水面下で御執心

沖田総悟。
隣の席の憎たらしいコイツが最近変わった。

大きく変わったわけじゃないけど、あんまり意地の悪いことは言わなくなったし、やたらと突っかかってくることはない。
喧嘩はたまにするけど。

それが寂しいような感じがしていたのも束の間、前よりも話すようになり仲良くなって。

今ではすっかり気の合う友達の一人である。



水面下で御執心



「チャイナ、一緒に帰りやしょう」

「え?いいけど…お前帰るの早いアルな。部活は?」

もう帰る為の支度ができている沖田が待っているので少し急いで準備しながら聞いてみた。

「あァ、別にいいんでィ。何にも代え難いものがあるんでさァ」

ふーん?
トッシーからしたら堪ったもんじゃないだろうけど。
どうやら早く帰りたい理由があるらしい。

「見たいドラマが再放送でもしてるアルか?」

「いや?そんなんじゃねェかなァ」

…まぁ本人が楽しそうなので放っておこう。

「じゃあ俺ァ先に下行って待ってらァ」

そう言って教室を出て行った。

いつもそうだ。
何故か下駄箱のところで私を待っている。

別にいいけどなんで教室で待っていないんだろう。
私と一緒にいるのを見られるのが嫌なのだろうか?

…アイツが意味不明なのは今に始まったことではないので考えても無駄かナ。

私も少し経ってから教室を出た。



「沖田」

「あ、チャイナ」

携帯電話を片手に、壁にもたれて待ってくれていた。

「帰るかィ」

「うん」

靴を履いて、校門を出る辺りまで、沖田が無言だった。
考え事をしているみたい。

「…なあチャイナ」

「ん?」

「あのさ」

「?」

「休み、どっか行かね?」

「へ?」

突然の誘い。
私と?
いや、あんまり今は違和感ないけどさ。

「お前と行くなら楽しいだろうナ」

「えっ」

嬉しそうに私を振り返り、キラキラと目を輝かせている。

「ど、どうしたのヨ?」

「行く?行く?」

でもなんか迷うナ…だってコイツアルヨ?
どうしても疑ってしまう。何を企んでいるのか、私が恥をかくだけなんじゃないだろうか、とか。

「うーん…」

「どうせ暇だろィ?なら行こうぜィ」

どうせとはなんだ!確かに暇だが!

