ああ、私はまさにこういう人を求めていた。ノリの軽い男子もそれはそれで友達としては面白いけれど、私の理想は、そう、こんな真田君みたいな人だった。お付き合いをするなら、絶対に真田君のような人がいいと思っていた。
中学生の頃からあこがれていて、でもやっぱりそういう面には奥手そうだったから(そんなところがいい)、中学時代はとにかく友達になろうと頑張った。だけど私はもともと人と関わるのが好きだったし、真田君も慣れてしまえば案外気さくで、ちょっぴり天然で可愛らしい人だったし、仲良くなるのにそこまで時間はかからなかったように思う。だけどまさかお付き合いをオーケーしてもらえるとは思ってなかったなあ。嬉しくて頬が緩む。
屋上のフェンス越しにグラウンドを見る。春の陽気にあたりながら、少し冷たさの残る風を体に感じて、心地よさを覚えた。隣で同じようにまっすぐに立つ彼を見上げる。真田君、かっこいいなぁ。心の中で密かに呟いたとき、彼の目がこっちを見た。逸らす事も出来ずに、なぜか見つめ合ってしまう。笑うと心なしか真田君も笑ったような気がする。

「なんだか照れるね」

「うむ、こうしているだけというのに気恥ずかしいものがあるな。だが、そのうち慣れるよう鍛錬する」

「あははっ、大丈夫だよ!時間が解決してくれるって!だから無理に合わせようとしなくて良いよ。真田君のペースでいこう」

そう、こんな風に、人に合わせようとしたりしてくれる、すごくいい人なんだ。そして健気で可愛い。

「お前は、本当にいい奴だな」

「真田君ほどじゃないよ」

他の人から見たら、ただの友達同士の会話に聞こえるかも知れないけれど、私たちにとってみれば、とっても甘い会話なんだ。その証拠に、ほんのちょっぴり赤い頬。

「そういえば昨日…」

「真田みいいいいっけたー!」

照れ隠しではぐらかすように話題を変えようとした真田君を、なんだか高いテンションが遮った。この声は。

「ゆ、幸村?何だお前たち。そろいも揃って」

そう、幸村君である。さらに柳君、仁王君、丸井君、桑原君がついて来ている。柳生君はいないんだろうか。中学生時代には同じクラスだった柳生君とは少しお話ししたかったんだけど。図書室かな。

「やだなあ、彼女を拝みに来てやったに決まってるだろ。で、彼女は?」

きょろきょろと周りを見渡す幸村君に、私と真田君は目を合わせる。その目は不思議に思っていることをありありと映し出していた。

「?ここにいるではないか。すまないな、遊佐。紹介をしてもいいか」

「もちろん。遊佐佳奈子です。真田君とお付き合いさせてもらってます。よろしく」

軽く下げた頭を戻すと、皆がみんな口をあけて私を見ていた。一人例外なのは柳君で、いつも細い目をこれでもかというくらいに開いて、すさまじい速さでノートに何かを書き連ねている。こ、怖いよ…。