斉藤さんと一緒にいるところを他人に見られたとして、特に困ることはない。私の目を通して見た斉藤さんは、渋い声で喋る人面犬だが、他の人から見れば、そこらにいる可愛い犬の内の一匹でしかないらしい。だから現にこうして横に並んで歩いていたって、斉藤さんがいくら喋ったって、他の人は気にも留めないのである。
今日も斉藤さんは学校に遊びに来た。友達などいない私はいくらでも、気兼ねなく、斉藤さんの相手ができる。
「いや、本当に斉藤さんいい加減にしてよ。私のお昼ご飯毎日とってかないでって言ってるじゃん」
「飯は代償だ」
「ん?」
「お前が友達がいないから話し相手がいなくてサミシーってめそめそしてるから俺がわざわざこんなとこに足運んできてやってんだろうが」
「…ばっ!馬鹿にしないでよ!斉藤さん以外にもちゃんと話し相手くらいいますぅー!」
めそめそなんかしてませんー!それに今日も先生と挨拶したもんねー!
「友達はいねぇんだな」
「…斉藤さん、今日のハンバーグほんとにうまくいったんだよ。たまねぎ入ってるから斉藤さんにはあげないけどね。やーい」
「そんなんだから友達いねぇんだろうが」
「何でそんなこと言うかな!」
一人ぷりぷりと憤慨しながらハンバーグを頬張っていると、斉藤さんがふと目線を外した。特に気にすることなくハンバーグを頬張っていると、
「おいお前ら何覗いてんだ」
なんて斉藤さんがつぶやいた。目線は私の背後。うまくできたハンバーグを頬張りながら振り向けば、男子学生が二人。あ、待って!この人朝の怖い人だ!どうしよう隣の人も髪が赤い怖い!
「っ!?」
「おいおいおい嘘だろ!?」
そう言って驚いた顔をしながら、二人は逃げ出した。何っだったの…?…はっ!まさか私を暗殺しようとしていた!?
「どうしよう斉藤さん私殺される!」
「落ち着け。……だが、今の反応……」
なにやら考え込んでいる様子の斉藤さん。私はとりあえず空になったお弁当箱を近くの水道で軽く流した。
「はあ、午後の授業もだるいなあー」
「…なあ流兎よう」
「なあにー」
「お前の周りの奴が、急にびびりだす事はあるか?」
「?」
斉藤さん、急に何を言い出すんだろうか。思い当たる節を記憶をたどって探ってみる。
「あ。一回だけあるかも」
「どういったときだ?」
あれは小学生のとき。入学して、初めて同じクラスになった子達が、私と友達になりたいと言ってくれた事があった。だけどその子達は、暫くしない内に、
「皆私の近くに寄って来なくなったんだよね。変な物が見えるとかで。絶交!て言われたわ…そっからは何事も無くなったみたいだけど誰も近付いてこなくなった……」
「……隣の席の奴とかは?」
「?…特に何も?」
斉藤さんは何かが分かったようなすっきりした顔をして、私に背中(いや、むしろお尻)を向けた。瞬間、昼休み終了のチャイムが鳴って、私も校舎に向かおうと斉藤さんに背中を向ける。
「流兎」
「何?」
「気をつけろよ」
それだけ言って斉藤さんは走りだした。後ろから見ればただの犬なのにな。
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