「うーん…」

沖田が変になって害が及んだことはないけど…もしかしたらこれから害が及ぶという伏線かもしれないし……

「俺の奢りでさァ」

「ありがたく行かせていただきます。」

考えても仕方ない。そんな悪い話でもない!
しかも奢り!ちょうど今月ピンチだし背に腹は代えられないアル。
企んでいた場合、その時はその時だ。

「じゃあ10時に向かいに行きやす」

「おう!」



*****



そんなこんなで土曜日に沖田について行った。

私ににオススメしたい店があるとかで。そこは洋菓子店で美味しいものがたくさんあった。
あいつにしては裏もなく素晴らしい店を紹介してくれた。
少しは見直した。



それから何かと気が合うようになって大抵沖田と帰るようになったのだ。
今日も 。


下駄箱に行くと、沖田は手紙を持っていた。

「お、それもしかして」

「……」

「ラブレターアルか!?流石モテる奴は違うネ。彼女には困ってないダロ?」

にしし、と茶化すように笑ったが、沖田は全く無反応で無言。

それから私をじとりと睨んだ後、ゴミ箱の方へ向かった。

「ちょ、沖田!何するアルか!?」

「何って、捨てるんだよ」

「そ、そんなん駄目ダロ!ちゃんと読んであげないと可哀想アル!」

がしっと沖田の腕を掴んで阻止する。
沖田はピタリと固まってしまった。

「…沖田?」

「は、はやく離しなせィ」

「え?」

「密着しすぎでィ」


痛いってことだろうか。

「捨てないって誓わないと離さないネ!」

「……」

「じゃあもっと力入れるアル」

抱きつく場所を腕から腹に移ろうとすると沖田はびくりと震えた。

「ちょ、何しようとしてんでィ!」

「後ろから羽交い締めしてやるアル。私にくっつかれるの嫌だろうけどお前が捨てるっていうなら…」

沖田の焦りようがすごい。
そんなに嫌がらなくてもいいじゃないか。

「分かった!分かった!捨てねェから!だから離れなせェ!」

「これからも?」

「あ、あァ!」

「絶対?」

「絶対!」

「ならよし」

パッと離すと沖田はふにゃふにゃとよろめいた。

「もう…そんなに力入れてなかったダロ?」

大袈裟な反応だ、と呆れると沖田にキッと睨まれる。
その沖田の顔がすごく真っ赤で慌てて駆け寄る。

「ご、ごめんアル…そんなに力加減できてなかったアルか」

「違ェ…」

「へ?」

「もういい、早く帰んぞ!」

靴を取るとそのまますたすたと行ってしまった。
私も急いで沖田を追いかける。

「待ってヨ!!」

「さっさと来い」

明らかにいつもと違う沖田。
私のホールドが原因だろうか。お節介の方か。

前を行く背中を目で追いながら、ボソッと呟く。

「そんなに怒らなくても…」

自分でもやり過ぎたかなとは思うので文句は言わないであげた。



******



翌日になると普通に話しかけられた。
そこまで怒ってなかったんだ。

普通に帰りを誘われた。

ただどっちにしろ沖田は先に下駄箱で待っているという。


なぜか今日はそれが妙に気になった。

何の意味が…
いや、考えすぎだろうけど。

ゆっくり来ていいと言っていたが、沖田が教室を出て少し間をあけてすぐに後を追った。

細心の注意を払い、そっと壁の影からついていく。

子どもの時のスパイごっこをしている気分でなんだかわくわくしていた。
沖田に何かあることに期待しているというよりかはこれが面白いだけなのかも。



下駄箱に着き、少し時間を置いて覗くと開いた靴箱から紙のようなものが見えた。多分手紙だ。

チッ、またラブレターかヨ……

これだからモテる奴は嫌アル。
ん?あれ。

あそこ私の靴箱じゃないか?
え、もしかして、ラブレター?私のじゃないアルか?
でもどうして沖田が私のを……


そう疑問に思うのも束の間、手紙少し眺めた後、両手でビリビリと引き裂いた。


唖然としている間にも沖田は細かく引き裂き続ける。
ボソボソとなにか声も聞こえたので耳を澄ました。

「チッ…告白してもNO以外の答えは言わねェだろうけど.ああ見えて他人には優しいからつけこむ輩もいるだろうなァ。しかも今日の野郎は前も見た名前…こいつァ要注意だねィ」


ひ、ひぇえええええ!!
な、なにこれ…
どういう状況かわかんないけど…見てはいけないものだっていうのだけは分かる。

来た道を戻ろうと思ったがあまりの動揺に間違えて上履きを床に擦ってしまった。

静かな廊下に音が響いた。


バッと廊下の影に隠れたがもう遅かった。

肩をポンと叩かれ、バクバクなっている心臓が飛び跳ねた。

冷や汗が頬を伝い、恐る恐る振り返る。

「チャイナ」

「お、沖田…」

「早かったねィ」

にっこり笑う沖田が無性に怖い。

ま、まだ私が見ていたことがバレたわけじゃないアル!

