「大丈夫かィ?」 へたり込んだ神楽にそっと手を伸ばしたが、パチン、と叩かれた。 「う、嘘……」 「は「絶対嘘アル!どうせ、私のことなんて毛ほども思ってないんダロ!これだから女慣れしてる奴は嫌いネ!!もう何処へでも行くヨロシー!!」 そういうと神楽は泣きじゃくってしまった。 なんだよ、それ。 聞いてもないのに俺の気持ちも想いもまるごと無視か あのさっきの女も俺がどれだけ本気が分かったようであったのに、当の本人は流石に鈍感が過ぎることに沸々と怒りが湧いてきた 神楽は微動だにしない俺にさらに駄目押しの一言。 「ひっく…早く出ていくネ……女の子なんて沢山いるデショ?」 プツン、と。 自分の中で何かが切れた音がした。 「な、なにするアル!?」 神楽の拒絶の言葉なんて無視して、無理やり腕を引っ張り立たせる。 「こっち見ろよ」 凄んでみせると神楽は言葉を詰まらせた。 「勝手でィ、神楽は。よくもまァそこまで言えるもんでさァ」 「…違うんですカ?」 「違うに決まってんだろィ!…なんでこんな拒むんだ」 コイツの鈍感にものすごくイライラする。 その割りにはさっきから決めつけてくることが多かった。 「だって…私と先輩じゃ、不釣り合いネ………」 …は? 「そんな、くだんねェ理由かよ…」 「な!くだらなくなんか「くだらねェだろィ!!不釣り合いってなんでさァ、関係ねェだろそんなもん。俺の気持ちは全部無視しやがって」 神楽は言葉を詰まらせ、困惑した顔をしている。 「原因悩んでた俺が馬鹿みてェ…」 はぁー。泣きたいのはこっちの方だってんだ。 「ほんきでなやんだモン…」 「俺ってそんな信用なかったんだ?」 「そっ、そんなことっ…「あるだろィ!」 意地っ張りな上に負けず嫌いなコイツはもう突っぱねるしかないというのか、今なお反論してくる。 混乱しているのが見て取れた。 「大体どっちから告ったか考えてみろィ。告られる専門のこの俺がわざわざ自分からってこたァ好いてるに決まってんでィ」 「そんなの分からないアルヨ!」 むかつく。俺がどれだけこの短期間で惚れたか知らねーのが。 「だって!今こそ違うけど前は私のこと名前で呼んでなかったアル!」 「名前で呼んだら照れて上の空になんだろィ!」 「え」 そ、そうだったっけ?と笑顔で誤魔化そうとしている神楽。 自分のことも分かってなかったのか… 「じゃあ!前まですっごく意地悪だったのに付き合いだした途端に優しくばったのは!?」 「〜っ!大体分かれよ!構って欲しくてしてたんでィ!付き合いだしたらその必要性は皆無でさァ」 「!!?え、えと…」 少し顔を赤らめながらも神楽はまだ頭を巡らせているようだ。 いいだろう、むかつくがこうなったら全部一蹴してやる。 「じゃあ…先輩、私と付き合ってもキスすらしてないネ。私そういうの疎いけどつまらないから、とか……付き合ったらすぐ、なんデショ?」 …はぁーぁ…。馬鹿にも程があらァ。 「なんで他の女とテメーが同じ扱いなんでィ!好きな女は、大切にしてェだろィ…」 「………」 「特別なんだよ」 神楽は顔を真っ赤に染め上げ何も言わなくなって俯いた。 とうとう諦めたらしい。 「ご、ごめんなさいアル…」 神楽はしょぼくれ、本気で反省しているのは分かるがまだ言い足りないことが多々ある。 「次は俺な」 「え?」 驚きつつも神楽はちゃんと聞こう、とする意思が見受けられる。 「さっき自分はモテないみてェなこと言ってたけどな、これ」 「?」 神楽に見せたのはある手紙。 要するにラブレターだ。 ただし、 「言っておくが俺宛じゃあねェんだぜィ」 「?…あっ!?」 宛名を見て気がついたようだ。 そう、これは神楽宛のもの。 それを何故俺が持っているのかというも簡単な話だ。 「なんで先輩がそれを…?」 「先に靴箱行って没収してんでィ」 「なんで……」 愚問過ぎらァ。 まぁ半端なく鈍感のコイツには分からないかもしれない。 「そりゃ、神楽には俺以外の告白なんか要らねェし」 神楽は驚愕し、ぱくぱくと口を開閉してまた混乱しているようだ。 「俺、神楽限定でこういうのも許せねェんだよな。釣り合わないってどこが?ただでさえ可愛いのに俺と付き合いだしてから目立つようになって俺も大変でィ」 だって神楽のことだから告白されたら律儀に返事を返すだろうしそれは呼び出しであっても変わらないだろう。 だからこそ秘密で手紙抜きとってたのになァ。 「せ、先輩…」 「でさ。神楽、浮気した?」 数日前の、抱き合ってたときのこと。 ずっと聞きたかった。 そしたら、思いもよらない答えが返ってきた。 「う、浮気じゃないアル!もう別れたモン!!」 …は? 「"もう"別れた」? つまり。 「付き合ってた、てか」 「え……あっ!」 まずった、といった表情の神楽で確信した。 要するにあの期間付き合ってた、ってことか。 あんときショックすぎて神楽の靴箱確認する気にもなれなかったのがいけなかったか。 「じゃあありゃあ本当の浮気だったんですねィ?」 嫌味を込めて責めるように言うと、神楽はさらに縮こまった。 「ご、ごめんなさい……」 「どこまでしたわけ?」 「へ」 「田中って野郎と」 「!」 どういう意味だろうか、神楽は顔を真っ赤にした。 …まさか。 「まさか全部とかは…」 「し、してないっ!それはないアル!!」 流石に雰囲気を読み取ってか焦ったように全力で否定しているところを見ると本当のようだが… 内心むちゃくちゃイラつく。 「それでも浮気したことには変わりねェんですがねィ」 「…ごめんなさい」 うな垂れる神楽も可愛い、なんてホントに重症だ。 ただイラついてはいるけど。 それ程の想いも神楽には全く伝わっていなかった、ということか 「わ、私も!先輩のこと好きアル!!でも先輩と違って初めてで、どうしたらいいか分からなくて…そしたらどんどん悪い方向ばっかに考えがいっちゃって……」 また潤み始めた神楽の瞳は真剣そのものだ。 大好き、という言葉に怒りが少しずつ抜けていく なんて単純なんだろう。 たまらず神楽を引き寄せ抱きしめる。 「…大好き、アル」 「うん、俺も好き」 もう、二度と逃がしてなんかやらねェし。 「…な、神楽」 「ん?」 「今日、俺の家泊まってけよ」 「え゛っ?」 え、じゃねェよ。 やっぱりこんだけで水に流せる程できちゃいねェや。 back |