「…何してんだ総悟」

今日は珍しく外に出ないそいつになんとなく不信感を抱いて部屋に来てみた俺が馬鹿だった。

見なければよかったと即座に後悔する。

俺の胸中を知ろうともしない部下は平然と言い放った。

「何って、神楽の写真整理してんでさァ。見りゃ分かんだろ」

なんてふてぶてしいんだ。見て見ぬフリをしたい所だが、職業柄そうはいかない。

「分かんねーよ!これっ…明らかに無断だろ!」

一体いつ撮ったんだという程の量の万屋のチャイナ娘の写真。笑顔や怒り顔、果ては泣き顔まで本当にいろんなバリエーションのチャイナ娘。

「警察!俺ら警察!!」

「別にいいでしょう、恋仲なんだし」

「じゃあ堂々と撮れよ!アングルからして隠し撮りでしかねぇよっ」

「うるせェですねィ。俺が欲しいから撮った、それでいいじゃねェですか」

分かってたことだがなんて自己中心な奴なんだよ。

警察にあるまじき不祥事だ。
まさか俺の上も下もストーカー紛いであったなんて。

「ロリコンも大概にしろやぁああぁあ!」

「失礼ですねィ。俺も十代なんだからロリコンにゃなりやせんて。大体、そんな言い方されちゃあ幼女なら誰でもいいみたいじゃねェですか。俺は神楽がいいんでィ」

チャイナ娘への恋心を自覚しコイツをからかう唯一のネタだった時の頃が懐かしい。

今じゃあ円満に付き合いだして挙げ句ここまで開き直る始末。
独占欲も嫉妬も隠すことなく、チャイナ娘に近付く者は必ず成敗。

「お前、病気だわ」

「そりゃ恋も病って言いますからねィ」

「そういう意味じゃなく…ま、いいわ」

要するに幸せだっつーことだよな。うん。
あのクソガキがここまで女に執着するようになったんだ。成長…だと思っていいんだ、きっと。

ただもう少し自重というものを覚えて欲しいと思うのは我侭なんだろうか。

「総悟、今日はどうしたアルか…」

なんともいえないタイミングで渦中のご本人の登場。

いい頃合だ、と俺は立ち上り、散乱したブツを凝視して固まっている少女に一回肩をポンと軽く叩いて部屋を出る。バトンタッチ。

俺にもフォローはしきれない…
後は任せたチャイナ娘

*  *  *

「何なんだヨこの写真…」

「だーからー。お前の写真だよ」

「いっ、いつの間にぃぃぃ!?」

「さァ…」

だって!他は分からないけど、泣いている時のは少し前銀ちゃんと喧嘩して河原で泣いてた時のだ。
そういえば泣いているとき途中で沖田来て隣に座って話聞いてくれたっけ。

「この泣いてる時…お前のことすっごく見直したのにー!」

「写真はついででさァ」

「ホントかヨ!」

「まァまァ」

いきなり手を引かれてバランスを崩した私は倒れ込む。

「何するアルか!」

「神楽可愛いー」

「ぎゃああ!?何してんだヨ!!?」

総悟はぬいぐるみのようにすりすりと抱きつかれる。

「神楽可愛い堪んねェ」

「ちょー!離すヨロシッ」

「やーだ」

「きもい!」

「またまた満更でもないくせにー」

この嘘つき野郎!

「慣れさせろって言ったダロ!」

「だから徐々にしてんじゃねェか」

「どこらへんが?」

「キスは控えてる」

…う〜ん、まぁ。
そういえばそうだけど。

「にしても神楽から来てくれるなんてねィ。寂しかった?」

「…そう思って来てみた結果がこれアル……」

「俺は神楽をどうしようもなく好きだって分かりやしたかィ?」

「普通にドン引きネ!」

「浮気するよりいいじゃねェかィ」

ぐっ、と言葉に詰まる。

「浮気、したいのかヨ」

それは絶対やだ。
沖田を睨みつけると、反対に沖田は呆れたように笑った。

「そういう意味じゃなくて。第一する気も起きねェなァ」

子供をあやすように言われたのが気に食わない。
今日はいっつも余裕そうなコイツを崩しにきたんだ。

ばくばく鳴る心臓を必死に落ち着かせ、大きく息を吸った。

「私は!総悟のこと大大大大大大っ…好きアル!浮気なんかしたら許さないネこのやろー!!」

すぐに総悟を確認してみる。


耳まで真っ赤になって唖然としていた…

「い、いきなりデレんなィ…」

「もしかして、照れてる、アルか?」

「っ、そうだよ…」

え、や、なんか簡単に照れちゃった…

「何笑ってんだ…」

「嬉しくてつい」

だってだって。あんなに悔しかったのに、あっさり勝てちゃって。


あながち嘘でもないらしい


パシャッ

「…おい。」

「あ?」

「だけど撮っていいとは言ってないアル!」

「や、可愛かったんでつい」

「こ、のっ、変態ー!」

機嫌をとるように、ぎゅっと私を抱き締める。

「全く失礼な奴だなァ」


(…やっぱコイツ嫌アル。)



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