夜の巡回中。 今夜は満月だ。満月っつったら兎ってことであいつを思い出す。 チャイナもとい神楽。 あれ以来もやはり進展のない俺たちだ。少しは俺のこと意識してるようだけど。 暗い夜道をただふらふらと歩くと万屋が見えた。 「あぁ、会いたいなァ…。」 なんて呟いて暗い空を見上げると、万屋の屋根の上に人影が。 目を凝らしてみる。と、それは今しがた会いたいと思っていた相手だった。 「おーいチャイナァ。何してんでィ。補導するぞ」 チャイナは気づくやいなやすぐに屋根から降りてきた。 「お前こそ何してるアルか?」 「夜の見回りでさァ」 何でもない会話なんだけど俺は違和感を覚える。 チャイナがいつもとちがって声の感じからしおらしい。 「はやく家に戻りなァ。」 「……」 暗い顔で俯いてしまった。 「何かあったのかィ?」 「えっ!?」 「らしくねェぜ?」 いつもよか優しく声をかけてみる。泣かれたりしたら俺やべェし。 「うぅ…」 チャイナは俺の隊服の裾をそっと掴んだ。何この仕草可愛い。 「チ、チャイナ?」 照れて吃っちまったじゃねぇかィ… あまり顔には出してないつもりだけどオロオロしているとチャイナはそのまま俺に抱きついてきた。 何コレ?初のデレ?ちょー可愛いんですけど。 「チャイナ…?」 よくよく見るとチャイナの肩が小刻みに震えているのに気付く。 「うぅっ、うああああん…ひっく…」 チャイナは泣きだしてしまった。デレとか言ってる場合じゃない! 俺は頭を撫でつつ少し抱きしめていた。 少し経ってチャイナはぽつりと理由を話した。 「うっ…ヒック…なんか怖い夢みたアル。私が皆を殺す夢…うあぁぁあぁぁぁん」 「…そうかィ。そんなん心配しなくても大丈夫だろ?どいつもこいつも殺しても死ななそうな連中ばっかじゃねェか」 「…う、うん…ちょっと楽になったアル」 「どうする?このまま中に戻るか?」 いつになく優しく聞いてみた。 「ん…えと、私ネまだちょっと不安アル…」 まだぎゅっと裾を掴んでいるチャイナは今にも泣きそうで。 惚れた方としては放っておくことなんてできるわけがなかった。 「…屯所に来るかィ?」 考えるよりも先に言葉がついて出てしまった。言った瞬間に失言だったと後悔する。 「…えっ」 チャイナの困惑した表情にさらに後悔の念が増す。 「嫌ならいいけど」 流石にチャイナも了承はしないだろう。逆に気を使わせちまっ……チャイナはいつにもない笑顔だった。 キラキラと期待の篭った眼差しを向けてくるものだから驚く。 「い、いいのか!?ホントに?嘘とか言うなヨ!?」 「あ、ああ。今夜くらい別にいいぜィ?」 まさかこんなにも喜ばれるとは思わなかった。言ってよかった、なんて俺ってすげェ現金だ。 ******** こっそりとチャイナを連れて自室まで来れた。 「おいチャイナァ。布団どこら辺に引くんかィ?」 「……」 「どうした?」 またチャイナが暗い顔になっていたから慌てる。 「別々アルか?」 「へ?」 「布団…」 「一緒に寝るのかよ?」 冗談混じりで言ってみただけなのに… 「うん!それがいいアル!」 本気で嬉しそうにするもんだから断ろうにも断れなくなってしまった… いや、嬉しいですよ?でも惚れてる女だからねそりゃムラムラしちまうわけですよ。 襲いたくなっちまうんですよ。同じ空間ってだけでそわそわしてんのに。 しかし葛藤虚しくチャイナの奴はさっさと一つの布団を片付けて残った布団に入っていた。 「何してるネ。はやく寝ようヨ!」 「お、おう…」 年頃の娘がそんな無防備に男と寝るなんてしていいものですか?俺だからいいもののそんなん他の男ならとっくに頂かれてますよ? …今のチャイナは傷心中だし黙っておくけど。ていうか、ホントにいいわけ?俺マジで襲ったりしねェか? その間にもチャイナは布団の中から裾をぐいぐい引っ張ってきてはやくと急かす。 そんなチャイナの行動に何かたぎるものを感じつつ、覚悟を決めて布団に入った。 うわ、これ夢!? なんでチャイナが俺の隣で寝てんの? 夢だったら迷いなく食べるけど、頬を抓って痛みを感じるところを考えると夢じゃない。 「安心するアル…」 「そうかよ。暑くねェの?」 「ううん。気持ちいいネ」 …うん、今の気持ちいいってのは心地良いっていうのと同じ意味だろうけど。 分かってるけどヤバイ。 これでも必死に本能と理性の狭間で闘ってるのに、あろうことかコイツは俺の胸あたりに顔を埋めてきたと思うとそのまま俺を抱きしめてる。 「っチャイナ…お前何して‥」 「何がアルか…?」 惚けたような声。寝ぼけてやがる…! 意味が分かってないようですりすりと頬擦りしてくる。 足までも絡めてきて全身がぴったりと密着してしまった。 これはやばい本当にやばいい!襲わない自信がねェ!! また仕草の一つ一つが可愛くて余計に煽られる。 「おいっ!チャイナ…」 「すーすー」 …夢の世界に旅立って行ったご様子。 さっきの不安気な姿を思い出すと起こすことができない。 「チッ…」 仕方ねェ今日だけは堪えてやらァ。 ウトウトしてきたし俺もたまらずチャイナを抱きしめる。なんかいい匂いするんだけど… 余計な邪念を振り払って寝ることにしよう。 この腕の中で眠れ。 (旦那ともこんなことしてるのかねィ…してたら呪う。) back |