意外だった。真田の彼女なんて、てっきり、メガネで黒髪おさげで制服きっちりな真面目ちゃんかと思っていた。しかし彼女と名乗る女子は、普通の、ごく普通の、高校生らしい女子だったのである。髪の毛は染めてはいないっぽいけど、制服は軽く着崩しているし、スカートもそこそこ短い。短すぎないのがまたいい。カーディガンも袖から出してるし、なんていうか、こう…ほんと、いい意味で普通だ。

「幸村君大丈夫?放心してる?」

苦笑いで幸村君の目の前で手を振る彼女に、はっとした様子の幸村君。

「ああ、ごめん。あまりに君が普通だったから驚いちゃって」

「ええー、どういう意味ー?」

顔をしかめつつも笑っているあたり、怒ってはないらしい。うん、なんかほんと、普通に良い奴そう。




「普通に可愛いんじゃけど」

「うん、俺も思った」

あれから、押しかけた割りにすんなりあっさり俺たちは屋上から退散し、中庭のベンチを陣取った。話題は変わらず二人のこと。

「なんか、意外だったよぃ」

「俺もだ。こればかりはデータでどうなるものでもないな」

「まさか柳からそんなセリフが飛び出すとは」

わいわいはしゃいでいると、渡り廊下を通る柳生発見。

「おーい!柳生ー!」

大声を上げて手を振ると、気づいた柳生がこっちに近づいてくる。

「皆さん盛り上がってますね。…おや、真田君はいらっしゃらないのですか」

「おう、彼女とランデブーじゃ」

「彼女…?」

首をかしげた柳生に、ああ、そういえば昨日からいなかったな、と思い出す。

「あいつ彼女できたんだよぃ」

「…真田君に彼女ですか?どんな方なのでしょう」

やっぱ紳士でも気になるよなぁ。うん、こればっかはしょうがねえと思う。

「遊佐佳奈子って子なんだけどね、これがまたすごい普通の子で」

「ああ、遊佐さんですか」

「何だ柳生知ってんのか」

ジャッカルの問いに、ええ、と答えた柳生。

「中学三年生のときの同級生なので」

「何だそういうことか」

「遊佐ってどんな感じの奴なの?」

ガムを膨らましつつ聞くと、柳生は顎に手を添えた。

「とても良い方です。制服の着方でたまに注意はしていましたが、そんなに目立つ着崩しをしているわけでもなかったですし。ああしていて、きちんと勉強は出来ますし。委員会にも積極的に参加していました。それから、彼女は声楽部なんですが、こちらもなかなか良い成績を収めていました。そして性格ですが」

滑るようにして柳生の口から流れていく褒め言葉たち。確かにもともと人のことを悪く言わない紳士だが、ここまでベタベタに褒めているのを見るのもなかなかなかったからびびった。

「明るく、社交的です。誰とでもすんなり打ち解けられる方ですよ。それなのに空気のように目立たずにそこにいるというか、浸透しているというか。そして意外と真面目で堅実で、純情な方です」

いいことしか聞いてないからかすごい胸焼けがする。でも、やっぱ良い奴なんだな。それは雰囲気でわかった。そんで、真田がオーケーするくらいだ。絶対悪い奴なわけがない。喋り続ける柳生を横目に見ながら、ガムを弾いた。