「ちょっ…!何するアルか!」 なすがままだったがはっと我に返って慌てて手を振りほどく。 すると、沖田…先輩が振り返ってきた。何か言われるのだろうか… 「んな警戒しなくていーっつの」 「…何か用事デスカ」 「お前アイツのことフったんだって?」 先輩のいうアイツがすぐに頭に浮かぶ。とは言っても誰かは分かるってだけで顔はそれほど覚えてないのだけど。 先輩はなんて言うかナ… 「そう、アル」 「ふーん」 思ったよりも全然興味無さげ じゃあ聞くなヨ! 「じゃあ俺ともアド交換しようぜィ」 「なんでアル」 「アイツよかったのに、俺は駄目なのかィ?」 断るつもりだったのに、先輩の威圧感が凄すぎる。 これほとんど脅迫アル! 「わ、分かったネ…」 結局私が根負けしてしまう。まぁ、大したことはないか…。うん。 「よろしい」 赤外線送信にて交換し合うと満足そうにうんうんうなずく先輩。 なんでこんな上から目線なんだヨ!俺様なんだヨ! 「よし、じゃあこれからどっか行くかィ」 「は?いいです、遠慮しときますヨ。」 「どーせ暇だろィ」 結局は最初から最後まで強制的に連れ回される私。 …嫌じゃなかったのかもしれない。 こんなほとんど今さっき会ったような女といきなり遊ぶようなチャラ男に。 きっと疲れてるんだヨ ******** 家に入ってソファに寝転がる。 ちらっと時計を見ると、もう7時を過ぎていた。こんなに遊んでたのか…… ケータイを確認。 …着信も受信もナシ。 えっ、違う!アイツのを待ってるとかじゃなくてそよちゃんからあの後何か来てないかなぁって思っただけだから!! …私は誰に言い訳してるアルか 『〜♪』あ、メール!! …先輩! メールを確認してみる。嬉しいわけじゃない… 【俺ですぜ。さっさとメール寄越しやがれ】 ウザいアル!!ときめき返せヨ…ときめいてないけど! 【うるさいアル!なんでそんな偉そうなんですか!俺って言われても分からないネ!!】 【誰か分かってんじゃねェかィ。今日アンタ嫌がってたわりには最後の方楽しんでたねィ。】 【そんなワケないダロ!】 【嘘つけィ、馬鹿だろ。バレバレでさァ。】 【馬鹿はお前の方だろうがあ!!】 【いやいやアンタには負けまさァ。】…… ******** 家を出て、学校へと足を進める。 眠い…。 あれからメール合戦は深夜まで続いた。 ただでさえ学校には遅刻気味なのに、早く起きられる筈もなくて… 今日は完全なる遅刻だ…もう急ぐ気にもなれない。 もちろんだけど、それでも楽しかったーとかは思ってないヨ。全くいい迷惑アル! そしてその後、1限目のほぼ終わりで登校した私は銀ちゃんにこっぴどく叱られてしまいました。 ******** 「え?沖田総悟ってあの?」 昼休みになって、そよちゃんと姐御と昼食中。なんとなく昨日のことを話してみた。 「知ってるに決まってるじゃない!すごく有名よ?3年生の中でもトップクラスの容姿に、文武両道なの。だからもう女の子にはもててもてて仕方ないって感じよ」 「ほお」 「ただ残念なことに、あの人遊びが過ぎるのよね。鼻にかけてる感じじゃないんだけど、付き合っては別れて付き合っては別れて、の繰り返しで」 「流石姐御!よく知ってるネ!狙ってるアルか?」 「違うに決まってるでしょ。大体の子は知ってるの。神楽ちゃんが疎すぎるのよ。興味はなくても聞くものだと思うけど…」 姐御はふうっと呆れたように溜め息をついた。 「にしても、沖田さんの方から誘うっていうのは聞いたことないですよ?」 「確かにそうよねぇ。でもただ噂になってないだけで、本当はほとんど沖田さんの方からだったりとかするんじゃないかしら?」 「分かったネ、用心するアル!っていってももしかしたら昨日限りのことだったりするかもネ」 「まぁ、気をつけることに越したことはないわ。気をつけなさいよ?」 「大丈夫アルヨ!」 ******** 帰り道に一人で歩いている。 そよちゃんも姐御も委員やら何やらで忙しいらしい。 一人で歩くのってなかなか久しぶりだけど、寂しいものアルナ・・・。 ただボーっと歩いていると、後ろから勢いよく走ってくる音が聞こえる。 気になって振り返ってみると、なんとあの沖田先輩だった! 「おいチャイナァ!!」 誰!?そんな人いたっけ?ていうか今周りに私以外の人がいない…!? 「お前だよ!」 追いついてきた先輩に肩を捕まれてようやく誰がその’チャイナ’なのか理解できた。 「私かヨ!チャイナって何アルか!」 「似非アルアル語だからでィ!っておい、アンタ何先に帰ってるんでさァ!」 「はい?」 「メールみてねェのかィ」 鞄をあさってケータイを確認してみると、先輩の言うとおりメールを受信していた。 「そんなしょっちゅうケータイ確認してないですヨ」 「…ふーん」 とりあえず先輩は私の隣を歩き出す。 「そういえば今日チャイナ4限目体育でリレーだったろィ?」 「そうアル」 「なかなか足速いんだな。でもバトン渡すのミスってたろィ」 「よく知ってるアルナ」 「そのときのアンタの軽く落ち込んだ顔って言ったら・・・」 先輩特有の悪そうなニヤニヤ顔で私を伺ってくる。 先輩が私をわざと怒らせようとしてるのは分かってるけど…! 「う、うるさぁぁぁぁぁい!」 私は気付いていた。 姐御たちには大丈夫だなんて言ったけど、本当は既に手遅れで… 先輩を好きになってると思う 先輩の隣は居心地が良くて、楽しくて、ドキドキする感覚も心地良くて、もっと先輩といたい。 もっと知りたいと思うようになっている。 ただ分かってる。 先輩が"そういう人"だということに。 私のことは本気じゃない。 暇潰しか、珍しいとかそんな理由だろう。 分かってはいるのに拒めない。今の内に先輩が私から離れてくれればいいのに。早く飽きて欲しいな。 精一杯の虚勢。 離れて欲しくない。 でも……もうすぐ終わりが告げるに決まってるから。 長くは続かないだろうけど、私から離れなくては… back |