その後はとりあえずジャッカルと柳を引っつかんで全速力で逃げた。いきなり叫び声を上げながら向かってきた俺達に、ジャッカルは言わずもがな、柳でさえ驚いていた。


「お、おい、いきなりなんなんだよ」

「何をするんだ丸井…!」

「はっ、はあ、やべぇよ、」

「うおあ、はあ、なんなんすかあれ…!?」


信じらんねぇ。犬の顔がおっさんだった。赤也と目を合わせて、やべぇやべぇと言い合う俺に、痺れを切らして若干イラついているらしい柳が腹の肉を摘んできた。


「いっでぇ!何すんだコラ!」

「何故俺達をつかんで走り去ったのかと聞いている。何があった」

「柳先輩やべえっす!アイツほんもんだわ!」

「は?」

「お前ら何見たんだよ」


ジャッカルてめぇ呆れ返ってるみたいな顔してっけどマジやべぇんだかんな。やべぇやべぇ言い過ぎてよくわかんなくなってきた。


「さっきの犬だよ」

「おう、可愛かったな」

「はあ!?ちゃんと顔見たのか!?」

「は?こっち向いたじゃねぇか」


普通に可愛い犬だったな。とジャッカルは言う。柳にも聞いたが犬だったと。俺と赤也は眉間にしわを寄せて首を傾げる。


「お前達は違うものを見聞きしたようだな。詳しく話を聞きたいが、もう昼休みが終わる。とりあえず教室に戻ろう。話は部活前に聞く」


柳の指示に従い、俺達は各自教室に戻った。だが午後の授業にも集中できるわけがなく、ぼーっとして過ごした。頭に何度もさっきの光景が浮かぶ。完全におっさんの顔だったな…。思い出すたびにぞっとする。






「昼休みの内に何か面白そうなことがあったみたいだね」


部活が始まる前のちょっとした空き時間、幸村君がニヤニヤしながら声をかけてきた。


「幸村君こないだ興味なさそうだったじゃん」

「うん。だってどうでもよかったんだもん。でもほら、奇行を繰り返してる女の子の近くでお前らも奇行を取り出したとか面白すぎでしょ。こないだは流してたけど、今回はちゃんと聞いてやるよ」

「幸村ぶちょー絶対信じなそー」

「では話を聞こう」


柳の一声に、俺と赤也は必死にあの時起きたことを喋った。幸村君は聞きながらしょっちゅう笑いを堪え、柳は心情の読み取れない顔で話を聞いている。ジャッカルはぜってー信じてない顔で苦笑いしてる。


「って、わけなんだ」

「いや、まじでやばかったっす」

「ふむ、にわかには信じがたい話ではあるが、よくある都市伝説のようなもので、人面犬というものがあるな」

「確かによく聞くよね、人面犬。ぷぷっ、俺もその岡野さんとやらに会ってみたいな」


幸村君笑い堪えられてない。赤也とジト目してたら睨まれた。こわ。


「不可思議なのは、なぜ丸井や赤也にだけそう見えたのか、ということだ。俺とジャッカルには、普通の犬にしか見えなかったからな」

「俺たちとブン太たちの違いか。そういえばあの時、俺たちは岡野に近付かなかったよな」


なんかジャッカルが正論言ってる。信じてないくせに正論言ってる。ハゲ。


「ふむ、岡野流兎との距離か。その線が一番濃いだろうな。少し調べてみるか」

「珍しい。柳がオカルトに興味を持つなんて」

「ふ、なに。息抜きのデータ収集というやつだ」

「データ収集の息抜きにデータ収集ってのも変な話だよな」


そう笑えば、確かにな。と本人も笑っていた。どんだけデータ好きなんだろう。データバカだな。