怪我の功名【後編】


「ところでお前、風呂はどうしてるアルか?」

「ここのを3日に一回」

「汚いアルなー」

「しゃあねェだろィ。出歩いてるわけじゃねェんだし」

ふーん、と返事をするとチャイナは部屋を探索しだした。

いきなりなんでィ。

「じゃあ躯拭いてやるアルヨ!」

「…は」

え?

チャイナはタオルを構えて、水を流しっぱなしにし始めた。

「ちょっとお湯出るまで待つヨロシ」

「へ?」

まじでするのかィ?
いや、ちょっと待てよ、チャイナにそんなことされたら……

「いや、いい」

「それくらいしとけヨ。私がやってあげるから、ネ?」

だからそれが問題なんだよ!
他の奴ならともかく!

「いいって」

そしたら、チャイナが困ったように視線を落とした。

「私に、触られたくない、アルか…?」

いえ、触られたいです。むしろ触りたいです。

じゃなくて!
そんな風に言われたら断れないねェだろィ……

「…わーったよ。じゃあ頼んまさァ」

チャイナは花が咲いたように笑顔になってタオルを水につけた。

あーあー…嬉しそうにしちゃって。
俺がてめェに弱いって知ってるのかってくらいあざとい。

水が滴るタオルを必死に絞るチャイナが微笑ましい。

とか言ってる場合じゃねェんだけどな。

「じゃあ拭くアルヨ」

…やばい、嬉しすぎる。

チャイナは少しベッドに乗り出して着流しの隙間に手を突っ込み、暖かいタオルで腹をまさぐり、拭き始めた。

…なんか。

着たままってのが悪いのかもしれない。

「おい、脱ぐからちょっと待てィ」

「え?うん」

上半身だけを脱ぎ、少し躯を起こした。

「お前、けっこう筋肉あるアルな」

「まァな」

そんなまじまじと見るんじゃねェ。

拭きながら、古傷を指でなぞったりするもんだから、変な気分になってきた。

いや、正直もう襲いたい。

「お前思ったより躯大きくて大変アル」

「どういうことでィ」

チャイナが甲斐甲斐しく俺の躯を拭いている。
その様子に満足感と同時にむくむくと欲望が溢れてきた。

「もっと小さいと思ってたネ」

笑いながら自然に躯触るのやめろ。
やばい、本当に押し倒したい。

ほとんどチャイナは俺に乗っかってるような体勢で、そんなことばかりに考えがいく。

「おい…」

「お前の躯、傷だらけアルな…」

(俺が変なことする前に)注意しようかと思ったら、悲しそうに言うもんで躊躇われた。

タイミングの悪さときたら…

「もう痛くねェよ。近藤さん守ってきた傷でィ」

「…ちょっと羨ましいアル。私は、傷残らないから」

「羨ましがるもんじゃねェや」

…触られても、文句言えねェ。

はぁ。俺が耐えればいいんだろ。はいはい。


「よいしょっと」

「!」

上半身の前面は拭き終わり、背中を拭こうとチャイナは俺に密着して、背中に手を回した。

…要するに、抱きつくような体勢ってことだ。

「おいっ…後ろ向くから待てって!」

「?なに焦ってるんだヨ」

「なんでって…」

コイツは世話好きなのかもしれない。
こんなこと、絶対他の野郎にはさせないようにしなければ。

後ろも拭き終わった後、密かに息をついていると、チャイナは布団を捲ったかと思うと、服を掴み、引っぺがそうとしてきた

「ちょっ!何してんの!!?」

「え?だって下も…」

「そこくらいは自分でやるって!」

乱暴にチャイナの手からタオルを奪った俺をポカンと見つめ、そのうち目を潤ませていた。

「ちゃ、チャイナ…?」

「ごめんアル…やり過ぎだったよナ……」

て、てめェ…わざとか?わざとなのか!?

でもいつもと違ってしおらしいチャイナもこれはこれでいいと思ってしまう。

「違いまさァ!流石に下くらいは自分でするっつーか…」

実のところは、さっきのチャイナの一連の行動による男の事情である。

「じゃあ……」

「そこまでいいっつの!」

「…私が拭きたいアル」

なんでだよ。
もしかして、俺の身の回りの世話を全部したいくらい好き、とか!?

