共有する幸せ


ある男と付き合いだして一ヶ月。

けっこう順調?というか。
恋人として何か進んだわけじゃないけど、それなりに楽しい、と思う。

だから恋人のようかと言うとそんなことはなくて、でもあいつに少しでも近づけたことで満足してて。

ま、特に不満はない、かな。うん。



「チャイナー」

「うん?」

「なァなァ」

「なんだヨ」

「呼んだだけ」

…でも沖田が何を言いたいのか分からない。

「なにか文句でもあるアルか」

「え、うん、まァ…」

なんでそんな曖昧なんだ。
そんなに言いにくいことか。

言いにくいこと……言いにくい…
うーん…

「おい」

「んだヨ、うるさいネ」

「なに考えてんでィ」

「は?」

「俺がいんのに他のこと考えんじゃねェや」

「!」

抱きつかれて、宥めるように私は沖田の頭をポンポンと撫でた。

「別に他のこと考えてたんじゃないネ」

「ふーん。じゃあ俺のことなんだねィ」

「……違くはないかナ」

すぐに嬉しそうな声音となり、その様子はまるで尻尾を振っている犬のようだ。

まさかこの男をそんな風に思う日がくるなんて思わなかった。

キャラの変わりようには驚いたけども今は素直に可愛いなんて。

「お前はもっとクールだと思ってたアルヨ」

「うん、俺も」

「自分で言うのナ」

「自然とベタベタしたくなんの」

…慣れってすごい。

「なァなァなァ」

「うるさいアル!なにヨ」

「その、よ」

「…」

また始まった。さっさと言えってば。

「なに」

「いや、なかなか進展しねェなァって」

ごにょごにょ言っている中でやっと聞こえた言葉がそれ。
抽象的過ぎてなんのことだかさっぱり。

「進展って、どういうこと?」

「それは、アレでィ。…分かるだろ?」

え。

「…?」

「もういいでさァ、これから俺がなんとかしやす」

勝手に納得して、今度は私の髪飾りを外していじりだした。

「明日、さ。ここ、来れる?」

「うん。なんで?」

「二人でどっか行かね?」

「お、いいアルな!」

そう返事をすると満足そうに沖田は微笑んで、また髪をいじり始めた。


機嫌がいいようで私もそのまま放置しておいた。



*****



というわけで明日は今日となった。


当日である今日まで何も思わなかったけど、そういえば何処に行くのか。

ま、適当に任せればいいか。
何企んでるか知らないけど奢ってくれるらしいし、ある程度は無視すればいい。

戸を叩く音が聞こえたものだから、小走りに玄関へ向かい、ドアを開けた。

「よう」

「時間ピッタリアルな」

「早めに出てコーヒー飲んでたんでィ」

「じゃあ早く来いヨ……」

桜が咲き始めたからといってまだ寒いって言うのに。

「とりあえず行こうぜィ」

家を出て、沖田の後についていく。



「で、なんで言わなかったネ?」

「待ち合わせは10時って言ったろィ?」

「なんでそういう時だけ妙に律儀アルか」

「別にきっちりにしようとしてたわけじゃねェけど」

「じゃあなんなのヨ」

「心の準備ができてなかったんでィ」

心の準備?
一体何処に行くんだ。

沖田は私の考えてることを察したのか、すぐさま否定をした。

「変な所にいくわけじゃねェぞ。まァ行ってからのお楽しみでィ」

「ふーん?」

じゃあ心の準備とはなんだったのか。


そこで沖田がこちらをジロジロと見ていることに気が付いた。
睨んでる…わけじゃない?

「そういえばそのチャイナ服初めて見た…」

「ん?そうだっけ」

いつもは暴れるので滅多に着ないけど、今日はその心配がなさそうなのでミニスカートのちょっと女の子っぽいやつだ。

「…よく似合ってるぜィ」

「へ」

コイツが人を褒めるなんて…
即座に距離を取り、身構える。

「人がせっかく褒めたってェのになんでィその反応」

「それが怪しいんだヨ」

そう言うと沖田は口を尖らせ、ふいっと顔を背けた。

「じゃあもういい」

え。なにもないの?

