それからはほぼ毎日真田君と帰るようになった。二人で帰るときは部活帰りでもう遅いから寄り道なんかはしないし、学校からそう遠くない最寄の駅までだけど、とても特別な時間。もちろんお互いに友達と約束があればそちらを優先するし、用事があるときも用事を優先する。本当に理想の"清いお付き合い"が出来ていると思う。

「あら?佳奈子?」

それは本当に偶然だった。真田君と二人で帰宅していれば、たまたま仕事で外回りに出ていたお母さんとばったり鉢合わせたのである。

「え、え!?まあ!噂の真田君!?やだ!思ってたよりずっとイケメンじゃない!?」

「おおおおお母さん!ごめんね真田君、私のお母さん!」

「は、はじめまして。佳奈子さんとお付き合いをさせて頂いております。真田弦一郎と申します」

「やだもー!お母さん嬉しいー!ねね、うちに遊びに来ない!?」

「い、いえ、あの、本日はもう遅いですし」

「んじゃ今週末!おいでなさいよ!」

「お母さん!勝手に決めちゃ真田君に失礼だって!」

「部活?テニスで有名なのよね?それ終わってからでもいいわよ!なんなら泊まる!?」

「い、いえ、土曜は休みですので…」

「じゃあ丁度いいじゃない!遊びにおいで!土曜日空けとくわ!じゃあねー!」

嵐のように去っていったお母さんに、真田君もぽかんとしている。私も暫く事態が飲み込めなくて、真田君のぽかんとした顔を眺めていた。

「はっ!え?」

「あっうっあっ!その!ごめんね真田君!」

「いや、構わない!」

お互い暫くわたわたして、ある時冷静になって笑いがこみ上げてきた。二人で一頻り笑って、ふう、と息を吐く。

「あの、いきなり家は真田君にも悪いから、よかったらどこかに遊びに行かない?」

「うむ、いいのか?」

「うん、お母さんには私から言っとくから。そのほうがいいじゃない?」

「是非そうさせてもらえると助かるな」

「うん、じゃあ決まり!」

デートだー!強引なお母さんには恥ずかしくなっちゃったけど、ある意味感謝だ。土曜日にはうんとオシャレしよう。早速、何を着て行こうかなんて考えながら、真田君と駅を目指した。