「筋肉が見たいネ」

…あ、そうですか。
いや、なんだそりゃ。筋肉フェチか。

「そのうち普通に見れるようにならァ」

「へ?」

チャイナは俺の嫁なので。

「まだ分からなくていい」

「…?」


若干告白紛いのようなそうでないような言葉だったが、脱がされるのも煙に巻けたしよしとしよう。
下ネタっちゃあ下ネタだけど。


「お前、あとどれくらいで退院するアルか?」

「あと2、3日くらいだったと思うぜィ」

にしても、このちょっとの間にえらくチャイナとの距離が縮んだ気がする。

「…ふーん」


チャイナが無自覚か嬉しそうに微笑むのも、やはりその表れ…てことで。




「よし!今日はこの部屋掃除してやるヨ!」

「はあ?」

「立つ鳥なんちゃらって言うデショ!」


もうここは明日でやっと退院だ。

と、言ってもチャイナは意外にも本当に毎日来てくれていたので、むしろまだここにいてもいいくらいだが。

「明日やっと外出れるのか…」

「お前絶対いろいろ鈍ってるアルな」

「だろうねィ」

そりゃ、殆ど動いていないから、チャイナといきなり喧嘩すんのはキツイかもしれない。

「ねぇ、サド。この部屋箒ないの?」

「ここにはねェ…って、掃除なんかいらねェよ。いつも掃除してくれてっから十分綺麗でさァ」

それよりも俺としてはもっとこう、今日くらいはチャイナと話したいというか。

チャイナのどんな些細なことでも、もっと知りたい。

「…む」

という俺とは違い、チャイナはむすっとむくれていた。

「どうしたんでィ?」

「…別に」

ととと、と寄ってきたかと思うと俺の袖を緩く掴んでいた。

「なんでィ」

いつもと違う様子のチャイナに、俺が何かしでかしてしまったのかと内心焦る。

「ねぇ」

「なんだよ」

そこで一息ついた。

チャイナは、やはりなにかを言いたげだ。

「掃除してくれてるのって看護士さん…?」

「?あァ」

「女の人?」

「それがどうかしたか?」

さらに不機嫌になるものだから困る。

それに何も言わないし。
原因は俺?本当に理由が分からない。

でもそんな不機嫌なチャイナも可愛い。
正直我が儘なこと言われたい。

とりあえず言ってくれねェとわかんねェ。

「な、チャイナ。言ってみろって」

「…だって」

「ん?」

「なんかムカつくアル」

は?
見たら分かるわてめェがイラついてんのくらい。

「ふ、ふんっ!まぁいいアル。お前なんか看護士さんと勝手に乳繰りあうがいいネ」

え。

「そうだよナー綺麗なお姉さんにお世話してもらったら誰だって心揺らぐよナー」

これって、まさか。
所謂…嫉妬か?嫉妬なのか!?