沖田が尚も黙りこくるものだから、私は首を傾げる。

「沖田」

「……」

「おーきたっ」

「……」

「おーきーたー」

「…なんでィ」

「こっち向くヨロシ!」

ホント、感情表現が豊かになった。

「…この服着たのは少なからず楽しみだったからアル。察しろヨ」

「!」

途端に顔を赤くして手で覆った。
覗き込もうとしたけど背けられる。

「真っ赤アルヨ?」

「チャイナが可愛いこと言うからいけないんでさァ」

「お前の方が可愛いネ」

「んなわけねェだろィ」

拗ねたり喜んだり忙しいやつだ。
そんな腑抜けたコイツも私は嫌いじゃない。なんだか特別だという感じがする。

「なにニヤニヤしてんの?」

「沖田、変わったな、って」

「そうかィ?」

「やっぱ可愛い!」

「…………」

今更だけど、これが恋人か…

「ね、そろそろ何処かに行くか教えるアル!」

「ん?そうだねィ。…ここでさァ」

「え?」

沖田の指差す方向に店。少しお洒落なところだ。

「も、もも、もしかして奢ってくれる…とか!?」

「普通に奢ってちゃあ足んねェだろィ?」

「へ!?」




手首をいきなり掴まれて店に引っ張り込まれ席に案内された。

「ご注文がお決まりになりましたらお申し付け下さい」

「俺らは食べ放題で頼んまさァ」

「かしこまりました」

店員さんが綺麗にお辞儀して去る横で、私は感動の渦の中だった。

「た、食べ放題……?」

「あァ」

「いいアルか?いいアルか!?」

「当たり前だろうが」

「思いっきり食べていいアルか!?」

「むしろ元取るくらい食え」

「キャッホー!!」

メニューを手に取ってワクワクした気持ちで目に付く物全てを頼んでいく。

「お前は少ないアルな」

「てめェと比べんじゃねェやい」

「男のくせにだらしないネ」

「躰のつくりが違ェんだよ」



*****



「美味しかったアル!」

「そりゃあよかったねィ」

店を出て、ふらふらと並んで歩いていた。

「お前は全然食べなかったアルな」

「んな食えるもんじゃねェだろィ、それに」

「?」

「てめェの嬉しそうな顔見れたし十分でさァ」

さらりと恥ずかしいことを言われてしまった。


「そ、それだけで……大袈裟アル!」

当たり前だというように惚けた後、にっこりと微笑んで頭をくしゃりと撫でられた。

「大袈裟なんかじゃねェや。てめェとこうやって普通にデートできんの、すげェ嬉しいんでさァ」

何の恥ずかし気もなく言った。

「馬鹿っ!」

沖田に対抗する術を持たないのが悔しくて、茹で蛸のようになっているであろう顔を背けて沖田をばしっと叩いた。

「照れんなって」

「違う!」

こんないきなりカップルみたいな…


なんか……
沖田、女の子の扱いに慣れてるみたい。

急に不安になった。

「次何処行く……?どうしたんでィ」

「なにが」

「えらく険しい顔してんじゃねェかィ」

「してないネ」

沖田は止まるけど、私は止まらずずんずんと進んでいこうとする。
と、がしっと掴まれた。

「拗ねんなよ」

「拗ねてないアル!」

「明らかに機嫌悪ィじゃねェかィ」

ちょっと悲しそうな沖田にだんまりと口を閉ざす。

「俺、なんかした?」

「…女の子扱い」

「は?」

「私にでも女の子扱いが上手だナ!」

一瞬、間をおいてから、それから笑おをこらえきれなかったように吹き出した。

「なんだ、それ…」

ついにはお腹を抱えて笑いだした沖田を見て急に恥ずかしくなった。

「笑うナ!」

「む、無理だろィ…くくっ」

突然沖田は私の腰辺りを引き寄せて、こめかみにちゅうした。

「!?ふにゃっ」

突然で思わず変な声をあげてしまった。
何をするんだという目で沖田を見上げるとすっごく嬉しそうにしていてムカついた。

「バカにしてるアルか!?」

「違ェよアホ。可愛いなァって」

「わ、私は真剣に!」

「チャイナが俺のこと可愛いって言うから」

「…だってホントのことだもん。それがなんだヨ」

「嬉しくねェ」

「むぅ…」

「男らしいとこ見せたくなったんでィ」

でも、だからって。
ふん、と鼻を鳴らしてじとりと睨んだ。

「慣れてるのには変わりないネ」

「芋侍がそうそう女に縁があるわけねェよ」

そう言って反対方向に私を引っ張った。

「ほら、仕切り直しでィ。なんでも買ってやるから機嫌直せって。な?」

歩きだした沖田の着物の裾を掴む。

「…ホントに?」

「あァ、なんでもいいぜィ」

「そっちじゃなくて…女の子とはその、あんまり縁がないってやつ」

「あァ、まァねィ。興味もなかったんだけどな」

「ホントにホント?」

「ホントにホント。てめェが気付いてないだけで緊張してらァ」

ぐしゃぐしゃ私の頭を撫でてにっこり微笑んだ。


やっぱり私の彼氏はかっこいい…アルな。






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大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。

リクの内容から初々しい感じにしようと思ったのですが、あまり分からないかもです。神楽ちゃんは鈍感となっておりますのでけっこう冷静ですがそんななかにも乙女な要素があればいいと思います。

最後はあまり甘くないですよね…
みずたまり様のみ、苦情、修正、加筆、承りますのでお気軽に申してください。
リクエストありがとうございました。







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