「は?な…神楽……?」


今、なんて言った?

俺疲れてんのか?


「別れ、ましょうヨ」


悲しそうな、泣きそうな顔で神楽は俺を真っ直ぐに見て言い放った。

意味が分からない。


「なんででィ!どういうことでさァ」


いきなりだ。

久しぶりに会ったと思ったら。


「先輩、私と無理して付き合わなくてもいいアル。私は大丈夫ネ」


一体何の話をしているんだ。

俺が大丈夫じゃない。
別れることは絶対に避けたい。


でもどう言っていいのか、言葉が出なかった。


「今まで、楽しかったアル……」


そうこうしている間に神楽の中では終わったような結論が出てしまっているようで…


「神楽!俺は別れねェからな!」


絶対に、だ。
これだけは伝えたい。


「っ…!さよなら!」


すると神楽は逃げるように屋上から去って行ってしまった。



追いかけたい。

追いかけて問い詰めたい。

だが突然の出来事に、俺は神楽を追いかけることができなかった。


呆然とした頭でゆらりと考える。

どうして、いきなり神楽は俺に別れを告げたのか。

揺れていた瞳が頭から離れない。


俺、なにかしたんだろうか。

神楽がショックを受けるような。
別れを告げる程の。


…思い浮かばない。

俺だってそれなりの経験は積んでいる。
女の嫌いそうなことくらい分かる筈。
特に神楽には気を遣っていたのに。


それよりも神楽に別れを告げられたことがショックでショックで…‥

とりあえず、頭の整理が優先だ





やっぱ駄目だ。
心当たりが全くねェ…。


今日一日中考え続けたが何もない。


こうなったら直接訊こう。

今日も遅くなった。
この時間なら神楽も家にいるだろうし。



あんなに送ってたら家の場所もばっちりだ、ということで神楽の家へと向かった。


なんて言えばかねィ…。

やっぱ謝るべき?でも原因も分かんねェのに先に謝っちまうってのは逆効果なんじゃ…


神楽の家の近辺にまで来るまで策を巡らせていると、微かに神楽の声が聞こえた。
誰かと話しているようだ。


二人で話してェし相手が帰ってから神楽に声かけた方がいいよ、な……


すっかり女友達かと思っていた。
でもいたのは男だった。

しかもあの男。
前に神楽の靴箱にラブレター入れてたやつの一人だ。

まさか友達、ってわけじゃないんだろうなァ?


会話の内容こそ聞こえないものの神楽が他の男としゃべって、さらに楽しそうなところがなんとも気に食わない。

なんでィ。楽しそうにするなよ…


それでも待っているというのに、神楽はまるで俺に嫌がらせのように男に抱きついた

いや、抱き締めあってる…



仮にも俺と付き合ってんのにそりゃあねェんじゃねェの?

どういう気持ちか知らねェが男となんて浮気だろィ…‥


今すぐに二人を引き剥がしたかった。

でも、なぜか、神楽の前に姿を現せることができない。

俺はやはり何かしてしまったのだろうか。


静かにこの場を立ち去った。






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