嬉しすぎて鼻血が出そう。

なんだよ、やっぱ俺らって両想いだな。うん。

「そんで勝手にお付き合いだの結婚だのするんだろうけどな…私だって相手くらいいるアル!」

つかコイツさっきから何言ってんの。
話飛びすぎじゃね?
俺そんなこと言ってねェから。

それより聞き捨てならないことを言った。

「『相手』…?」

「おうヨ!…いつか」

……あァ、そういうこと。

チャイナが他の野郎の名前言ってたら危うく殺しにいくとこだったぜィ。

「勝手な妄想すんじゃねェやい。誰がそんなエロゲみたいな展開…ドラマの見過ぎじゃねェの」

「でもどうせデレデレしてるんダロ?」

「してねェって」

まさかやきもちで拗ねてたとは…
チャイナも無自覚なようで、それがまた愛らしい。

「ホント、男って見る目ない奴ばっかアル」

嬉しすぎて、にやけるのを止められないくらい。

「じゃあ俺は違いやすねィ」

「いや、お前もネ」

呆れた表情で俺を見るチャイナ。
俺の方が呆れてらァ。

「チャイナ、いい加減素直になれよ」

「は?」

「それ、嫉妬ですぜィ」

さらに眉根を寄せ、全く心あたりがない、といった風だ。

「どこがアルか?」

「さっきから不機嫌だぜィ」

そこで少し、驚いた表情を見せた。

「俺は別にナースだなんだにゃあ興味ないけどねィ」

「な…別に聞いてないネ!」

「気にしまくってるくせに」

みるみるうちに顔を真っ赤に染め上げ、パニックなのか、拳を振り上げ、俺に殴りかかった。

「こ、この…!」

単調な攻撃に簡単に向かいくる拳の手首を掴み、引き寄せる。

「病人に殴りかかるたァ…鬼ですねィ」

「…っ!お前が変なこと言うから悪いアル!」

引こうとする神楽の躯をさらに引き寄せ、耳元で囁いてやった。

「俺が愛してんのはてめェだけでさァ、神楽」

さらに顔を赤らめ、わなわなと躯を震わせた。

「な、な、なんッ…!!」

俺の手を振り払い、真っ赤のまま睨みつけてくるチャイナが可愛すぎて可愛すぎて、抱きしめたい。

「チャイナ、おいで?」

チャイナは驚いたまま首を勢いよく左右に振った。

「…神楽」

威圧を込めて呼ぶが、それでも近づいてこようとはしない。

恥ずかしがるのもいいけど調子に乗っている今、物足りない。理由を聞こうとする前にチャイナが口を開いた。

「お前に近付くと爆発しちゃいそうアル!!」

……………。

ホント、この馬鹿は俺にどうさせたいんだろう。

「俺のこと大好きじゃねェかィ」

「んなこと言ってないダロ!自惚れんなハゲー!」

「ハゲてねェし、この状況で自惚れんなってのもな」

可愛いなァ。
分かりやすくあたふたして、挙句に涙目だ。

嬉しさのあまりに俺の頭はショートしているようで、さらに持ち前のS気質も表れようとしていてだな。

「おい」

「っ!?」

身を乗り出してチャイナの服の裾を引っ掴み、こっちに寄りかからせようとしたが、チャイナはその場で踏みとどまった。

「なにしようとしとんじゃこら!!」

「いや、近づかせようと…」

「一応怪我人なんだから安静にしとけヨ!」

「心配してくれてんだ?優しいねィ」

「誰が看病してやったと思ってるネ!私の行いを無駄にするなヨ」

そんな会話の間もどちらも力を緩めない。
チッ、力じゃ敵わねェか。

「な、チャイナ。俺一応怪我人ですぜィ」

「う…」

少し力が緩まった。
しかし俺は力づくはやめだ。

「ぎゅっとしろよ」

「は!!?」

「あー、さっきので躯痛ェ気がするなァ。チャイナが素直に抱きついてくれたら治るかもしれねェなァ」

「なに馬鹿なこと言ってるアルか!?」

これはいける。多分いける。

「な?来いって」

受け入れ体勢万全。
両手を広げてにっこり笑った。

「やる意味があるアルか?」

「気持ちの問題でィ」

やっと、おずおずと近づいてきて、ゆっくりゆっくり手を伸ばした。

「…これで満足かヨ」

「おう」

まさかこんなに素直になるとは…

胴の周りに腕を巻きつけ、密着を遠慮したように隙間はあるが結果抱きつかれてる。

「……」

頭をくしゃりと撫でると、跳ねるように俺を離すと勢いよく起き上がった。

「そ、そのッ…!あの…!!今日は帰るアル!」

「え、もう?」

「素直に従ってやっただけありがたく思うヨロシ!」

少しは俺が怪我してんのには配慮してんだろうな。

「じゃあナ!ばーか!」

「あ、おい……」

チャイナは部屋を出て行ってしまった。

と、思っているとひょっこり扉の隙間から顔を出した。

「言い忘れてたけど、明日もまた来てやるアル!だから安静にしとけヨアホ!……あと、あんまり看護師さんにベタベタ…じゃなくて、迷惑かけんじゃないアルヨ!!」

ビシッと決めて、今度こそ去っていった。



〜っ!
な、なんでィ、今の…
馬鹿可愛いすぎ!

さっきのも殆ど告白だろィ?……え?告白?いや、俺のこと好きオーラ出まくりだったし嫉妬してたし。いつものツンツンしてるつもりだったんだろうけどデレが発揮されてたし。直接の言葉ではなかったけどほぼ両想い確定……だよな。

俺の告白がスルーされてんのはおいといて……

え、何してんの俺。なんでそのまま返しちゃってんの。襲っとけよ。襲っとけよ!絶対大丈夫だったのに…

駄目だ、相手は14。流石にそれはマズイか。
あーッ!もう!

段々と火照る顔を手で覆い、にやけそうになるのを必死で堪える。


明日が楽しみでィ。






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遅くなりましてすみません!

なかなかないシチュエーションだということで書きたいこと詰め込んだ結果がこれです。
じゃプー様には最後は沖←←←神と伺っていたのに分かりにくくてすみません!というかあまりリクエストには添えなかったような気がします…
後日談とかでリベンジしようかも考えました。

そんなわけでじゃプー様のみ苦情・加筆・修正なんでも言ってください!受け付けております。
これからも当サイトをよろしくお願いします。






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