なんで逃げちまったのかねィ… あの場で出ていきゃあよかったのに。 …怖かった。 神楽が俺を拒絶してあの男を選ぶことを目の前で見るなんて…… なんで神楽はあんな… 俺は一体何したんだろうか。 またそんな場面に出くわすのはご免だが、それでもなお神楽を諦めるなんて選択肢は一切ない。 今日こそは原因を突き止めてやる。 とは言っても今は放課後。 神楽もう帰っちまったかもしれない。 ふらふらと彷徨いていると、締め切った空き教室が目に入った。 誰がいるのだろうかとこっそり覗いてみると。 神楽、と……誰? 見覚えがあるようなないような。 そんなことよりも神楽の泣きそうな顔が気になる。 苛められてんのか? さっさと入って殴りにいこうと思ったが、何か話していることに気がついた。 こっそりとその教室の扉を少し開け、耳を隙間に近付ける。 「……先輩とは、別れましたアル…」 「そ、貴方なかなか…」 は? 先輩、別れたって… まさか俺とのこと? なんでこんな女に俺らのこと言ってんでィ。 大体別れてねェし。 「うらら先輩は…沖田先輩とは……」 やっぱ俺のことか つーか神楽、何言ってんでィ… 俺が別に誰と付き合おうとどうでもいいってのか? 「んー。まだ言ってないのよ。そのうちまたより戻すけどぉ」 まずお前が誰か知らねェよ。 そこまで偉そうにできる理由が知りたい。 好き勝手言いやがって。 神楽、言っちまえよ。俺が誰のモンなのか… 「そ、そうですか」 泣きそうな顔で必死に堪えている神楽は何を言う気もなさそうだ やっと分かった。 神楽が別れを切り出した理由が。 チッ、しゃーねェ 本人がはっきり言ってやらァ それで終わりだこんな茶番 「よォ神楽。こんな所にいやがったんですねィ」 俺は何もかも聞いていたというように平然と教室に入ると、二人とも目を丸くした。 しかし知らねェ女の方は勝機と見たか、慣れ慣れしくも俺の腕に引っ付いてきやがった。 「総悟!私ね、総悟とまた付き合いたくて…」 なんでこの女はこんなに馬鹿なんですかィ… 「アンタ誰?」 「「…え?」」 俺にしては至って普通の返答をしたのに二人はガッチリと固まってしまった。 それでも女の方はなおも粘ろうとする。 「ほ、ほら私、先々月まで付き合ってたじゃない……」 先々月… そん時は多すぎて分かんねェや。 でも一つ思い出した。 どうりで見覚えがあるわけだ。 「そ、そんなわけ「覚えてねェっつってんだろィ。だがアンタのことは思い出したぜィ。俺が誰かと付き合いだしたらいちいちこんなことやってるやつだろィ?」 女はとにかく俺が自分を知っていると聞いてか一瞬嬉しそうな顔をしたが、俺を見て顔が青ざめる。 「ストーカーも大概にしろよ。テメーみたいな女好きになるわけねェだろィ。ちょっとは行動を省みたら?今まではどうでもいい女だったから面倒くせーし何も言わなかったけどなァ今度コイツに手ェ出したら…覚悟しろよ」 ビクリと身体を震わせて、後ずさるが俺を睨みつけてまだ口を開く。 「なんで…!?こんな子の何所がいいの!!?」 「全部。」 コイツは本物の馬鹿らしい。そんなこと決まっているだろう。 だから俺に何を言わせたいんだ。 やっと覆せないことを理解したらしい。 わなわなと身体を震わせ、教室から出て行った。 …さてと。やっと問題児と二人っきりでィ。 後ろを振り返る。 神楽の方は状況を理解できていないようだ。 ただ俺の機嫌が良くないのは分かっているらしい。 「神楽」 「は、はい」 「こりゃあ一体どういうことで?」 「え、えっと…せっ、先輩がうらら先輩を好きだって言うから!!」 …すっかり騙されてやがるな。 素直過ぎるのにも程があんだろィ。まァいいところでもあるんだが。 神楽が逃げようと後ずさるもんだからこっちも徐々に間合いを詰めていく。 「いつ俺は神楽と別れた?」 「え?」 「いつ俺があんな女を好きだって言ったんだ?」 「あ…え、えーと……」 「いつ俺が神楽を好きじゃないなんて言ったわけ」 「前アル!」 いや、そりゃ前だろうけど。 言った覚えねーし。 完全に俺のことタラシだと思ってんだ。 まァ、神楽に会うまではそうだったけど… 「本当に言った?」 そういうとアレ?と神楽は首を傾げて黙り込んだ。 そのうち全部が女から聞いたことであることに気がついたらしい、下に視線を落としたまま動かない。 「おっと、そうはいかねェぜィ」 またしても逃げようとする神楽の腕を一足先に掴むと、神楽はそのうちへたへたと座り込んだ。 back |