お昼休みになったら、サンドウィッチ片手に教室を飛び出して、テラスにある繁みのその隙間から彼を見るのが私の日課であり役目であり使命です、なんて、そんなのただのストーカーをいいように形容してるだけかな。弁解しておくけど、帰りに後ろをニヤニヤしながらついて行ったりとか、そんなことはしてないよ?お昼休みだけ。このお昼休みだけが私の、唯一の、お楽しみ。
「………………」
「………………」
あぁ、綺麗なお顔。整った顔立ちは、テレビで見るどんな俳優より格好良く見えてしまう。
「…………なあ」
「……………!」
わ、喋った…!やっぱり低くて甘くて格好良い声。
「…なぁって、」
「…………?」
「君や、キミ。名字名前ちゃん」
「っ!?」
驚いて立ってしまった。そしてバッチリと合ってしまう目。一寸たりともブレない瞳に、ガタガタと震えそうになる足。ああ、大変。何が大変かって、この感じは完全にばれてる。きっと軽蔑されてしまう。これからは私のことを警戒して、もうこのテラスには来てくれないんだ。
「あぁ、そんな警戒せんといて」
「いや、あの…っ!」
警戒しているのは貴方なのでは?
そんなこときけるわけもない。震える体を叱咤して平常を保つ。
「君、いっつもそこにおるやろ?」
「あ…の、ごめんなさい…!」
「謝らんといて。俺は君がそこにおるからここにおるんやで」
「え?…え!?…でも、こんなストーカーみたいな行為、不愉快に思われたでしょう?」
「本当に嫌やったらとっくに場所かえとるわ。せやけど、君とこの距離保ちながら静かに本読むん、悪ないねん」
どくどくと波打つ血液。心臓を叩いたような衝撃が胸を支配する。
「けど、やっぱ、どうせなら、」
彼が近付く。長く綺麗な手が私の左手首を掴み、茂みから引っ張り出した。
「もっと近くで話そうや」
お昼休みになったら、サンドウィッチ片手に教室を飛び出して、テラスにある繁みのその隙間から彼を見るのが日課であり役目であり使命だった私は今、お昼休みになったら、サンドウィッチ片手に教室を飛び出して、テラスにあるベンチで彼とゆっくり話をするのが日課であり役目であり使命です。
「いつも思ってましたが、何を読んでらっしゃるんですか?」
「ん?あぁ、これか。恋愛小説や。好きな男をかげから眺め続ける純粋な少女の話。もうそろそろラストやねん」
「え…」
「あの台詞はコレ参照。ちなみに、この本買ったんは君のせいや」
「忍足さん、もしかして今私口説かれてますか?」
「ご名答」
「それも何かの台詞なんですか?」
「しいて言うなら俺の名言やな」
「忍足さん、ずっと好きでした。付き合ってください」
「喜んで」
恋愛小説と君
(シナリオ通りの幸せ展開)
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