妊娠中は旦那が浮気をしやすいっていう話は、先輩ママやネットやらの情報でなんとなく知ってた。だからそうならないように妊娠中でもつらく当たったりしないように頑張ったし、悪阻に襲われながらも料理だってした。それなのに、それなのに…!

「パスワードが、変わってる…」

うちは夫婦で携帯を見合えるよう、パスワードをお互いの誕生日にしていた。自分の携帯にもしもの事があったときや、どちらかの携帯が近くにあって調べ物なんかをしたいとき、ささっと使えるように。今回もちょっと調べたい事があって借りようとしただけなのに。

「見られない…まさか、」

浮気?うちの雅治に限って?

風貌があんなだからよく周りに遊び人のように誤解されやすいけど、雅治は自分の仲間、家族を大切にする人だ。それは付き合っているときから感じていたし、間違いないと思ってる。私が妊娠したとわかったときだって凄く喜んでくれたし、毎日私のお腹を撫でて新しい命に声をかけてくれる。毎日交互にやると決めてたお風呂掃除だって、危ないからって毎日してくれるようになった。そんな人が、浮気…?

「名前、風呂沸いたけど入れるか?…名前?」

雅治の携帯を握ったままボーッとしていた私は、雅治が隣に来て肩を叩くまで気が付かなかった。

「なんじゃ?どうかしたんか」

「あ、ごめん、借りようとしたんだけど、あの、パスワード、変えたみたい、ね?」

さっきまで不安な事ばかり考えていたからか、ここで雅治が慌てふためいてとっさに隠そうとしたり、言い訳しようとしたりしたらどうしよう。それこそきっと本当に浮気だと思わざるを得ないのかな。そんな考えばかりが頭をよぎり、声が震えてしどろもどろになってしまう。

「あー、すまん。教えてなかったな。忘れとった」

雅治は頬をかきながら、何でもないように私の手から携帯を取り、ぽちぽちと四桁の番号を打ち込む。見覚えのある数字。

「これって、」

「ん、腹の子の出産予定日。違う日に産まれたらまた変えんといかんけど」

「雅治ぅ…!」

「うぉっ、なんじゃ!」

急に涙が出そうになって、雅治に思い切り抱きつく。やっぱり雅治は雅治だ。見た目に反して優しくて家族想いで、私の事をちゃんと考えてくれる。たまらなく愛しくなって、そのままソファーに押し倒すようにキスをした。


あのね、君のパパは凄く良い人なの。もう声は聞いてるでしょ?お腹から出てきたら、三人で仲良く暮らそう。ママ、頑張るからね。

パパのパスワードの日まで。





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