今日は真田君と部活の後一緒に帰る約束をした。付き合い始めてから初めてだ。一緒に帰ろう、と声をかけると、うむ、と優しく頷いてくれた真田君。今思い出してもにやけちゃう。

「佳奈子、真田と付き合い始めてから歌が甘い」

「え、そうかな」

「うん。なんかこう、哀歌が幸せな歌に聞こえる」

「え、それはあんまり良くないやつだよね」

歌っている間は、真田君のことあんまり考える暇もないんだけどな…。打ち込んでいるつもりでも、やっぱり集中できてないのか。それじゃだめだ。私は真田君のように、何事にも真剣に取り組めるような人間になりたい。かっこいいよね、そんな人。

「じゃ、楽しんできなさいな」

「ありがとう!また明日ね!」

ひらひらと手を振って去っていく友人に挨拶をしてテニスコートを目指す。近づいていけば運動部特有の太くて大きな声が聞こえてきた。

「たるんどるぞ仁王!もっと声を出せ!」

「うっげー」

日も落ちて、辺りはすっかり暗い。ナイト用の照明に照らされたテニスコートについたとき、真田君はちょうど仁王君を叱っているところだった。整理体操中みたい。ああいうきりっとしたところが本当にかっこいい。

「あ、あれ真田の彼女じゃね!?」

こっちを指差して叫んだのは丸井君である。こんな暗い中、よくわかったな…!一斉に注目するので、苦笑いしか出ないが手を振った。真田君はこちらを一瞥し、目が合うと口元を少しだけ緩めた。ひゃああ〜!かっこいい…!

「クールダウンに集中しろ!」

すぐに部員に向きなおした真田君が怒号を飛ばす。練習が終わるまでは邪魔になるかと思って、校門近くのベンチで待つことにした。春は日が落ちてしまうと寒い。昼間のぽかぽかした陽気が嘘のように冷たい風に吹かれて、思わず手を擦り合わせた。

「すまない、待たせた」

真田君が急いだ様子で私に近寄ってくる。流石運動部だからか息は切れてないけど、この感じはたぶん、走ってきてくれたんだろうな。優しい真田君に、つい笑みがこぼれる。

「大丈夫だよ。じゃあ、帰ろっか」

私が笑うと真田君はまた微かに微笑んだ。どきどきと高鳴る胸を押さえつつ、星空に囲まれた夜の街を二人で並んで歩いた。