しだ。
腕を掴んで壁に押しつけた。

「神楽さんよォ…なんで逃げてたんですかィ?」

「に、ににに逃げてないアル!」

「いや、逃げてたじゃねェかィ」

「別にお前が、どうとかじゃないネ…ていうかいい加減離せヨ!」

「やだ。どうせ逃げるし」

「……」

ほれ見ろ。図星だろうが。
分かりやすい奴でさァ。

「なァ、チャイナ」

「…あんだよ」

不貞腐れたように顔を背けてるけど……

「顔、真っ赤ですぜ」

「!!!?」

驚きに目を見開くとさらに顔を朱色に染めた。
抵抗するチャイナだが、がっちりと腕を壁に押しつける。

チャイナは内心穏やかじゃないんだろうが、俺は自身の考えにより確信を持ち心踊っていた。

「意識してんだろィ、俺のこと」

「してない!」

そんな隠しきれていない表情でも抵抗するチャイナがなんだか可愛らしくて、ちゅっと額に口付ける。

「ひゃっ!」

「本当のこと言えって。じゃねェと俺、何するか分かんねェぜィ…」

「へ………っ!!…っ!!」

セーラー服の裾を摘まんでひらひらさせると、ブンブンと首を振った。

そして、観念したかのように息を吐いた。


「…私もネ、銀ちゃんのこと好きだと思ってたアル。一緒にいたら安心して落ち着くから、そういうのが恋なんだって……」

「……」

「でもお前にこ、告白されたら…すっごい心臓がばくばくして、とにかく苦しくて、ずっとお前のことばっか考えちゃって……銀ちゃんではこんなことなかったアル…なのに」


もごもご濁すチャイナが愛おしくなって抱き締めると、チャイナもおずおずと背中に手を回してきた。

それがまた受け入れられたようで嬉しい。

「多分、私……沖田のこと、好きネ」

「ん。俺も」

「逃げてごめんアル…」

「いいんでさァ別に。照れ隠しだって気付いてたからねィ」

「…ふーん」

少し悔しそうにするチャイナがまた可愛くて、さらに強く抱き締めた。






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5万打突破コメント、ありがとうございます。そうこうしてるうちに10万打にいこうとしてるんですけどね…

細かいリクエスト、全然おっけーでしたよ!むしろその方が書きやすかったりするので嬉しいです!!

しかしベル様のご想像通りのものが出来ているかは心配です。
ベル様のみ、加筆、修正、作り直し、随時承っておりますのでお気軽にどうぞ!

リクエストありがとうございました!!







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