怪我の功名【前編】

ある日、街をふらついていたらいきなりトッシーからありえないようなことを聞かされた。

「えぇ!?サドが仕事で大怪我!?」

「そうだ。まぁ命に別状はねぇみたいでピンピンしてる。暇な時にでも相手してやってくれねぇか?」

そっか、それで一昨日から公園いなかったんだ。
いない時もあるからあんまり気にしていなかったけど…

「行く!行くアル!」

トッシーは驚いた顔をした。
即答したからだろうけど、私だって敵とはいえ怪我をしていたら心配する。

「何処の病院アルか?」

「あぁ、ついて来い」



怪我の功名



ひーまーだー。
病院ってなんて暇なんだ。

土方にあたっても面白くねェ。
なんでこんなにもイライラもやもやしてるのかって。

もう何日間もチャイナと会ってないからだ。
俺の怪我なんて知りもしねェんだろうな。
でもチャイナに会えないのがどうしても嫌だ。理由は分かっててもなんで来ないのかと理不尽にイラつく。

さっさと治して会いに行きたい。
なんでこんな怪我大袈裟なんでさァ。


あーあー。
せめてジャンプでも買ってこいよ土方の野郎…


チャイナのやつは…
俺のことなんて気にもとめないで他の餓鬼どもと遊んでやがんだろうなァ。


窓の外を見ていると、突然病室のドアが大きな音を立てて開いた。

ドアくらい静かに開けられないのかよ…

苛立ち混じりに振り返ったら、

「よ!サド!」


チャイナ!?
なんでここに…?

「えらく情けない格好アルな。しかも個室かよ」

「いてっ」

パンッ、と肩を叩かれた。

こんなにも遠慮のないところは相変わらずチャイナだし、痛みもあるところからどうやら夢ではないらしい。

やばい、にやけそう。

「お前、何しに来たんでィ」

隠そうとすると、俺のテンションと相反して口からついて出る言葉が冷たくなった。

待て!俺はこんなこと言いたいわけじゃない!

「うるさいアル。どこにいようと私の勝手ネ!」

チャイナは特に気にしていなくて安心した。

「それにしても、思ったより重傷アルな…」

チャイナは結構俺を心配している様子。
嬉しすぎてやばい。

「お前…これ不便アルな」

「まァな」

なんでチャイナ今日こんな優しいの。

「じゃあこの神楽様が毎日看病してやるヨ!」

「は?」

え?なんで、え?
マジで?

「土方さんから何かもらってんのかィ?」

「そうじゃないアル!お前が寝たきりだとつまらないのヨ。さっさと治してまたストレス発散に付き合うヨロシ」

チャイナが、自分で?
今まで俺、けっこう一方通行かと思ってたけど…かなり脈アリじゃね?

「…勝手にしろィ」

あー…
すげェ恥ずかしい。
チャイナが毎日来てくれるってだけでもう死んでもいい気がしてきた。


「な!なんかして欲しいことあるアルか?」

「あー…」

そばにいて欲しい、とは言えねェよな。

「ジャンプでも買ってきてやろうカ!?」

「いや、いい。いらね」

チャイナがいたら暇じゃないし、なにより一分一秒でも一緒にいたい。
久しぶりにあったから尚更だ。

「そうアルか?」

「あァ」

「遠慮すんなって」

「誰が遠慮なんかするかィ」

首を傾げるも、納得したようでそれ以上聞いてくることはなかった。




まァそんな感じで、チャイナとの新たな病院暮らしが始まった。



「サド!大串君から林檎だって!」

今日は嬉しそうに籠を持ってやってきたチャイナ。

自分が食べたいのが見え見えである。

「ねぇねぇ、食べないアルか?剥いてあげるネ」

「…食べる」

別にそんなに食べたくないけどチャイナのキラキラした目に断れない。いや、どうせ殆どチャイナが食うか。

「お、と。これアルな?」

果物ナイフを取り出して林檎にナイフをあてがう。

すげェこの剥いてもらってる感じ恋人みたいじゃね?

「なんか親子みたいアルな!」

「…え」

あ、うん…

そういうのもありだけどさ。ちょっと違うっていうか。
じゃあ俺が息子ポジションじゃねェかィ。


つーかさ。
チャイナって皮剥けんの?

「う…ぐっ……」

うわっ、指がいつとれてもおかしくねェ!

「剥いたことねェんかィ!」

「ノリでできるかなと思ったんだけど…」

「俺が剥いてやらァ」

一つ溜め息をつき、チャイナの手から林檎とナイフをひったくり、何でもないように剥くが。

チャイナとのこんな時間が嬉しくて堪らない。

「おぉ…お前器用アルな」

「これくらい誰でもできらァ」

「どうせ私は不器用ネ!」

「そんなこと言ってねェよ」

皿に切り分け、チャイナに渡した。

「お前食べないのかヨ」

「今そんな腹減ってねェんでィ」

「そう?」

やはり自分が食べたかったんだろうな。嬉しそうに食べ始めた。
チャイナが笑顔なだけで俺も嬉しいからいいんだけども。

「美味しいアル」

「そりゃよかったな」

しゃくしゃくと頬張るチャイナに癒される。
林檎に夢中になっている間に眺め放題である。


と、そのとき病室の引き戸が開いた。

「おーい、元気か沖田くーん」

「元気なんで帰ってくだせェ」

「来て早々!?」

来たのは旦那だった。
せっかくいい気分だったってのに…

「ぎーんちゃーん!」

俺の近くを離れ、旦那の元へ小走りに抱きついた。

「うおっ!お前は元気だな」

「当たり前ヨ!」

ムカつく。この上なくムカつく。
せっかく二人だけの空間で、あわよくばくっつこうとしている時に。本当に空気というものが読めないらしい。

大体チャイナもチャイナでィ。早く親離れしろってんだ。

「ちょっと、そんな殺気込めないで!」

「なんで銀ちゃんそんなに汗かいてるアルか?」

「旦那、チャイナに汗臭いの移るんで離れてくだせェ」

「ホントアル。銀ちゃん汗臭い」

「はいはい…じゃあ早く離れなさい」

とん、と旦那の躯から降りると、ひらひらと手を振って、どうやら帰るようだ。

「えー、もう帰るアルか?」

「いやぁ、沖田君の様子見にきただけだし。元気そうでなによりだ。それに……やらしいことになってるか心配だったけど大丈夫そうだ」

チャイナのやつは、旦那が何を言っているのかあまりよく分からないようで首を傾げているが、俺には伝わった。

「あ、別に邪魔する気はないからね」

そこまでいってないけど。

「分かってやすよ、旦那」

清い交際を、ってことだろ?
大体この躯で今できるわけねェだろうが。

「おう、じゃあな。沖田君、頑張れよ。神楽は迷惑かけんじゃねぇぞ」

そう言って、部屋から出て行った。

チャイナは今も旦那の言葉に疑問符を浮かべている。

「何だったアルか?あの天パ」

「てめェには分からなくていいことでィ」

そのうち俺のモンになるんだろうから、その時に気付かせてやらァ。

「チャイナ、てめェ歳いくつだ?」

「え?14アル」

14…俺が18だから4歳差か。
確かにちょっと犯罪臭がしなくもないな。
ロリコンかどうかってのは微妙なところだ。

「あと2年ねィ…」

「何が?」

「いや、なんでもねェ」

さて、どうやってこの鈍感娘を落とそうか。
今がチャンスなんだしそろそろ進めたいねィ。








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