沖田は紙屑となった手紙をゴミ箱に捨てている間、私はバレていないことだけを願った。

けど…

「見られちまったかィ」

「な、なんのこと?」

「とぼけんな。バレバレでさァ。顔見りゃ分かる」

やっぱり駄目でした。
でも…
認めちゃったら、沖田が私のことを…

いや、よく見たら私の靴箱じゃなかったかもしれない。

「お察しの通り…」

沖田は私に近づき、紙の切れ端を目の高さに見せてきた。

そこには私の名前が書かれていた。

「これ、チャイナ宛ての手紙でさァ」

やっぱり私の靴箱でした。

「沖田、なんで、こんな……」

「分かってるくせによく言うぜィ」

そういうと、沖田は私を壁に追い詰め、頬を撫でたかと思うと上を向かせた。

「お、おきた…」

「ここまで見られたからには言うしかねェよなァ。チャイナ…」

な、なな…なに!?
ドッキリダロ!?どうせ私がその気になった瞬間裏切るとかそんなんダロ!?

「チャイナ、好きだ」

ぐっ、と私の顔が固定され、そのまま沖田の顔が近づいてきた。
ぎゅっと目を瞑ると唇に柔らかな感触が伝わる。

「ん…?」

すぐに離れた沖田。

一方の私は今になって何をされたのかようやく分かって壁によろよろともたれる。


「チャイナ…誰にも渡したくない。だから、俺のモンになってくんね?」

顔に熱が集中して、まともに頭が働かない。


え、と。
もしかして、告白、された?あの沖田が私に!?

「ちょ、待ってヨ沖田…」

「もう待てねェや。見ちまったてめェが悪ィんでィ」


沖田があまりにも真剣に見つめてくるから余計にあたふたしちゃって。
それでもこの沈黙が痛くて何か喋らないと、と焦った。

「でも手紙破るのはよくないアルヨ」

「どうせてめェのことだから律儀に聞きに行くんだろィ」

「だってそうじゃないと相手に失礼ネ」

「失礼じゃねェよ。期待持たせる方が残酷でィ」

「断るとは限らないアル」

「いーや、断るねィ。チャイナ、俺のこと好きだろィ?」

「なんで分かるアルか」

「だから言ってんだろィ。反応でバレバレだって。分かり易すぎんだよ」

…先に言うなよ。

「…ばか」

「それは了承と受け取っていいのかィ?」

「よくねーヨ!」

「ここまできたらデレろよ」

なんと答えたらいいのか、パニックになりながらぐるぐる考えていた

「私はいつでも素直アル!」

「ツンデレが何言ってんでィ」

「お前に対してだけネ!」

言った瞬間、沖田がピタリと固まってくるりと振り返った。
耳が真っ赤だ。

…あ。

「ち、違うネ!つまりつんけんするのはお前のせいだっていうことアル!」

「俺だけにツンツンしてるんだー。へー。」

「だから、お前が言わせてるってことで!!」

「へーへー」

口ではからかってても照れているのか振り返らないことに気が付いた。

そのまま靴を履き始める。

「そろそろ帰ろうぜィ?…神楽」

手を差し伸べられて恐る恐る手を伸ばした。


「お前も意外と可愛いのナ」

「あん?」

「顔、真っ赤アルヨ」

「…そんなん言う余裕あるんなら覚悟しとけィ」

「ふっ、お前に何ができるのヨ」

「上等でィ。今日は帰さねェからな」

「…もー、彼女のお茶目な冗談ダロ?」

「絶対に許さねェ」

「……お前の方が冗談キツイアルな」






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毎度のことながら遅くなってしまい申し訳ありません。

沖→神目指しましたがどうでしょうか。ちょっと沖田さん病んだ感じになっちゃいまして…
ちなみにこの後どうなったのかはお察しください。

夏蜜柑様よりはお褒めの言葉頂きまして、しかもノリと勢いの拍手文を…
そう言って頂けると嬉しい限りです。拍手文は特にグダグダが目立ちますが本誌を見たときに突発で書こうと思います。またお暇がございましたら更新したとき見てやってください!

また夏蜜柑様にだけ苦情・加筆・修正受付ますのでお気軽にどうぞ!
これからも当サイトをよろしくお願いします。







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